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不妊治療してました  作者: BBN
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第二話 そうですか

 結婚生活。


 通常の夫婦と同じだ。

 行為も楽しむことができる。


 ましてや二十代前半の我々は1%の確率にかけていた。

 ある時の昼間。同衾(どうきん)していると……。


「おーい。給湯器つけに来てやったぞ〜!」


 父だった。


 この頃は二つの蛇口の片方をひねればお湯が出ると言う便利なものの普及はまだ少なかった。

 小さな若妻を気遣って、我々の二人暮らしのアパートにガス給湯器を付けに来たのだ。


「ちょ、ちょっと待って。オイ。お前、下にスカートはいてでろよ。オレはちょっと時間がかかる……」


 と言って、妻に簡易に服を着せ、自分も服を着ながら冷静になりおさまるのを待つ。


 ガチャ


「あれ? アイツは?」

「……その、昼寝してて──」


「声聞こえたけど……」


 ようやくおさまり、わざわざ給湯器をつけに来てくれた父に



「何しに来やがったんでーッ!」


 と大変にタンカを切ると言う不調法さ。

 いとあわれ。


 こうして、生活は普通に楽しんでいたのだ。



 ◇ 



 だがやはり、通常には出来なかった。

 私達夫婦は最初の“体外受精”を試みた。


 今から二十数年前のことだから現在よりも医療は劣っていることは了承して頂きたい。


 最初は、「(なにがし)記念病院」というところで行った。

 たしか大学病院からの紹介も書いてもらったと思う。

 二人のアパートより近い病院なのでそこにしたのだ。

 費用は大学病院よりも安く、手頃な値段。


 若い二人。病院としてはテストデータも欲しいところであろう。

 まだ、体外受精によって出来ると言うのも少なかったのだ。


 妻は卵子を増やすための注射を打つために病院通いし、私は禁欲した。辛かった。


 そして、当日。

 妻は卵子を取ると言うことで手術室に運ばれて行った。


 私の方はというと──。


 ここで、男子諸君は“体外受精”や“人工授精”による採精は、リッチな個室が用意され、大人なビデオでも見ながら採るんでっしゃろ? アハハン。


 と思う方もいると思う。


 はたまた、白衣の天使にそういうサービスをしてもらえるの? ムフフ。


 という不埒な考えのものは、即刻! 出て行きたまえ!


 ウソ! 戻って! 戻って参れ!

 最後まで見て行って。



 白衣の天使に容器を手渡される。


「はい。ではザーメン採って来て下さい」

「え……? どこで?」


「ここは婦人科なので男子トイレありませんから、下の階なり、上の階なり」


 まぁ、この部分はちょっとフェイク。

 実際は事前に説明されてる。


 でも、実際はこんなオドオドした感じとなる。


 というわけでトイレの個室に入って採精……。それを容器に入れるのだが、トイレなので、他に人がいては出来ない。

 医療行為であり、個室ではあるものの、堂々と出来る訳ではない。


 人の気配もなくなりいざ──。


 すでに賢明な読者諸君には分かるとは思うが、男性がそれを出す時には居丈高に天を指しているものなのだ。

 しかも当時は若い。ヘソに突き刺さりそうなくらい。


 ウソ。ヘソはウソ。また騙されそうになったのかね?

 ホントに人がいいね。君は……。


 だが、上を向いているものなのだから、容器に採取すると言うのは至難の業。


 ましてや地球には重力と言うものが存在する。

 一部は容器に残り、その後、床を拭いた。


 トイレだから始末には困らない。


 しかも男性としてのプライドがある。

 とっとと帰るとバツが悪いものなのだ。


 床を拭いて始末をしてちょうどいい時間帯だ。


 婦人科に戻って白衣の天使にそれを渡す。


 大勢の不妊治療をしている男性を代表して言うが、こんなに恥ずかしいことはない。

 そもそも、その液体は愛する人のみに見せるものであって、いくら医療といえども女性に手渡す……というのは結構ヘナっとするものなのだ。


 しかも、「コイツ、今コイて来たのかよ〜! 中見て臭いかいだろ」とかやられるんじゃねーのか!?

 とあらぬ想像までしてしまうものなのだ。


 結構来る。


 ガックリ来る。


 そんな落ち込みようは女性は知らんだろう。

 笑うんじゃない。

 こちらだって赤ちゃんが欲しくて必死。


「男はいいよね〜。出すだけだもん」


 じゃねーんだYo!

 精神的にこっちもやられるんでい!


 わかったか。ボケナス。



 さて、恥ずかしさをごまかすために女性たちを毒づき敵に回したところで結果発表〜!



 出

 来

 なかった。


 そもそも、卵子が育っていなかったのだ。



 お粗末。


 余りにもお粗末。


 私は恥ずかしい思いをし、妻は腹をかき回されたが結果は非常にお粗末なものだった。

 しかし、この当時はまだそれほどこの分野の医療は育っていなかったのだ。

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