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第19話 彩り(アトリの視点)

 デパートの中はいつもと変わらなかった。若い私と同じくらいか高校生か、たくさんいた。この辺で買い物するならこのデパートが一番なの。




 電車で30分かければ、都会部に出られるんだけど、ちょっとした買い物や遊びには隣町のこのデパートで十分。




 お兄さんは呆けた顔でショップを見ていた。

駄目だこいつ、興味がなさすぎて思考停止している。




「ちょっとお兄さん、ちゃんと選んでる?ぼーっとしてちゃダメだよ」




「え、ああごめん。普段デパートに来るときはいっつも付き添いで、自分でものを買うのなんてほとんどないんだ。だからどのお店に入ればいいかもわからなくて」




「いや違うね、お兄さんは興味がないだけだよ。さっき本屋の前を通ったときはそんな暇そうな顔してなかったもん」




「いや、それは違うんだ。さっき気になるものがあったから」




「なに?またシェイクスピアがどうとかって言わないよね?ちゃんと栗の欲しい物買うんじゃなかったの」




「いやシェイクスピアは関係無くて」




「だったら何?」




「母さんの本が本屋の一押しのところに置かれてたんだ」




「母さんのって、蒼井先生の本ってこと?」




「そう。母さんのこと栗から聞いてたの?」




「小説家だってことだけは。でも蒼井先生って結構ミステリー界隈では有名なんでしょ。一押しのところに置かれてることの何が気になったの?」




「うん、いやほんと些細なことなんだけどね。ちょっと待ってみたもらったほうが早いよ」




「え、ちょ、お兄さんどこ行くの」




 お兄さん情緒不安定すぎ!さっきまで暇そうにしてたのに急に走り出すし!




 お兄さんはさっき通り過ぎた本屋まで走っていった。




「ほら、見て」




 お兄さんが本屋の一押しの棚を指さす。そこには今よく名前を聞く作家の本や大きな賞を受賞した本が並べられていた。

 そこにポツンと1冊だけ『青春の彩り 蒼井平子』という本が置いてあった。




「これ、母さんが昔書いてた恋愛小説なんだ。母さんの恋愛小説は全然人気が出なくてね、だからこの本が1冊だけおいてあることが気になったんだ」




「誰かが置いたってこと?」




「うん。手には取ってみたけど元の棚に戻すのがめんどくさくて、ここに置かれただけかもしれない。でももしかしたらどこかの誰かが、母さんの本をこうやってお勧めしてくれてるんだったらそれはすごくうれしいんだ」




「そんなもんなんだね」




「うん。家族だから」




 お兄さんは満足げな顔をしている。




 私にはこの人がよく分からない。でもマイナスの評価が小数点の以下の数字だけど、プラスになるくらいにはこの人の良さを知れたかもしれない。




 陰気な白黒の人にカラーがついて彩りが出て見える。栗にはお兄さんがどれだけカラフルに見えてるんだろう?




「うん。やっぱり僕は栗のプレゼントは自分で決めるよ。アトリちゃんせっかく誘ってくれたのにごめんね」




「うーん、まあいいっすわ。お兄さんがそう決めたんなら」




「ありがとう」




 お兄さんはにっこり笑った。やっぱ顔は悪くないよね。なんだかさっきよりそう見える。




 お兄さんは本屋でシェイクスピアの詩集を買って帰った。重そうにしていたが顔はずいぶん満足げだ。




 私は栗に香水を買ってあげた。




 帰り道、お兄さんは本を持ちながらよろよろ私の前を歩いていた。




「お兄さんちょっとまって」




「うんなに?」




「ちょっとそこの公園いこう」




「え、なんで?」




「いいから」




私は強引にお兄さんを引っ張っていった。




「そこのベンチ座って」




「な、なんだよ。そんなに乱暴にしなくてもいいじゃないか」




「ちょっとうるさい。だまってて」




 お兄さんをベンチに座らす。私は整髪料を取り出し、お兄さんの頭に無造作につける。




「うわ、何するんだ!」




「暴れないで!」




 うっとうしい前髪をかき上げる。栗とよく似た切れ長の目が出てきた。




「うんやっぱし髪あげたほうがかっこいいよお兄さん」



 なんだかあたふたしているお兄さんを横目に私は満足感が自分を満たしてりうのがわかった。




 こりゃあ栗には少し早いプレゼントになりましたね。

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