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63.キセキ体験


 心春の家は高層マンションの十階に位置していた。


 父子家庭とは前に聞いていたが、金銭的に困っているわけではなさそうだ。


「お邪魔します」


「どぞ~」


 心春の家は独特な匂いがする。

 嫌なものでは一切無いのだが、俺が潔癖症だからかそういうのが気になってしまう。


「お茶でいい?」


「うん」


「じゃあ、そこのあたしの部屋で待ってて」


 心春は部屋の扉を開けて、自分の部屋に招き入れる。


「リビングとかじゃないのか?」


「リビングはお父さんも使ってるから駄目」


 心春の部屋に入ると、女子高生らしくピンクや水色など可愛い色の配色が目立つ。


 弓花の部屋は綺麗だが質素過ぎて女子高生感が無いので、心春の部屋はちょっと良いなと思った。


「あたしの部屋に入る男って、咲矢君が初めてだよ」


 お茶を持った心春が戻ってくる。

 どうやら俺が初めてこの部屋に招かれた男のようだ。


「そうなのか。九十六人目くらいかと思った」


「何それ! エース級のビッチだと思われてんじゃん」


「冗談だよ。でも、見た目はそれぐらいいても不思議じゃないけどな。心春の性格知ってるから多くはないと思ったけど」


 心春は金髪で露出も多いこともあり、見た目だけならレジェンド級のビッチだ。


「見た目は確かにねー、ナンパされることとか多いし」


「そのままついてったりしないのか?」


「しないよ。好きな人いるし」


 迷わず俺の目を見てそう答えた心春。


 前から心春には好きな人がいると聞いていたが、その人は誰なのだろうか……


「でも、そういう見た目というか、露出が多かったりするのって男に好かれたかったりモテたかったりするからじゃないのか?」


「自分のためかな。好きな人に好みに合わせてるつもりだけど、ただの自己満足だし」


 好きな人に合わせるか。

 弓花にギャルっぽくなってと言ったら髪染めたりなんかしてギャルっぽくなるのだろうか……

 ちょっとそれは興奮しなくもないな。


「高一の最初の頃は、そんなギャルっぽくなかっただろ。何で急にイメチェンしたんだ?」


「……その理由知りたい?」


 少し心春は表情を暗くする。

 あまり触れてはいけない話題だったかもしれない。


「気になるけど、無理に話さなくてもいい」


「まっ、順序がおかしくなっちゃうけど、今日言う予定だったからいいけどさ」


 どうやら今日の心春は色々とぶっちゃけてくれるみたいだ。


「あたしがこんな見た目になったのはね、お父さんの部屋で金髪ギャルのエッチなDVDを見つけたからなんだよ」


 心春は冗談で返してきたので、やはり本当の理由は言いたくないみたいだ。


「どんな理由だよっ」


 心春の冗談に俺は軽く笑ってツッコミを入れる。


「いや、冗談じゃなくて」


「えっ……」


「去年、お父さんの部屋に勝手に入ってエッチなDVD見つけて、それが全部金髪ギャルものだったの。だからお父さん、金髪ギャル好きなんだと思って髪の毛を金色に染めたの。そうしたら、お父さん喜ぶかなと思って……あたしのことそういう目で見てくれるかなと思って」


「…………」


 心春はとんでもないことを言っているが、表情は真っ直ぐで本気だ。


 まさか心春は……

 いやまさか、まさかね、え待って、まさかな、まさかだよね?


