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二話

 二話のラストで容姿描写……


「おせーよ」


 とは言わないで!

 容姿を描写できるシーンが二話まで出なかっただけだから!


 小鳥が囀る声に意識が引き寄せられ、眼を開けてみると眩しい程の朝日に目がにじむ。

 

「うぅーん…… 朝かぁ……」


 そんな独り言を呟きつつ、フワフワの暖かい布団に包まりながら、ぼんやりと意識を取り戻していく。

 フワフワの布団に潜る様に身を丸めつつ、布団の多幸感に身を委ねると、何か重要そうな違和感が頭に過った。


「ふぁあ…… 布団さいこぅ。 ……ん?」


 布団の多幸感に身を委ねていたが、オレの頭の錠前が開いたかの様に、今現在身を委ねている布団の多幸感自体に言い知れぬ違和感をハッキリと認識した。

 

 おかしいな……

 いつもは狭い部屋に固い敷布団、更には薄いゴワゴワの掛け布団だった筈で、しかも一部屋に六人が床に布団を敷いて寝るのだから…… もっとこう、いつもなら周りは騒々しい筈だろ?


 静寂に包まれ、暖かい陽の光を身体で感じながらオレは瞳を開け、陽の光を見る。

 陽の光に照らされた木製の窓枠。

 どうやら、オレは窓際に寝ている様だ。


 いつもなら陽の光とは逆の方角に窓がある部屋で寝ていた筈だよな?


 疑問が尽きず、オレは布団から身体を起こした。

 周りを見渡す。

 十五畳以上ありそうな、それなりに広い部屋で、中央にはまっさらなダイニングテーブル。

 天井に目を向けると小綺麗な照明がぶら下がっていて、壁には大きな姿見や本棚、浜辺を描いた絵画などが掛けられていた。

 

「うーん?」


 此処はいったいどこなんだろうか?

 先ほどまで寝ていた布団を見るが、敷布団ではなくベッドの様だ。

 マットも掛け布団も、今までの寝具と比べると両方高価なのは見て取れた。

 

 掛け布団から身を出し、ベッドの縁に座る。

 オレは天井の小綺麗な照明を眺めながら、頭をフル回転させて昨日何があったかを必死で思い出す。

 

「たしか…… 能力解放の儀があって……」


 呟きながら一つ一つ思い出す。

 能力解放の儀の後、オレが教室から出ると、技官たちはすぐさま孤児院の責任者である院長のところにカチコミを仕掛けていたっけ。

 技官達のカチコミ後、途端に慌ただしく廊下を駆けずり回る孤児院の大人たちを、孤児院の子供たちは只茫然と見つめていたな。

 その後、時間が時間なので、オレを含む子供たちは、いつもの様に自分達の部屋に入り、寝巻に着替えて布団を敷いて寝た。

 

「うーん…… 昨日、確かに子供用の部屋で寝たよね…… いつもの敷布団で」


 そんな事を思いながら、自身の着ている服を見る。

 いつものヨレヨレのパジャマではなく、真っ白で所々刺繍が入ったネグリジェだ。

 陽の光が差し込む窓に目を向けると、窓から見える景色は、孤児院から外出するときに見る、道路を挟んだ向かい側の建物。

 窓に映る、よく知る向かい側の建物の壁を見ながら、考える。 


 外の景色から見て、この小綺麗な部屋は孤児院の一室って事だよなぁ……

 孤児院に、こんな部屋あったっけ?


 頭を捻るが、こんな部屋がある廊下が思い浮かばない。

 あり得るとすれば…… 先生達が使う職員廊下か?

 普段、子供達は職員廊下に行くことは、理由がない限りはまず無い。

 

