イツミ、魔力を込める
なんとここは、魔道具屋さん。
アクセサリーに付いている宝石は魔法石で、それぞれ身につけると付加された魔法が発動するらしい。
「例えばこの指輪。身につけて必要な時に魔力を込めて発動させると、その魔法の威力が上がるよ。」
そう言って見せてくれたのはシルバーリングに赤い宝石……じゃなくて魔法石。
でも、イレーユさんに見せてもらった魔法石よりすごい透明感がある。石というより宝石なんだけど。
「それは子供用の魔法石じゃないかな?」
子供用?
「学院の初級で子供に教える、魔法の授業で使う石だよ。きっと」
「魔玉に込める魔力の純度が高い程、こんな宝石のようになるのさ」
新しい言葉きた。
魔玉?
「……山と森に囲まれた王国のギルトで発行されている魔玉。まあ、そういうのがあるんですよ。」
とにっこり。
「まあ、ゆっくり見てってください」
あ。客じゃないって判断された。どちらにしろ、使い方も分からない、お金もないし、うん。見るだけみておきましょう。
よく見ると、ちゃんと効能の書かれた値札もある。
今説明してもらった赤い魔法石のついた指輪の手前には、『魔力補助効果あり。金貨5枚。』と書かれたプレートが置いてあった。
ほえ〜。五万円!
買うのはやっぱり冒険者よね。自分の身一つで稼ぐんだろうから、こういう魔道具も助けになるんだろうね。
あれっ?! 私この文字読めてる。見た目日本語じゃないのに。
慌てたイツミは、改めてプレートに書かれた文字を観察する。
やはり日本語ではない。英語でもない。見たことない線の羅列になっていて、それでも理解できる。もしかして私、日本人じゃなかったっけ?
少し混乱しかかったイツミは、手のひらに人の字を三回書いてみた。
ちゃんと書けている。自分の名前も書いてみる。指はスラスラと書き慣れた文字を書き出した。山田樹実と書けてる。ちょっとホッとした。
どうしていつの間にかこんな事ができるようになっているのかは、もう私がここにいること自体がおかしな事だから、これくらいで驚いちゃダメかも。なんか魔力もあるらしいし……。
朝、サーラさんの宿屋で魔法石に気持ち込めたら大変なことになったから、ここでは触らないでおこう。ここで同じ事が起こったら、お店ぐちゃぐちゃになっちゃうわ。
イツミは極力商品に触れないように、用心して店内を見てまわっていた。
といっても、六畳間くらいの小さなスペースの店舗だったので、ざっと軽く見終わった。
赤と青の魔道具が1番多くて、その次に黄色の魔道具。他には数点しかなかったが、緑や紫にクリスタルの様な透明な魔法石を使った魔道具もあった。お値段も赤や青の魔道具より倍以上していた。
あと、もう一つ気づいたのが、同じ色でも透明感が高い程お値段も上がるみたい。
お店のテントを出た途端、ホッと肩の力が抜けた。
触らない様にっていうのは結構ストレスね。
ふうっと息を落としていると、サーラさんの宿とは反対の方の出入り口の方に、外から入ってくる人が見えたので、視線をあげてそちらを見た。
なんだか、大きい身体をした人が三人ほどいる。冒険者なんかな。でも……なんだか嫌な感じがする。
ざわざわしたものを感じたイツミは、自分が今いる場所から少し逸れようとそっと魔道具屋の中に移動した。
さっきのイケメン店員がイツミに気づいて、ツイと片方の眉をあげた。
魔道具屋の前を先ほどの三人が通り過ぎて行く。
「黒の騎士……」
「え?」
振り向くと、通り過ぎて行く冒険者を見つめていた目をイツミに移す。
「何か感じたわけ?」
「あ、いえ、なんとなく抵抗を感じて……」
「へえ……」
「?」
カウンターの下から何やら取り出し、イツミに見せる様に差し出した。
「白い石?」
それは丸くて白い石のようなものだった。
手のひらにすっぽりと収まるくらいの大きさで、ミルクの様な柔らかい白。
「なんですか?」
「触ってみな」
「……お断りします。」
下手なものは触らない様にすると決めたばかりだ。
フッと笑って、用心するのはいいことだとイツミの腕を取った。
「俺はサーラの知り合いだから心配するな。訳ありなんだろ。」
そう言うとイツミの手に球体を握らせた。
「それが魔玉さ。魔力を込めてみろよ。安心しろ、この前みたいにはならない。」
「えっ!」
「強力な魔力が一瞬発生したのは感じてるんだ。お前だろ。いいから。」
魔力を込めろと急かすので、気持ちそっと握るようにイメージしてみた。
すると、何かが球体に流れ込むような感触を受けた。
魔法石を握った時のような急激なものではなく、柔らかい感触。
エネルギーが体から流れて行くような感触が止むと、手のひらには魔玉が透明な球体に変化していた。
水晶玉になった?
「お前……」
イケメン店員さんは水晶玉になった魔玉を見て絶句した。
「……白の適合者か。」
「??」