17.胸の中
クレープを食べ終えた俺達は、駅の周りを散歩することに。
新都心駅の周りは近未来都市ということもあり、遊歩道が綺麗に整備されていて、植木や自然とも調和している。
騒がしい気配もなく居心地の良い雰囲気となっている。
駅の隣にそびえ立つスーパーアリーナは、コンサートやイベント等の何かの催しが無ければ閑散としている。
そのスーパーアリーナの周りは散歩道になっており、高所からの眺めが綺麗で地元民の憩いの場ともなっていた。
「……良い街ね。来てよかったわ」
景色を見ながら弓花が感慨深そうに言った。
「そう言ってくれると嬉しい。俺もこの街が好きだからな」
「街も素敵だし、咲矢とも出会えたし、良い事尽くしだわ」
綺麗な景色を背に俺に微笑みかけてきた弓花。
景色よりも素敵な女性が目の前にいる。
油断していると好きになってしまうな。
相手は双子だというのに……
そのまま弓花と散歩を続けていると、抱き合ってキスをしている高校生カップルの姿が目に入った。
この散歩道は人通りが少なく時折カップルがイチャついているところを目にする。
「人通りが少ないとはいえ、大胆ね」
「そうだな……もっと理性を保てよと言いたい」
「きっと理性が保てないほど、好きな気持ちが溢れてしまったのよ」
弓花は意外にもイチャつくカップルに理解を示しているようだ。
「そういう経験があるのか?」
「自慢じゃないけど、私は彼氏がいたことは一度も無いわ」
前にも彼氏の有無は聞いたことがあったが、弓花の容姿を見るとにわかに信じられないので再び確認のためと思い聞いてしまった。
「彼氏が欲しいとか思わないのか?」
「高校生になってからは欲しいと強く思うことになったわ。あなたもでしょ?」
「そうだな……相手はいないけど」
「なら話は早いわ……あっ、ちょっとこっちきて」
「えっ」
弓花は俺を両手で押しながら、壁に追い込んできた。
急な行動に俺は驚きながらも弓花に身を任せる。
「ど、どうした?」
「前からクラスメイトが来てる。静かにしてて」
弓花は俺の頭を押さえて、自分の胸に抱き寄せ始めた。
そして下を向いて、長い髪で自分と俺の顔を隠すようにした。
弓花の大きな胸に俺は挟まれていて、顔がすっぽりと埋まってしまっている。
弓花も散歩道に向けて背を向けているので、クラスメイトに顔ははっきりとは見えないだろう。
弓花の胸の中は柔らかくて、幸せな気持ちになれる。
このまま天国に連れてかれてしまうのではないかと危惧するぐらい幸せです。
頭の上に天使が出てきそうだ。
同時に、弓花の高鳴る心臓の音がはっきりと聞こえてくる。
この状況に弓花も相当ドキドキしているようだ。
「去ったみたいね」
弓花は抱きしめていた俺を開放して、離れていく。
それが名残惜し過ぎて、こちらから抱きしめ返したくなった。
「助かったよ。俺はクラスメイトに気づいてなかったし」
「お互いに支え合うのが私達よ。当然のこと」
弓花の機転が無ければ変に絡まれていたことだろう。
それはもう想像するだけで面倒なことに。
「ちょっと咲矢、信じられないくらい顔が真っ赤よ」
「し、仕方ないだろ、あんな密着してたんだから」
俺のことをからかってくる弓花だが、その弓花も顔は真っ赤だ。
「そんなに私の胸の中に入れて嬉しかった?」
「当たり前だろ。じゃなくて、それはだな……」
「本音が出てしまっているわよ」
くすくすと笑っている弓花。
主導権を握られてしまっており、質問攻めにあってしまう。
「私、大きな胸がコンプレックスでもあったんだけど、咲矢に喜ばれるのなら悪くはないと思えてくるわね」
「それは凄い良いから、そう悲観するものではない」
「私と似て正直ね。咲矢のそういうところ好きよ」
男で大きな胸が好きじゃないやつなんて滅多にいないだろう。
まぁ女性の胸だったら男はどんな大きさでも好きなんだけどさ。
「今まで咲矢がけっこう私の胸をチラチラと見ていたのも気づいていたわ」
「……まじかよ。それは申し訳ない」
女性は男からの視線に敏感だと聞いていたがそれは本当らしい。
申し訳なかったと心の中で反省はするが、急に美人の巨乳さんと同居することになったら見ちゃうのは不可避だよと開き直りたい気分だ。
「咲矢の視線なら不快じゃないから大丈夫よ」
弓花の言葉を聞いてホッとする。
弓花に嫌われるのだけはどうしても避けたいからな。
「優し過ぎだろ」
「咲矢にはね。咲矢だっていつも気を遣ってくれて優しいからお互い様よ」
ヤバいな……
弓花のことが明らかに好きになっている。
双子にこの感情はあかんだろ。
そういう気持ちは押し殺していかないとまずいことになる。
その後は二人で家に帰ったのだが、正直何を話していたかははっきりと思い出せない。
弓花のことで頭がいっぱいになり、頭の中がごちゃごちゃとしていたからだ。
隣にいた弓花も同じ気持ちだったのだろうか――