1. 3年連続、隣の席の女の子
自分の席に着席すると、教室を見渡した。
出席番号13番――グラウンド側の窓から2番目、前から2番目という、
なんとも中途半端な位置。
あえて言うなら、黒板が見やすいくらいしか利点はない。
できれば後ろの席がよかったが、席替えまで待つしかない。
全体が見えるように、イスごと教室の中央へ体を向けた。
クラス替え、大きなイベントの一つである。中学も3年に上がり、
その中途半端な席から見える光景。同じクラスになって浮かれている者も
いるし、廊下で別のクラスのやつと話し込んでいるのもいる。
俺も見慣れた顔を探したが、少し早かっただろうか。まだ、席は半分くらい
しか埋まっていない。まだまだ、これからだ。
……数分後、ほとんど席は埋まったが、親しい友達とは別々のクラスに
なったようだ。知っている顔はあったものの、特別親しいというほどでは
なかった。去年と同じく、部活動生同士で固まっているのが多いようだ。
俺は帰宅部だから、これから仲良くなればいい。
(最悪、受験に専念する、いや、したフリをするという手もあるか……)
イスと体を机に戻し、そんなことを考えていた。あえて言うなら、
まだ隣の女子席が空いている。
(遅刻かも……進級早々)
他人事ながら、そんなことが浮かんだ。
「ハァ――ッ、みんな早すぎぃ……ここの学校の女子って、みんな来るの
早いのよねぇ……」
……と思ったら、大きなため息、息を切らして、机にカバンが置かれた。
知っている顔だった。目が合った。
「あ、陽当くん……だよね」
「日間さん? 」
「奇遇だねぇ! 3年連続同じクラスじゃん! しかも3年連続隣の席!!
これはもう、仲良くなるしかないよねぇ!」
「名前で出席番号近いからね。また1年、よろしく」
彼女のテンションが、少しうれしかった。
「そうだよねぇ! じゃあ、これからよろしくね。早速だけど、
いろいろ聞いていい? 」
「なんでも聞いてよ。答えられるのは、何でも答えるよ」
「じゃあねぇ~、彼女はいるの? 」
「え? いきなりそれから? 」
「だって、定番じゃない? 」
「え? 逆に聞きたいな。女子の間でお……僕が話題に上がる? 」
「ん~、ないなぁ。私も今日が初めてだし」
「それが答えだよ」
「そっか~……じゃあねぇ~、次の質問! 」
「はいきた」
「このクラスで、好きな子はいるの? 」
「え!? 何でこのクラスで限定したの? 今日初めてだよ!
まだ誰がいるのかも確認してないよ!」
「そうきたか~……じゃあ、いるかもしれないし、いないかもしれないで、
後々要確認と。じゃあ少し話題を変えて、この学校で好きな子はいる?
もしかして、いたとか? 」
……だんだん、彼女がどういう子かわかってきた。思えば、中心では
ないってだけで、彼女のグループはいつもこんな風に楽しそうだった。
そのペースは、嫌いではなかった。
「むしろ、こっちがそうきたかだよ。はいはい、帰宅部で何の才能もない
僕は、早く帰って早く寝るだけですよー。だから、先輩にも後輩にも
知り合いはろくにいませんでしたし、いません。
同じく、好きになった人もいませんでしたし、いません」
「ああ~……口を割らないと」
「話題変えません? なんか、一部クラスの人に、一部聞かれてるし」
「あ、ごめんね~。じゃあ、早く寝るって何時に寝るの? 」
「えぇー……そこぉ? 」
チャイムが鳴ってそれぞれ席に着くが、誰も会話をやめる者はいなかった。
俺もこんな調子で、担任が来るまでの間、彼女と会話を続けた。