 頭をぐるぐると巡らせてい居ると、この部屋の扉の向こう側から足音が聞こえてくる。

 響く足音は扉の向こうで止まり、この部屋の扉が開いた。


「あら、起きていたのね?」


 扉を開くなりオレを見みてそんな事を言ったのは、昨日オレと一緒に教室へ入ったせいで技官に凄い勢いで責め立てられていた狐耳の女性の先生だった。

 先生は部屋に入るなり、手に持っている畳まれた女児用の洋服を、部屋の中央のダイニングテーブルの隅に置く。

 その手つきを見て、先生が何故か少し気を張っているのが窺える。

 いつもと挙動が違う先生の様子に、オレは疑問に思いながらも目の前の先生に此処は何処かを聞く。


「あの、ここはどこなんでしょう?」


 オレの質問に、先生は自身の狐耳を少し小刻みに揺らしながら答えた。


「貴女のお部屋よ」

「……えっと。それはどういう……?」


 何故か緊張した様子で答える先生。

 その様子に、少し不審に思いながらオレは説明を求める。

 オレの問いに先生は少し目を泳がせながら、微笑みつつ答えた。


「貴女は聖なる種族だもの」


 先生はそう言って、一拍置く。

 瞳に緊張を浮かべながら、言葉を続ける。


「狭い部屋に押し込んで、他の子たちと一緒に床で寝させる訳にはいかなわ」


 その言葉を聞いて、なんとなくオレの現状を察した。

 何故かネグリジェを着ていたのも、知らない奇麗な部屋でフワフワのベッドに寝ていたのも、そしてどことなく先生の様子がおかしいのも。

 つまり、これは全部、オレが聖なる種族…… つまり『使徒の民』だからという訳か。

 オレは先生の緊張した様子を眺めながら、世間一般で認識されている『使徒の民』の印象を思い出す。



●●


 

 孤児院の外に出かけた時、町で出会った住民達の口から出る『使徒の民』の印象は、それはそれは絶大だった。


 ある日、孤児院で使う日用品を買いに、孤児院用の特別な商品を売ってくれる雑貨屋の豪快な店主が、妻の体調が悪くなった時に


「使徒の民様は人の病気や怪我を瞬く間に治せるらしいですぜ!」


 と笑いながら言っていた。


 ある日、救急箱の薬を補充しに、孤児院がご用達にしている薬屋に来た時。

 薬屋で働く眼鏡をかけた青年の調剤師は、買い物についてきた子供達から調剤薬とポーションの違いを訊かれた際に


「僕の作る調剤薬は怪我の痛みを和らげたりしかできません。怪我や病気をその場で治したいならポーション類が必要ですよ」


 と調剤薬とポーションの違いを説明していた。

 そんな調剤師の青年に子供達から「じゃあ、沢山ポーション作ったらいいじゃない!」との純粋な疑問をぶつけられ、調剤師の青年は


「調剤師はポーションを作る事は出来ないのです。世界に出回っているポーション類は、全て使徒の民様がお作りになられる神聖な物。だから、ポーション類は絶対に粗末にしない様にね」


 と言いっていた。

 それを聞いた子供たちは皆、薬屋の隅に置かれた厳重なショーケースの中に並ぶポーション類を静かに眺めていたのを覚えている。

 

 ある日、落とし物を探しに町の陸軍駐屯所に来た時、衛兵窓口で孤児院の男の子が窓口の兵士を見ながら「英雄になるにはどうすればいいの?」とキラキラ顔で聞くと、その兵士は笑いながら


「英雄になるにはな、必ずしなければならん事があるんだぞ? 先ず、肉食うだろ? 野菜食うだろ? 魚も食うだろ? 運動するだろ? 勉強もするだろ? それらが一生続ける根性があるなら、人の役に立つ喜びを覚える。坊主、これは凄く簡単なようで、凄く難しいぞ?」


 と男の子に言っていた。

 それを聞いた男の子が「たいへんそー……」と言いうと、窓口の兵士は


「大変だろう? だからこそ、そんな英雄には国から特別な特権が与えられるんだ」


 と男の子に言葉を返し、兵士の言葉に「どんな特権!?」と興味津々に言う少年に、その時遠くから見ていたオレも「どんな特権だろう?」と疑問に思っていたら、窓口の兵士が「それはな……」と勿体ぶった後、男の子を見ながら自身の姿勢を正した後


「英雄になると…… 使徒の民様への懺悔が許されるのだ!」


 と興奮した様に言った。

 それを聞いた時オレは正直ずっこけそうになったが、周りの反応はオレとは真逆で、少年を含む受付に居た他の利用者や兵士達は、それはそれは驚愕していた。

 隣に居た、窃盗被害の手続きをしてた若いカップル達でさえ、口々に「すごいね……」等と言い合っていて、場の空気について行けないオレは後で孤児院の先生に訊くと


「懺悔って言うのは、神々に自身の間違ってしまった行いや後ろめたい事を告白する事よ。普通は聖像や神殿の神棚に向かって行うのだけど、使徒の民様への懺悔ともなれば、それはもう直接神々に伝えている様な物よ」


 と言っていたのが印象的だった。


 町では他にも「迷える魂を冥界へ誘う事が出来る」だとか「神託を定期的に受けているらしい」だとか「加護や祝福を与える事が出来る」だとか「祈りを直接神々へ伝えてくれる」だとか様々な事を訊いていて、どうやらこの世界の住民にとっては『使徒の民=天使』ぐらいの絶対的な存在との認識らしい。

 


