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一話


 小説投稿サイトを読み漁っていると、突然スマホからJアラートが鳴り出し、その後北朝鮮の核兵器でこんがり焼かれたのが五年前。

 オレは死んだと思ったら、赤ん坊の姿で目が覚めた。

 

 どうやらオレはファンタジーな世界に転生した様で、小さな王国の辺境の、これまた寂れた小さな町にある孤児院で暮らしているオレは、今年で五歳になる。

 オレは転生して男から女に生まれ変わるという大変な変化の中、更に大変なのが、この世界で友達を作れそうにない事だ。


 つまり、現在ボッチって事だな!


 別に対人関係がめんどくさいとかって訳ではない。

 ただ、他の子供達の遊びについて行けないだけだ。

 何故遊びについて行けないかって?

 まあ、アレを見ればわかるよ。


 快晴の空の下、レンガ造りの孤児院の裏庭では、獣耳を生やした孤児院の子供たちが陸上選手を軽く凌ぐ速さで鬼ごっこをしている。

 鬼ごっこの横では、誰が一番バク転で長い距離を移動できるかを競い合う遊びが繰り広げられていた。

 ついさっきまで鬼ごっこをしていた三人の男女の子供たちが騒ぎ合う。


「お前らおっそいなー! そんなんじゃ強くなれないぞ!」

「私、貴方と違ってネコの獣人族なの!」

「俺なんて只のライオンの獣人族だぞ…… そっちが合わせてくれよ……」


 三人はそんな事を言い合っているが、一番足の遅かったライオンの獣人族の男の子でさえも、陸上選手よりは速い脚力だ。

 彼らは人間ではなく、獣人だったり魔人だったり精霊人だったりと種族は様々。


 別に、この孤児院が希少な種族が集まる場所と言うわけではない。

 幾度か孤児院から出て町を歩く機会があったが、外に居るのは獣耳や角を生やした人たちばかりで、町を歩いた時は、一度も人間を見なかった。

 恐らく、人間はマイノリティな存在ってことなのだろうと思っている。


 オレの前で繰り広げられる人外魔境な子供達の遊びを眺めながら、どうしてこんな世界に普通の人間として生を受けたのだろうと疑問を抱く。

 三歳の時に孤児院の先生から教わった『自身の種族を調べる手順』を再度試すが、やはり自分はどうあがいても人間だ。

 種族を調べる手順は簡単で、胸の奥に集中し『自分はどんな種族だ』と問いかけるだけ。

 これを何度やっても、心の奥底から響き渡る言葉は『オレは人間だ』という自分自身の声。


 この確認手順を先生から教わった時、子供たちは各々周りの子供たちに自身の種族を自慢しあっていたが、オレはその当時、周りの子供たちとの身体能力の違いに疑問を抱いていた事もあり、この種族の確認をしたオレは全てを察した。


 普通の人間であるオレは、どうやっても周りの子供たちには逆立ちしても勝てないし、どうあがいてもこれから先の人生は弱者として扱われるだろう。


 それを考えると今でも辛くなる。

 だからこそ、オレは今まで誰にも自身の種族を言っていない。

 裏庭でアクロバティックに遊ぶ子供たちを見ながら、オレの心は空を眺める様だった。



●●



 ある日の昼食後、オレは孤児院の裏庭のベンチに座って子供たちの喧騒を眺めていると、横で誰かが座る気配と共に、女の子の声が聞こえてきた。

 

「マリナちゃん!」


 オレの名前を呼ぶ声がした方向を向くと、そこには頭にウサギ耳を付けた白い髪と、青いたれ目な少女が、何かを期待した顔でオレの顔を見ていた。

 

「なに? ルルポン。私は遊ばないよ」

「えー! 遊ぼうよー!」


 オレの言葉に、ウサギ耳を生やした少女のルルポンは、残念そうな顔で、せがむ様にオレを遊びに誘ってくる。


 孤児院では『極端に身体が弱い』からと皆がオレを遠ざける中、唯一この少女は頻繁に遊びに誘ってくる。

 そして、半年前にオレを遊びにつきあわせた挙句、オレに大怪我を負わせたヤツでもある。


 その当時、オレは半ば強引に駆けっこをさせられ、彼女は背中にタックルを決めやがったのだ。

 結果、オレは身体の至る所を骨折する程の大怪我を負った。

 孤児院に救急救命用の『ハイパーポーション』と言う、即効性がある怪我の治療薬を使ってもらった事で事なきを得たが、ハイパーポーションは孤児院の限られた予算では簡単に手が出る代物ではないらしい。

 そんな高価なハイパーポーションを使った事故以降、孤児院の先生達は特にオレを過保護にしている。


 オレはルルポンを見つめる。


 まったく、あんな事があったというのに、なんでコイツは未だにこうやって遊びに誘ってくるんだ?