「前にも言ったよね。あたしも咲矢君や長澤さんと一緒で、報われない恋してるって。だから気持ちがわかるって。ここまで言えば咲矢君もわかるよね? あたしの好きな人」


 おっとこれは本気みたいだ。

 心春は俺や弓花とかよりも、ヤバい恋をしてしまっているみたいだ。


「……もしかして、お父さんのことが好きなのか?」


 俺の問いかけに心春はこっくんと頷いた。












         アンビリバボー









「まじなの?」


 お父さんが好きと打ち明けてくれた心春に、念のため確認をする。


「うん。中一ぐらいから本気で好きになって、それからずっと」


 これ逆の立場だと考えたら俺が母親のこと本気で好きってことだからな。

 そうとうレアなケースというか、ヤバいこと言ってるってことだ。


 ただ他の人と異なるのは、心春が父子家庭ということだ。

 ずっと父親と二人で生きてきているので、独特の価値観を有しているのかもしれない。


「それはヤバすぎる状況だろ……俺に話して良かったのか?」


「うん。今まで誰にも言ってこなかったけど、咲矢君ならほぼ同じ立場だし今は信頼もしているから言っても大丈夫かなって」


 心春は俺と弓花の関係も知っているので、秘密の共有の感覚で打ち明けてくれたのだろうか……


「それに、やっと打ち明けることができた」


 スッキリとした表情の心春。

 タイミングを見計らって、打ち明けようとしてくれていたみたいだな……


「父親のどんなとこが好きなんだ?」


「容姿はもちろんだけど、あたしのために仕事頑張ってるとことか、あたしのこと大切にしてくれるとことか、声とか言動とかもう全部だよ」


 頬を赤らめて赤裸々に語っているので、その本気度が伝わってくる。


「心春の気持ちはわかったが、それは双子が恋するより難しいだろ。報われる未来が一切見えないし、お父さんも困るというかどうしたらいいかわかんないだろうし、何か形にしてしまったらそれはもう……」


「わかってる。自分が馬鹿げてることとか、気持ち悪いこととか、道を踏み外しまくってるとことかさ。だから報われてほしいなんて思ってない」


 可能性が無い恋をしているというのは想像よりも遥かに辛いことだろう。


 それでも恋を続けている心春のメンタルは異常だ。


「別に気持ち悪くはないだろ。逆境というか、とてつもなく大きな壁があるのにその先にいる人を好きになるなんて、むしろ素敵だろ」


「咲矢君……やっぱりあたしのことわかってくれるんだね」


「でも馬鹿だとは思うし、道を踏み外しているとは思う」


「んなっ!?」


「まー俺も自分のことそう思ってるし、そこは共通している部分だ。お互い背負うしかない」


「……そうだね」


 心春は納得したのか、隣で座っている俺に肩を寄せてくる。


「あたしが咲矢君と積極的に話したくなるのは、双子と禁断の恋をしているからなんだよ。そんな同族のようなヤバい人が身近にいると落ち着く。自分は一人じゃないんだって安心できる」


「そういうことか」


「あたしに好かれているとか思ってた?」


「別に。仲が良いとはいえ、間に壁みたいなものを感じてたし」


「でも、人として好きだよ。愛とかの方じゃないけどね」


 にーっと笑う心春。素直に可愛いと思ったし、その笑顔を見て安心する。


「まっ、これからもヤバいやつ同士仲良くしようぜ」


「そうそう。危険な道もみんなで渡れば怖くないってやつ」


 心春と二人で笑い合う。

 もう俺達は倫理観とか無視したどうしようもないやつらだ。


「でも、その事情を知ってれば弓花とも仲良くなれると思うんだけどな」


「仲良いよ。裏向きにはね」


 裏向きとはどういうことなんだろうか……

 普通は表向きは仲良いとか言うものだが。


「どういうことだ?」


「それは内緒。長澤さんの秘密でもあるし」


 心春はベッドから四つん這いで進みながら、鞄からスマホを取り出そうとする。


 俺の方向に尻を突き出しているため短いスカートからパンツが見えてしまっているが、これは明らかに見せにきている。

 こんな安い挑発行為に引っかかる俺ではない。


「パンツ見た?」


「見てない。ピンク色だった」


「見てんじゃんウケる。今のは今日話聞いてくれたお礼にあえてパンツ見せてあげたの」


 相変わらず人をからかうのが好きな心春。

 挑発されて我慢する身にもなってほしい。


「そろそろ帰ろっか」


「もういいのか?」


「何? あたしの部屋が名残惜しいの?」


 そう聞かれれば首を振ることしかできないが、もう少し心春と話したいと思ったのは事実だ。


「お父さん、帰ってくるからさ」


 父の帰りを今まで見たことのない幸せな表情で待ち望んでいる心春。


 その表情を見て、父親のことが本気で好きなんだなと伝わってきた。


「そっか……俺に何か協力できることがあれば何でも言ってくれ」


「うん。ありがと。じゃあ、お言葉に甘えて長澤さんとあたしが表向きでも友達になれるよう仕向けてくれないかな?」


「え!?」


 心春と弓花が仲良くなんて想像できない……

 ただでさえ弓花は心春のことが嫌いだからな。


「そしたら、学校でも気軽に二人と話せるし」


「わかった。心春の頼みだ……何とかしてみせるよ」


 無理難題かもしれないが、弓花が心春の事情を知ればワンチャンあるかもしれない。


「じゃあな」


「バイバイ。また来てね」


 俺は小さく頷き、心春の家を出た――















       改めてアンビリバボー




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