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現在三

 今夜の分の聖書を読み終えてから、お風呂から上がって髪をタオルで拭いているたあちゃんに聞いてみた。

「どうしてアタシと別れなかったの?」

「別れる危機なんてあったっけ?」

「危機はないかもしれないけど、アタシが宿無しだって気づいても、別れなかったじゃん。普通いなくなっちゃうと思う」

「そうか?」

 彼は気にも留めない様子で、勢いよく両手で髪をこすっていた。

 

 クリスマスが過ぎて、街の装いが変わってからからだった。たあちゃんはまたアタシに会いに来てくれた。

「いっつも外いるけど、買い物でもしてんのか?」

「買い物って訳じゃないけど、ぶらぶらしてる。家にいても退屈だから」

「本当は家ないんだろ?」

とうとうこの時が来たんだ、と思った。また一人アタシの前から去ってしまう。慣れたこと。慣れたこと。

 でも彼の口から出てきたのは意外な言葉だった。

「うちに来いよ。住まわしてやる」

思わず顔を上げた。たあちゃんははにかんでいた。

「いいの?」

「うん。来いよ。ちゃんと管理人に話して、二人住みにするから」

 あのときは、生まれて初めて身体の力が抜けた気がした。


 ブラシで髪を軽くとかしながら、ずっと聞きたかったことを聞いてみる。

「どうしてアタシにそんなによくしてくれるの? ただ道で会っただけの女に」

「うーん」

 顎をひっかきながら、宙を見ていたたあちゃんは、少し笑って

「惚れた」

と小さい声で言った。

 アタシは近づいていって、彼の手をつかんで、少し揺らした。温かくて、皮が硬くて厚い。

「ねえたあちゃんって王子さまだね」

「王子ってのはもっと金あるんじゃね? 城に住んでて」

「たあちゃんは王子さまだよ。絶対。薄汚いアタシを助けてくれた。ねえ、生きていればいいことあるって、言葉は知っていたけれど本当なんだね。救われない人もいるけど、アタシは救われたの」

「同棲始めただけじゃね?」

「ううん。違う。救われた。信じていてよかった。あなたは王子さま。金髪の、王子さま」

 そう言って、立ったまま唇を重ねた。アタシの王子さまの名前は松崎正さん。

最後までお読みくださり本当にありがとうございました。

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