 オレは正直言うと、彼女の性格を疑っている。

 あれ程の事故があったのに、何故こんなにも遊びに誘ってくるかわからない。

 こいつ、オレに怪我させたいだけなんじゃないか?


「私は怪我をしたくないから、遠慮しておくね」

「うぐ…… そ、それは…… も、もう怪我をさせないから!」


 オレの言葉に彼女は苦虫を噛み潰した様な表情をしてオレに言葉を返す。

 そんな彼女の言葉にオレは無言の視線で返した。

 

 正直、この言葉は信用ならんのよなぁ……


 ルルポンは毎回「怪我はしない」と言っているが、提案する遊びは決まって怪我をしそうな物ばかり。

 この前は「高くジャンプしよう!」とか「駆けっこしよう!」とか言い出したっけ。

 このオレが出来るわけない。

 それを伝えると、彼女は「じゃあ何が出来るのさ!」と逆に怒る始末。

 正直、かなりめんどくさい。

 

 オレの無言の視線に彼女は声を荒げる。


「じゃあ何が出来るのさ!」


 ほらきた。

 お決まりになりつつあるルルポンのセリフに、オレは答える。


「少なくとも皆がやってる遊びはできないね」

「そんな調子じゃ、立派な『忠節の民』にはなれないよ!」


 怒った顔で、オレにそう言い返すルルポン。


 うーん…… 忠節の民かぁ……


 この世界の父親や母親が子供に言い聞かすときに出るお決まりの単語である『忠節の民』とやら。

 彼女の言う『忠節の民』とは、この世界の種族を一括りにしたスローガンの様な物で、子供のオレでも孤児院の先生達から嫌という言うほど聞かされてきた。

 元々は昔話の英雄のセリフの中の単語で、オレでも知っている。


『我々を含む世界中の種族が一丸となって『忠節の民』となり、神々と神々に仕える『使徒の民』に忠節を尽くそうぞ』


 紙芝居の時間に昔話の一つである『罪の物語』の最後でこのセリフが必ず出てくるのだ。

 孤児院の子供たちなら誰でも知っている。

 

 オレはルルポンに問う。


「ねえ、なんで身体を使って遊ぶと忠節の民になると思っているの?」

「それは強くなるからだよ! 忠節の民は強い身体がいるの!」


 彼女はそう言いながら自身の前にパンチを繰り出している。

 幼女のパンチの筈なのにプロボクサー並みの速さが出ているが、むしろこれが世界の普通。

 オレは彼女のパンチを見ながら、彼女が言った精神論を思い出す。

 

 忠節の民は強くあらねばならない。


 この精神論を唱えるのは、なにもルルポンだけじゃない。

 むしろ、この世界に常識レベルでまかり通っている、ありふれた精神論だ。

 誰が最初に唱えたかわからないが、これを唱える人曰く、なんでも、強い身体を持たないと神に忠節を尽くせないかららしい。

 

 ルルポンを見る。

 相変わらずオレに見せびらかす様にパンチをしている彼女を見ていると、ふと前から思っていた事が頭の中に浮かんだ。

 

