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1000字短編集

闇夜に動く物

 照明の落ちた暗い部屋。

 窓際に置かれたベッドの上で由美子は何度目かの寝返りをうった。

 よじれた薄手の毛布を肩までかけなおす。ピンクの可愛らしいパジャマがすっぽりと覆われた。

 顔を枕にこすりつけるたびにショートの黒髪がゆれている。

 壁にかけられた時計の秒針が一周したころ、由美子はまた仰向けになった。


 ――眠れない。

 由美子は目をひらいた。

 余裕をもって出社するには六時には起きなければならないというのに眠気がいっこうにやってこなかった。眠ろうとすればするほど雑念があふれて意識が覚醒してしまうのだ。

 由美子は寝つきの良いほうで、ベッドに体を預ければたいした時間もかけずに夢の世界へと旅立てる。

 それが今日に限ってはちがっていた。思い当たる理由はひとつしかなかった。

 直前まで読みふけっていた小説のせいだ。時間も遅いからと、途中でしおりを挟んだのがわるかったのだ。

 また寝返りをうった。今度は窓に背を向けて。由美子は部屋の中央にあるテーブルを見つめる。ぼんやりと輪郭しか見えないが、読みかけの小説が乗っているはずだ。


 時計の針は時を刻みつづけている。


 小説を読み終える時間とひたすらベッドで眠りを待つ時間、どちらが長いのだろうか。そんなことを考えていたら、

 ――カサリ

と暗闇に小さな音が生まれた。

 ビニールがこすれ合う音だ。おそらくゴミ箱だろう。かぶせてあるコンビニ袋が鳴ったのだと由美子は思った。

 ――カサリ

 ふたたび音がした。

 やはりゴミ箱のある方からだ。

 窓は閉め切られているから風は入ってこない。ではいったいなぜ?

 確かめなければならない。ただでさえ眠れないのにこれ以上気がかりを増やすわけにはいかなかった。

 由美子は枕の横に置いていたスマホをライト代わりにして照明のスイッチまで歩く。


 パチリ。

 部屋が白く染まる。

 照明の眩しさに由美子は目を細めた。目が明るさに慣れるまで待つ。

 部屋の隅に置かれた茶色のゴミ箱には変わったところはないように思えた。


「ひっ」


 引きつった悲鳴が由美子の口からもれた。

 ゴミ箱のふちに黒くうごめく二本の触角を見たからだ。

 由美子は叫びたくなる気持ちを押し殺し、壁の横に置かれたスプレー缶を手に取った。

 距離をあけながらスプレー缶を噴射する。音とともに霧状の薬品が黒い影にふきつけられた。


「きゃあああ」


 黒い影はゴミ箱から離れ、ベッドの下に潜り込んでしまった。

 由美子はその場に座り込んでベッドを見つめる。

 今夜は眠れそうになかった。


起 眠れない

承 頑張って眠ろう

転 ギャー

結 無理ぽ

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