43.せいしを懸けた戦いⅡ
「さて、次の要求を開示したいと思うわ」
時刻は五時を過ぎており、日は落ちる。
弓花は電気を点けながら、次の要求を書いた紙を手に取った。
「キスをしたいわ」
やはりキスの要求を書いてきたか……
だが、そのタイミングは不自然だ。
キスなら俺が拒否権を行使し終えた後に使いたいと考え、後半に開示するのがベターだ。
先手にキスの要求をしたということは、後半にはもっと叶えたい要求があるのかもしれないと考えてしまう。
それはもっと過激な……
「……誰とキス?」
「咲矢に決まってるじゃない」
俺の無駄な足掻きに呆れた弓花が脇腹を突ついてくる。
「どうするの、どうするの」
柄にもなくそわそわとしている弓花。
どこか落ち着きの無い様子なのは、この要求が承認されれば俺と本当にキスすることになるからだろう。
「拒否権を行使させてもらう」
「いいの?」
弓花は俺の言葉を素直に受け入れず、念のための確認をしてくる。
「ここから先、もっと過激な要求があるかもしれない。あと三つも要求を残した状態で拒否権を使うのは良い判断とは思えないわね」
「あと一つ拒否権はあるんだ」
「結婚するとか裸で生活するとかあったらどうするつもりよ」
「弓花はそこまで度の越えた要求は書かないと思っている」
「も~」
弓花のアドバイスを受け流す。
考えを変えるつもりはないし、そもそもキスしたらアウトだ。
「ということで、拒否権を行使します」
「俺は紙に書いた拒否権を弓花に渡す」
それを受け取った弓花は、思わずにやけだした。
「拒否されたのに嬉しそうだな」
「そりゃあね。あと三つの要求の内、二つは叶えられると思うといてもたってもいられないわ」
鼻歌を歌い出す弓花。
キスを防いだのに、随分とご機嫌なようだ。
「そろそろ夕食の準備をしようかしら。あとの要求はデザートということで」
「俺も手伝うぞ」
「ええ。隣で見てくれないと困るわ」
弓花は服を脱ごうとしたので、俺は慌ててその手を止める。
「裸エプロンは禁止だぞ」
「ぎくっ! そんなことしないわよ」
「いや、ぎくっが強すぎて声に出てるぞ。わかりやす過ぎるだろ」
「というか、別に私が好きでやることだから咲矢の許諾は関係無い」
「じゃあ見ないように部屋で待ってるから。夕食できたら呼んでくれ」
弓花の裸エプロンなんて見たら数秒で理性が崩壊してしまうだろう……
「いじわるっ!」
「それは俺のセリフでもある。俺だって弓花の裸エプロン見てーよ」
「そ、そうよね、咲矢も見たいわよね……」
俺の素直な気持ちを伝えたら弓花は何かを考え出した。
「良い事を思いついたわ! ちょっと待ってて」
絶対にロクなことではないと思うが、俺は部屋に走っていった弓花の背中を見送ることに。
▲
「じゃーん!」
リビングに水着姿で登場した弓花。
水色の水着を着ていて、肌色全開だ。
何でも吸い込んでしまいそうな谷間に、穢れ一つ無いお腹と、温かそうな股下。
今はチラ見しているが、直視したらヤバい。
「おかえりください」
「……異議あり」
徹底抗戦する姿勢を見せる弓花。
ここまできたらもう引き返す気はないらしい。
「咲矢は、華菜ちゃんとプールに行ったことあるわよね? そこで水着姿を見たわよね?」
「もちろんだ」
「なら、別にこれはアウトじゃない。だって、家族が水着姿になっているだけなんだもの」
屁理屈を並べる弓花。
自分で恥ずかしいのか、顔は真っ赤だ。
「華菜ちゃんの水着姿はオッケーで、私の水着姿が駄目とは言わせないわよ」
「そう言われると何も言えないな」
「そうよね。家族として当然だわ」
水着の上にエプロンを着て、裸エプロンならぬ水着エプロンを始める弓花。
それはもう実質裸エプロンと大差ない。
むしろ、裸エプロンよりもエロく見える。
隣で夕飯の準備を始める弓花。
真横から見ると横乳が露わになっていて、視線が釘付けになってしまう。
「お母様が親子丼の食材があるって言われたから、それでいい?」
「お、おっぱい……じゃなくて、おっけい」
「わかりやすい男ね」
俺の視線に気が付いたのか、ふふふと微笑む弓花。
その後は器用に料理を進めていき、俺も食材を切ったりして手伝うことに。
すると、弓花の身体が小刻みに震えているのが目に入る。
十月なので家の中とはいえ流石に寒いようだ。
「寒いなら服着ろよ」
「いい。咲矢がめっちゃ色んなとこチラ見してくれるし」
「駄目だ。風邪を引かれたら、せっかくの二人きりの時間が楽しめないだろ?」
「咲矢……」
俺は自分が着ていたパーカーを脱いで弓花に渡す。
料理中なので着替えてもらう余裕は無い。
「ありがとう。大好き」
弓花は俺のパーカーを水着の上に着て、その上にエプロンを着る。
大きめのパーカーを一枚だけ着るのも結局エロい。
股下とかたまに水着見えてヤバすぎるだろ。
「咲矢の匂いがするわね」
俺のパーカーの匂いを嗅いで幸せそうにする弓花。
ちょっと前に俺も似たようなことしていたな。
弓花が作ってくれた親子丼は母親の味とは違って濃い目だったが、俺は濃い味の方が好きなので美味しかった。
弓花と結婚すれば、今日の料理のように楽しい時間が過ごせるのかなぁと叶うはずのない妄想をついしてしまった――