第一話 ありがとう
恥ずかしいので、フェイクを幾分加えています。
この作品は不妊治療をしているパパ・ママを応援します。
精神的にも肉体的にも辛いとは思います。
あなたがたが赤ちゃんに出会えると信じて…。
妻の体は──。
ボロボロだった。
今から20数年前に妻の両親に結婚したいとご挨拶に行った。
元々どちらの両親にも公認で交際していたので、結婚話もすんなりだった。
そこで義母から「実は……」と話されたのは──。
◇
そこからさらに10数年遡る。
妻が小学生低学年の頃。
彼女の突然の腹痛のために、病院に行くと果たして診断は盲腸。つまり虫垂炎だった。
先生の話しでは手術日はこれこれこの日取りで。その間は入院していただきます。
とのこと。義理の父と母は初めての子の盲腸。
はじめての入院。
心配だが、先生がいうのだから間違いはないだろうと、そのスケジュールでお願いした。
しかし、医者には予定があった。
友人とレジャーを楽しむために海に出かけていたのだ。
実はその時、虫垂はギリギリの状態で、医者がレジャーを楽しんでいるその間に、彼女の虫垂は破れ腹膜炎に発展した。
当然、医者はレジャーを切り上げて緊急手術し、彼女は一命を取り留めた。
義両親は、この医者に命を救ってくれた大恩人だと感謝をした。
だが、虫垂の付近には女性にとって重要器官が多い。
この時は気付かなかったが、内臓の大部分が癒着していた。
卵子を運ぶ卵管は両方とも完全に塞がれていたのだ。
彼女が中学時代に別な大病を患って大学病院に入院しそこで明らかとなった。
◇
義母は泣きながら「娘はこんな体だけどもらってくれる?」と言ったが、私は婿入り。
もらわれるのはこっちなんだけど……。
と思ったが論点が違うので止めておいた。
「大丈夫っすよ」
元来、楽天家の人生どーにでもなる精神の私は二つ返事だった。
ようは考え無しのバカだったのだ。
◇
妻の体の卵管は閉塞している。
卵巣にはチョコレート膿腫という腫瘍があった。
しかし、子宮はかなり健康で卵巣も膿腫はあるものの卵は通常通り作られていたのだ。
妻のかかりつけである大学病院の先生に話しを聞くと
「通常で妊娠する確率は99%ありません。奇跡を待つ他は。ただ、今は医療も発展し“体外受精”の道があります。」
と、20代前半の我々は体外受精の道を選ぶことが出来た。
不妊。
現在では男性、女性ともに不妊傾向の夫婦がなんと多いことか。
不妊の夫婦がまず最初に医師に相談してできるのは“人工授精”。
これは、女性側に排卵を誘発させ、排卵後、人工的に精子を子宮に直接注入する方法。
通常では精子は放たれた状況から必死に卵子を探してもがく。
たどり着けるのはホンの一部である。
しかし、子宮に直接注入することによって、ルートをかなりショートカットできる。
運良く受精し、それが子宮と言うフカフカのベッドに着床できれば妊娠となるわけだ。
ほとんどの不妊夫婦はここで足止めをくらう。
ダメならばもう一度。ダメならばもう一度……。
排卵を促す注射を打たれ、男性の方はその日のために禁欲しなくてはならない。
両方の体が健康である限りは、“人工授精”を続けさせられる。
なかなか次のステップに進ませてもらえないのは倫理的な問題もあるのだろう。
しかし、私達夫婦は次のステップである“体外受精”。
ここから挑戦することが出来た。
これは他の不妊夫婦からみればラッキーなことだ。
妊娠の確率がグンと上がる。
排卵前に卵巣から卵子を体外に取り出し、体外にて受精させる。
そうして出来た受精卵を人為的に子宮に戻し着床を待つ。
費用は高いが確実性がある!
子供が期待出来る。
チャランポランな性格が似ている二人の夫婦。
行き当たりばったり人生万歳! な二人だが、出来るなら子供が欲しい。
というか、子供がたくさんいるのが夢。
方法はある。
純粋に我々夫婦は喜んだ。