 ふむ……

 前から忠節の民関連の精神論を唱える人に、言ってみたかった事があるんだよなぁ……

 まだ幼いルルポン相手にこれ聞くのはちょっと可哀そうだけど、これで関わってこなくなるかもだから言うかぁー。


「ねえ、ルルポン」

「なに?」


 パンチをしていた手を止めて、ルルポンはオレを見る。

 オレの真剣な雰囲気を察したのか、彼女は少し驚いた顔だ。


「忠節の民は強くないといけないのよね?」

「そ、そうだよ! 強くないと――」

「つまり、弱い忠節の民には生きている価値がないって事?」

「……え、えっとぉ…… そ、そうなっちゃうのかな……?」


 オドオドした様子のルルポンを見つめながら、オレは「へぇー……」と間を開けて言う。


「つまり、弱い忠節の民は殺してもいいってわけね…… あの『闇の扇動者』が使徒の民を沢山殺したように」

「っ!!」


 ルルポンは目を大きく見開く。

 オレの言葉に彼女は必死に「違うっ!」「そんなつもりじゃっ!」と必死に否定しようとしているが、反論の言葉が出ないようだ。

 やがて彼女は目に涙を浮かべはじめる。

 一連のやり取りを遠くで見ていた先生達が、彼女の手を取り中庭を後にするのを見ながら、オレは『闇の扇動者』という悪者が出てくる『罪の物語』に思いをはせた。

 

 昔々、とある国に悪い事を企む『闇の扇動者』が居ました――


 という冒頭から始まる、この世界の有名な昔話である『罪の物語』

 この世界の子供たちは歴史の教訓として、または哲学や道徳といった、良心を育てるために大人になるまで延々と聞かされる、この物語。

 その話を要約すると、こうなる。


●●


 かつてこの世界には『我らの種族こそが神々に付き従うのだ』と主張する、優良種族思想とも呼べるような思想が世界中の種族の間に蔓延していた。


 そんな世界で当時、一際強さを誇っていた種族が魔人という種族だった。

 圧倒的な強さを持っていた魔人を束ねる当時の指導者の『闇の扇動者』と呼ばれる人物は、魔人どころか獣人と比べても弱い存在である『使徒の民』が、古来から神の代行や神から授かった奇跡の力で世界の管理をしている事が、どうしても気に食わなかったらしい。


 使徒の民を見ながら闇の扇動者は『使徒の民がこの世から居なくなれば、神は使徒の民の代理を選ばなくてはならなくなるだろう』と考え、そうして当時の優良種族思想が蔓延る世界に、一つの真っ赤な嘘を混ぜに混ぜた作り話を世界に産み落とした。

 

『今の使徒の民は、大昔に他の種族を根絶やしにして、神から特権を授かった。沢山の種族が誕生した今、神は我らに大闘争を望んでいる』


 こんなわかりやすいプロパガンダの塊の様な作り話は瞬く間に世界中に広がっていき、世界中の種族が、このプロパガンダを信じきった。

 四方八方の他種族を相手に大闘争をはじめてしまう世界中の種族。


 中でも真っ先に狙われたのが、種族の中で一番弱く神からの特権を持っていた使徒の民だ。

 使徒の民は世界中で襲われ、自身達が神から受け取った神託の言葉を世界中に伝えるも、誰も聞く耳を持たず、それどころか出会いがしらに殺されていく日々。


 世界が混沌と化す中、やがて使徒の民の総数が千を切り、数日で使徒の民がこの世から居なくなるであろうという時、神は実力行使に踏み切った。


 世界中の戦場で空から大天罰の雷が乱れ落ちる。

 神はその場に居た使徒の民だけを守りながら事態を鎮静化させ、さらに使徒の民を襲おうとするだけで天罰を落とした。

 そんな、あからさまに神は特別扱いで使徒の民を守るのだった。


 自身が無慈悲に天罰を受ける中、神から特別扱いで守られる使徒の民を見た世界の種族達。

 世界中の種族達は次第に、この大闘争の根源となった『闇の扇動者』の作り話を疑い始めていく。


 いつしか大闘争は完全に静まり、やがて凄惨な大闘争の引き金を作った『闇の扇動者』は世界中の種族から怒りを買いはじめ、同じ種族である魔人達でさえも『闇の扇動者』を糾弾する声が上がり始める。

 世界中の怒りが爆発しそうな中、とある精霊人の青年が自身の国の中で国民にとある行動を呼びかけた。


『闇の扇動者を打倒して、世界をあるべき姿に変えよう』

 