●●



 狐耳の先生はオレと二言三言会話した後、逃げる様に部屋から出て行った。


 先生がダイニングテーブルに置いていった洋服を広げてみる。

 オレの前に現れたのは、真っ白な下地で胸元に大きなピンクのリボンが付いた新品の美しいワンピース。

 スカートの裾には所々に金の刺繍が施されていて、なんだか貴族のご令嬢に作られた様な印象を受ける程、この世界に来てからは見たことも無い程の豪華絢爛なお洋服だ。

 そんな豪華なワンピースを手に取ってみると、ワンピースの下敷きになるように隠れていた、沢山の刺繍が施された真っ白のパンティ(ショーツ)と靴下がダイニングテーブルの上に顔を出す。

 

 あの名高いパンティかぁー……


 この世界に女児として生まれて早五年。

 今まで履いていたのはトランクスの様な下着で、これは男女問わず、この世界の庶民のスタンダードな下着だった。

 ワンピースをダイニングテーブルに置きなおし、パンティを手に取る。

 手で広げているそれは、町の服屋のオバチャン店主から豆知識としてしか聞いたことのない高級下着。

 かの服屋のオバチャン曰く、この世界のショーツタイプのパンティは、主に貴族の中の、更に上位な大貴族しか履けない様な高貴な下着らしい。

 目の前の、聞いた通りのパンティを見つめる。


 この世界は人間というだけで、こんなに特別扱いされるのか……


 しばらくパンティを眺めた後、オレはネグリジェを脱ぎパンティと靴下を履いてワンピースに着替える。

 靴下があるのだから靴もあるのだろうと思い、辺りを見回すとベッドの近くに置かれたローファーが目に入った。


 ローファー。

 これまた、この世界では早々お目にかかれない靴だ。

 服屋のオバチャン曰く、二世紀程前にとある帝国の無名の靴屋が、突然この靴を作り始めたらしい。

 その靴屋がローファーを帝国の皇帝に献上したところ、その靴を見て当時の皇帝は大層気に入ったそうで、それ以降ローファーは権力者の象徴となっているそうだ。


 服屋のオバチャンは、その当時の無名の靴屋は現在有名なブランドの靴屋になっていて、職人の間では発想で成功を掴んだ最大の例になっているらしく、創作に置いての精神論でいつも引き合いに出されては崇められているとの事で


「私もいつかは最高の服を作って名を残したいねぇ!」


 と言っていたのが印象的だった。

 オレはその靴屋の話を聞いて、一つ思った事がある。 


 突然作り出したって…… つまり、この世界の服飾史に何も無い所から突然現れたって事だよね?

 それ絶対転生者じゃ……


 そんな、あからさまに不自然な歴史のワンシーンの話を思い出しながら、ローファーに足を入れる。

 今まで使っていたボロボロのサンダルとは大違いな履き心地に、思わず


「おぉー」


 と声がでてしまう。


 三回足踏みして足を慣らし、オレは壁に架けられた姿見に向かい、その前に立つ。

 そこに現れたのは、漆黒の長いストレートな髪をした、黒い瞳の東洋風の白肌美少女。

 一重瞼でパッチリと大きく開いた瞳、小さくも高い鼻と細くも鮮血の如き真紅の唇は、まるで市松人形の如き不思議な雰囲気を醸し出していた。

 

 うん。

 いつ見ても、超絶和風美少女。

 夜に出会ったら悲鳴上げて逃げそう。

 てか、現に逃げられたよな……


 ある日、夜に目を覚まし、全然眠れなかったので裏庭にいこうと廊下を歩いていると、トイレに向かう少年と鉢合わせしたのだ。

 薄暗い廊下で、まるで市松人形の如き顔立ちの美少女とご対面した少年は、それはもう悲鳴を上げて失禁しながら走り去った。

 それからオレは、夜中徘徊禁止令を言い渡されてしまう。

 酷い容姿差別だとは思うが、仕方ないよなぁ……

 オレだって、夜中にオレの容姿の美少女と出会うと悲鳴を上げる自信がある。

 

 西洋の超絶美人は夜に出会うと、軽くときめく様な気持ちになる。

 中東の超絶美人は夜に出会うと、神秘的で拝みたくなる様な気持ちになる。

 で、東洋の超絶美人は夜に出会うと、それはそれは悲鳴を上げて逃げ出したくなる様な気持ちになる。

 これは世界の心理だ。

 市松人形風味の美少女とか、美しいのはわかるが、夜に出会うと軽くホラーだからな……

 

 オレは姿見の中の市松人形風味の美少女を眺めながら、胸元のリボンの向きを調整する。

 

「よしっ!」


 胸元のリボンを軽く叩き、オレは部屋の扉に向かった。

 この扉を開けると新しい日常。

 そんな不安を、オレの心の中に微かに渦巻かせながら、部屋の扉を開けた。

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