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05.登校

 

 弓花さんが藤ヶ谷家に来てから一夜明け、高校の登校日に。

 

 双子だからか偏差値も近かったらしく、弓花さんは俺と同じ高校に転校してくるみたいだ。

 

 夏休みが明けてこれから二学期が始まる。

 弓花さんにとっては忙しい日程だが、ギリギリまで岐阜の実家にいたかったみたいだ。


「おはよう咲矢君」


 部屋のドアを開けると弓花さんと鉢合わせしたのだが……


「お、おはよう」


挿絵(By みてみん)


 俺は笑いを堪えるのに必死になる。

 何故なら、弓花さんの髪の毛が信じられないくらいボサボサだったからだ。


「何?」


 俺の様子を見て不快だったのか、弓花さんは少し怒った口調で何と言ってきた。


「いや、寝ぐせというか髪の毛が凄いボサボサだぞ」


「あなたもじゃない」


 そう、俺も寝起きは髪の毛がボサボサだ。

 天然パーマとまではいかないが、子供の頃からそういう髪質だ。

 

 やはり双子だからか、髪質も一緒なんだな……

 

 俺と違って弓花さんは髪の毛が長いので整えるのが大変そうだ。


「その辛さ、俺もわかる」


「困ったものよね」


 同じ苦悩を共有できて、何だか少しほっこりした朝だった――



     ▲



「忘れ物はないか?」


「子供扱いしないで」


 学校が一緒なので弓花さんと一緒に登校することに。

 

 先生への挨拶等があるため、弓花さんに合わせて少し早めの登校となる。


「一人で行きたいなら道だけ教えるけど」


「咲矢君とは話したいことがあるから一緒でいいわ。明日は一人で行くかもしれないけど」


 俺は一人が好きなこともあり弓花さんに気を使ったのだが、今日は一緒が希望のようだ。

 

 制服を纏った弓花さんは文句なしに可愛い。

 こんな女子高生が転校してくるなんて、身内じゃなかったら嬉しい気持ちになるだろう。

 

 

 俺達は家を出て新都心高校へと向かう。

 

 今日だけかもしれないが、こんな美女と一緒に登校できることは誰もが羨ましがることだろう。


「学校では長澤と呼んでもらえるかしら。私も藤ヶ谷と呼ぶから」


「そ、そうだな。名前で呼んでたら勘違いされるかもしれないし」


 弓花さんは藤ヶ谷家に居候しているだけであり籍は入れていないので、双子だが苗字は違う。


「それと私と双子であることは伏せてもらえるかしら」


「別に構わないが、何か理由があるのか?」


「私、正直新しい学校で上手くやっていける気がしないの。だから、藤ヶ谷君に迷惑かけることになるわ」


 早速、俺のことを苗字の藤ヶ谷と呼んでくる。家の外に出ればもう他人ですよということだろう。


「そうだな。俺も迷惑かけるかもしれない」


 正直、俺も学校で充実した日々を送っているのかと問われれば答えはNOだ。

 特に嫌われてもないが、好かれてもいない。

 

 いや、友達がいないってことは嫌われているのかも、まぁ他人からの評価なんてどうでもいいんだけどさ。


「そうだ、あと家ではさん付けしないで。その呼び方だといつまで経っても距離が縮まらないように見えて、お母様に心配かけることになるから」


「じゃあ弓花って呼ぶよ」


「外では長澤」


「わかりました長澤さん」


 物事をはっきりと言う性格には好感を持てるが、学校だとどうなることやら……


「岐阜から埼玉に来て親友とか彼氏とかと離れ離れになったし、これからほとんど会えなくなるだろ、そういうの辛くないのか?」


 俺の質問に弓花は不思議な表情を見せる。

 弓花の容姿なら必ず誰かしらから告白を受けているはずだし、人が寄ってきて人気者になれるはずだが。


「藤ヶ谷君は親友とか彼女とかいるの?」


「悲しいことにいないが」


「そういうことよ。野暮なことは聞かないで」


 どうやら弓花も俺と同じで親友や恋人もいなかったようだ。

 弓花の容姿で俺と同じ有様なら、相当人付き合いが悪いというか、距離置かれる存在だったということだ。


「告白とかはされなかったのか?」


「されたことは何度かあったわね。連絡先とか男には教えないから基本的に直接告白されてたんだけど、みんな断ったわ。そもそも人を好きになったこともないし」


 冷めた言い方をしている弓花。

 

 女子が聞けば調子に乗っていると思われて嫌われるパターンのやつだな。

 実際に、友達いなかったみたいなので嫌われていたみたいだが。


「藤ヶ谷君は告白されたことあるの?」


「悲しいことにありません」


「……そうなの? 少し意外ね」


「意外か? 俺にモテる要素ないだろ。イケメンでもスポーツ優秀なわけでもないし」


「私は藤ヶ谷君のこと、けっこうカッコイイと思っているわよ」


 弓花の言葉に俺は嬉しくなる。

 

 人生で初めて女性からカッコイイと言われた気がする。

 お世辞かもしれないが、一卵性双生児の双子を否定すれば自分を否定することにも繋がるので、弓花には悪く思われないのだろうと考えられる。


「ありがとう」


「ちょ、ちょっとそういう意味じゃないから、ただの本心だから」


 顔を赤くして謎の言い訳している弓花。

 

 徐々に俺の前では表情が崩れてきていて、可愛いと思う瞬間が増えている。


「でも、ちょっと安心したわ。双子なのに藤ヶ谷君は友達とか多くて可愛い彼女とかいたら、ちょっと惨めな思いしてただろうから」


「それは俺も同じだ。まったく別の環境で性別が異なっても、同じ道を歩んでいるなんて流石は双子といったところか」


「一卵性双生児ということを甘く見ない方がいいみたいね。まだ咲矢のこと深くは知らないけど、既に多くの共通点があるみたいだし」


「咲矢呼びになってるぞ」


「あっ……」


 少し頬を赤らめて、目を逸らす弓花。

 

 学校でもうっかり名前で呼んでこないか心配になってくるな……


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