 この呼びかけは瞬く間に精霊人の国を飛び出して、世界を駆け巡る。

 青年の呼びかけから、わずか二か月で沢山の種族が団結した討伐隊が編成された。


 魔人の国にある『闇の扇動者』が住む町へ続々と討伐隊が集結し、門を開けろと警告が始まる。

 抵抗されるだろうと思っていた討伐隊。

 しかし中にいた魔人の種族たちは歓迎のムードで招き入れた。

 そこからは魔人も討伐隊に参加し、一直線に『闇の扇動者』の下へ行き首を刎ねる。


 そして、この物語のラストは精霊人の青年の一言で終わるのだ。


『我々を含む世界中の種族が一丸となって『忠節の民』となり、神々と神々に仕える『使徒の民』に忠節を尽くそうぞ』


 そんな言葉で締めくくられる物語、それが『罪の物語』である。



●●



 夕食の時間、孤児院の食堂でシチューを食べていると、食堂の扉が開き、先生が入ってくるのが目に入った。

 

「えー五歳の皆さん、夕食の後に能力解放の儀がありまーす。食べ終わった人から順に教室に来てくださーい」


 先生が食堂に入ってきてそう言うと、オレと同世代の子供たちが興奮した様に喜びだす。

 そんな子供たちの反応を見て、満足げに笑顔を見せながら「忘れないようにねー」と言い食堂を出ていった。

 

 能力解放の儀……? 

 マジかよ。

 ついにこの時が来たか……

 

 五歳なると種族としての封印された能力を解放する儀式がある。

 みんな嬉しそうだが、オレはちっとも嬉しくない。

 人間に封印された能力ってなんだよ。

 ぶっちゃけ、人間に能力なんて無いんじゃないか? 

 

「はぁー……」


 気が重く、食事の手が進まない。

 周りの同世代が喜びながらシチューをぺろりと平らげ、軽い足取りで教室へ向かう様子を見ながら、オレはスローモーションでもかかったかと思う程の遅い手つきで食べていく。

 しかし皿の中のシチューは案外早くなくなってしまい、重い腰を上げ食器を返却棚に返し、教室へ向かうのだった。


 

●●



 オレが教室に着いた時にはオレ以外の最後の一人が終わった直後だった様で、教室から出てきたパンダ耳の男の子が扉の前に居る狐耳が生えた女性の先生と話していた。

 教室の扉の前の先生はパンダ耳の男の子と話し終えて、二人してバイバイと手を振った後こちらに気が付く。


「あ! 遅いわよー! 貴女が最後ね。技官の方が待っているわ。中に入りなさい」

 

 そう言って先生は教室の扉を開ける。


「最後の子が来ましたー」

「はい、入れてください」


 先生と技官のやり取りを聞いた後、オレは教室の中に入る。

 中に居た能力解放の技官は男性二人女性一人の三人組で、全員白衣を着ていて医者の様な風貌だ。

 机の上には様々な機材が置かれており、そこには様々な薬品が置かれていた。

 技官達は何やらクリップボードの書類を書き込む作業に忙しそうで、今オレに構っている暇は無いらしい。


 むしろ、そのまま忙しくしていてくれないかな?

 で、時間が泊まればいいのに。


 そんな事を思いながら診察椅子の様な椅子に座り、三人の技官を眺めていたら不意に女性の技官がこちらを向いた。


「あら、少し待ってて…… えっ?」


 女性の技官がこちらを見た途端、放心したかの様にクリップボードを落とす。

 部屋に響き渡るプラスチックの衝撃音。

 その音につられ、書類を書いていた男性技官二人が女性技官を見る。


「どうしました? ……え?」

「どうしたんすか、二人とも…… 嘘やろ?」


 女性技官を視線を追う様にオレを見た男性技官二人。

 男性技官二人はオレを見た途端に信じられないものを見た様な顔をしだした。

 

 なに?

 なんでそんな顔をしているの?


 オレの思いなんて露知らず、男性技官の片方が、オレの後ろに居た先生にズカズカと詰め寄り問いだたしはじめた。


「どういう事ですか!?」

「えっと…… なんでしょう?」

「とぼけないでください!!」


 男性技官に言い寄られて少し怯えながら半歩下がる先生。

 先生も先生で、何故この技官が声を荒げているのかわからない様子だ。

 こんな時は大抵ほかの人が場を鎮めるだろうと思い、女性技官と片方の男性技官を見た。

 

「えっと…… まじか」


 女性技官と男性技官の表情を見て、これは止めてくれる処か二人とも滅茶苦茶キレてる様で、どうしたらいいのかわからずに成り行きを見守る事しかできない。

 

