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イツミ、キャラバンを散策する。

 ここは決して広くはないキャラバンだが、バランスよく配置されたお店の品揃えはセンスがある。


 旅の途中に立ち寄る休憩所にしては、ここだけである程度は必要なものが買えるそうだ。

 よほど高級な武器などを買おうと思うとさすがに街まで行かなくてはいけないが、まさか冒険者も町で何の準備もしないまま旅立つことはないだろう。


 キャラバンによっては武器の修理やお手入れを請け負ってくれるお店もある。サーラの宿屋が加入しているキャラバンもそんな品揃えのある集まりだった。必然的に自分のお店も質をあげようという、相乗効果も出ているのかもしれない。


 キャラバンは世界各国に点在していて、期間ごとに場所を変えながら移動している。キャラバン毎に個性があるから、それぞれのお店を楽しむのも魅力のひとつのようだ。


 サーラがあと14日で街へ戻ると言っていたのは、その14日後には別のキャラバンがここに来ることになっていて、サーラたちも今別のキャラバンがいる場所へ移動する。


 町へ寄った時に、設営場所にいる期間を商業ギルトに申告する義務がある。


 町の人や冒険者などは、商業ギルトでキャラバンの情報をチェックして、買い物をする仕組みになっている。

 ギルトにはこのような情報が入れ替わり掲示されるので、利用しない人はいないと言えるくらい人の交流も盛んに行われているようだ。


 だから、毎月それぞれの売りがあるキャラバンの来る日を楽しみにしている人も少なからずいて、キャラバンの需要は高い。




 イツミは宿屋の入口から外へ出た。


 初めて来た時にも聞こえた鳥の声と、朝の空気に乗ってさわやかな草の匂いがした。


 サーラさんの宿屋に宿泊している人が朝食の後には出るので、その後の部屋の掃除を頼まれている。

 お客さんが宿を出た後は掃除に仕込みなど何かと忙しくなるから、朝は自分の時間として使うようにサーラさんに言われたので、お言葉に甘えて、それまでの時間少し外を歩いて見ることにした。


 まずこのキャラバンは、横に伸びた楕円形になるようにテントが設営されていて、両端が出入り口になっている。出入り口が両端にあると言っても、テントとテントの間には隙間も所々に空いていたりして、どこからでも入れるようではあるが、一応入口であることを強調するみたいに登りのようなものが建てられているからだ。


 キャラバンの中央には、食べ物を中心にしたテントで固めらている。

 フルーツ、野菜、乾物。

 ……蛇のような生き物の瓶詰め??! ぶるっ。思わず身震いした。


 サーラさんの宿屋は、私が初めて入ってきた入口の近くにテントを構えていた。


 隣のテントは、乾燥したハーブのようなものが天井からたくさん吊り下げられていた。入口前のテーブルには、空の瓶容器が大きさごとに並べられている。

 何に使うのか覗いている時に視線を感じて、顔をあげると黒いフードを被った人がジーッと見ていた。

 口元も布で覆われていて、唯一見えるのは、深い艶やかなブルーの目。


「あっ、おはようございます。」

「……いらっしゃい」

 女の人の声だ。


「あの、この瓶はどう使うんですか?」

 ブルーの目が訝しげにひそめられる。


「あっ、私お店を見るのは初めてで。すみません、よく分からなくて。」

「……ここはハーブを扱ってるよ。……欲しいハーブを詰め売りさ。」

「へえ。どんなハーブが売っているんですか?」

 イツミの目がキラッと輝いた。


 家でハーブを育てていた。

 自分で育てたハーブで料理やお茶にしたりしていたから、それなりにハーブは好き。でも天井から吊り下げられている乾燥ハーブは、見たことないものばかりだった。やっぱり日本とは違うのかも……と思いながら見上げていると、


「テイ草とヨモ草が中心。他にも扱っているけど、お得意さん用さ。」

「あ! テイ草ってテイ茶ですよね!」

 知っている言葉が出てきたのが嬉しくなった。

「ヨモ草ってどんな草なんですか?」

「……これさ」


 テーブルの下から鉢植えを取り出す。

 中には10センチくらいの高さの、多肉植物みたいなものがびっしりと生えていた。

 植物の先はつんと尖っていて、身がぷっくりとして厚みがある。

 白い筋のような模様が何本かあり強い匂いはしない。

 その中の一本をナイフで切って見せてくれた。


「手を出しな。」


 言われた通りに手を出すと、ヨモ草の切り口から液体がプルンと出てきて、それを手のひらに擦り付けた。

 ひんやりとしていて、葛きりみたいにプルプルしている。

 なんか見たことあるなあ。

 ……あ! アロエだ。アロエみたい!

 アロエよりプルプル感はあるけど、色合いも似てる。


「ちょっとした傷くらいならこれを塗ると効くよ。止血程度さ。小さい瓶で銅貨2枚。もっと効能をあげるなら、半量になるまで青の魔力で練りながら煮詰めたものが、小さい瓶で半銀貨。効果は止血と痛み止め。小さい傷跡ならある程度は消えるよ。」


「へえ……薬草なんだ。」


「効能の高さで値段は変わるから、効果の良いものほど高くなるよ。……ただし、信用できる店から買うことだ。」


「薬草1つでも色々あるんですねぇ」


 イツミは、手に乗っているヨモ草のエキスを両手で合わせて塗りこめた。

 ハンドクリーム?

 手にしっとりと馴染む。プルプルな感触がさらっとした液体になって肌に染み込んだ。

 わあ。なんか肌がしっとりしていい感じ。魔法の国だから、効果も高いのかな?


「……ほう。」


 深いブルーの目がイツミの手を見つめて思案顔になったが、すぐに元の表情に戻った。


「これあげるよ。なくなったら次からは買いな。」

 切り取ったヨモ草を袋に入れて手渡してくれた。


「ありがとうございます!」

「名前は?」

「あ、イツミです。よろしくお願いします。今はサーラさんのところでお世話になっています。」

「そうかい。」

 それだけ言うと、フードを被り直して椅子に深く身体を沈めた。


 話はおしまいのようだ。他のお店も見てみよう。

 もらったヨモ草を大事にポーチにしまい、歩き出す。


 剣が二本クロスに重ねられた絵が描かれた看板のお店、武器屋が見えてきた。

 すごい。

 普通に剣とか売っているんだ。

 やっぱり魔物とかいるんだ。

 ギモの他にはどんな魔物がいるんだろう?

 手前の剣に添えられている値札を見てみる。


 金貨1枚!


 高いのか安いのかまだちょっと分からないけど、それくらいするものなのね。


 壁際には盾みたいなものもかけられている。でもテレビやアニメで見たような、鉄や鋼でできているような盾とは違って小ぶりだ。全部金物ではなく、所々木や皮でできている。手前のテーブルにはナイフなども並んでいた。

 町に行くと大きい盾も売っているのかな。


 そのまま歩いて行くと、次は防具屋だった。

 重い鎧みたいなのを想像したけど、どちらかというと普段着るような服と、かさばらない大きさの装備品が多いかな?

 ミリさんに借りた服いつかは返さなくちゃいけないから、ちょっと見てみよう。


 女性の服が並んでいる辺りに入って行く。

 ワンピーススタイルのスカートが多い。あとはフード付きのポンチョ? あ、マントかな? うーん。名称がわからないけど、とりあえず着れそうな服の値段を。

 ワンピーズ型の服の値札をチェック……

 金貨2枚!!

 高い!

 剣より高いよ。

 ミリさんに借りた服もこれくらいするものなのかな。汚さないようにしないと……!


 あと、できたら靴も早めに欲しい。ずっとヒールの靴を履いているのは辛い……。


 イツミは防具屋をざっと見回ってからテントを出た。


 隣のテントは、アクセサリー屋さんだった。色々なネックレスや指輪、腕輪などが綺麗に棚を彩っている。


「わあ……綺麗……」


 でもシンプルなものはなくて、どのアクセサリーにも宝石が付いていて少し派手かな。

 イツミがしばし目を取られていると、店主らしき人が声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。何か入り用で?」


 顔をあげると、そこには白銀の髪をした青年がニッコリと笑いながら立っていた。

 何より印象的なのは、少し冷たいような薄い水色の瞳。


 すごいイケメン!!

 キラキラだわ。

 イレーユさんは癒しの美女って感じだけど、彼は氷の貴公子って感じ。


 イツミはしばし青年に見とれてしまった。


「お客様?」


 青年は笑顔をそのままに問いかけてくる。


 はっ! いけないけない。

 でも。

 やっぱり綺麗な人って、男でも女でも目と心の保養になるわねぇ。


 イツミはウキウキしながら綺麗な店主さん? に向き直った。


「ここは何のお店ですか?」


「当店は魔道具を取り扱っております。」

 イケメン青年は、変わらぬ笑顔で答えた。

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