「そうですよ! こんな酷い事しておいて、よくこの孤児院に天罰が下りませんでしたねぇ!」

「私も技官をやって十数年。正直、こんな冒涜は初めて見ましたよ……」


 まさかの他の技官二名からも責められるとは思ってもおらず、技官三人に責め立てられている狐耳の先生は挙動不審な様子だ。

 なんか、凄くかわいそう……

 狐耳の先生に同情していた所、先生は意を決したように言った。


「な、何でそんなに責め立てられるのですか! 何も悪いことしてないですよ!」


 先生の決死の発言。

 しかし、その言葉を聞いた技官達は呆れた様子で、女性の技官に至っては先生に汚物を見る様な目を向けている。

 女性の技官は先ほど落としたクリップボードを拾い上げ、溜息をつきながら手に持つクリップボードに目を落とした後、先生に目を向けた。

 

「この子の経歴を見ただけでも吐き気がします…… よくもまあ聖なる種族に、こんな仕打ちできますね」


 あのクリップボードにはオレの経歴が書かれているのか。

 そんな事を思いながら、先生を見た。


「聖なる種族…… ですか?」


 先生は困惑した表情でオレを見ながら女性の技官に聞き返した。

 オドオドとした様子の先生に、女性の技官は呆れを混じらせたような声色で答える。

 

「ええ、聖なる種族です。正式な種族名称は『人間』ですよ……」

「に、人間……? それはいったい……」


 更に困惑した様子の先生。

 女性の技官は、そんな先生の様子を見ながら、侮蔑の感情を混ぜた声で先生に言葉を吐き捨てる。


「ハァ…… ほんとに何も知らないのですね。人間様は人間様ですよ」


 先生は自身に吐き捨てられた言葉を理解していない様だ。

 そんな先生を見ながらオレも、なぜ自身の『人間』という種族が聖なる種族なのか疑問を持った。

 だって、人間だぞ?

 様までつけられるような存在とは思えないんですが……

 

 女性の技官は自身が吐き捨てた言葉を、本当に相手が理解できていない様子に心底呆れた様子だ。


「本当に理解できていない様子ですね…… こんな言葉は使いたくありませんが、貴女には『使徒の民』という冒涜的な薄っぺらーい呼び方でないと分からないのですか?」

 

 女性の技官の口から出てきた『使徒の民』という単語に驚き、放心した様子でオレを見る先生。

 

 え? 人間が使徒の民?

 あの有名な、神の仕事の一部を代行したり、神から与えられたという神聖な力を振るう、あの『使徒の民』?

 ほんとに?


 オレの驚いた様子を見ながら、哀れみの視線を向けてくる技官達。

 静寂が教室を張り詰めた。


 やがて技官達はお互いを見た後、放心しながらオレを見つめる狐耳の先生に、女性の技官が突き放す様に言う。


「……では、先生は退出してください。これから先は神聖な作業になります」


 先生はハッと意識を戻し、技官達に向ける。

 突然に部屋から出て行ってくれと言われ、うろたえる先生。

 そんな先生の姿に、男性の技官が付け加える様に言った。


「これから行うのは聖なる種族の能力解放。儀式関係者以外の退出は規則ですので」

 

 先生は男性の技官の言葉を受け取り、言葉を理解するのに数秒掛かったようで、先生は逃げる様に教室から飛び出す。


「し、失礼しましたぁ!」


 先生が捨てセリフを吐くかの様に、そう言いながら教室を離れていくのを見送った後、技官達はオレを見る。

 困惑するオレに女性の技官は笑顔を見せながら、優しい声で言った。

 

「ではマリナ様。始めますよ?」

 

 女性の技官に短く「はい」と答え、オレは技官達に向く。

 それからオレは、変わった薬や不思議な気分になる絵を見せられながら能力解放の儀は順調に進み、オレは人間の特権とも呼べる『神聖力』と『神権代行』の能力を無事に開花させのだった。

 最後の検査で解放した能力の測定をすると、オレの『神聖力』と『神権代行』の能力数値は通常の十倍程の数値をたたき出し、数値を見ながら技官達は皆口を揃えて


「聖女だ……」


 と呟く姿がオレの脳裏にいつまでも残っていた。

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