イツミと魔法石
「おはようございます」
ミリさんに借りた服に着替える。旅用なのかな? 一見普通のワンピースだけど、ポケットや紐通しみたいなのがあちこちに付けられている。日本では見ない作りだなあ。
ポーチ付きのベルトを止めてから、サーラさんたちがいる所へ顔を出す。
昨日いつの間にベッドに入ったのか覚えていないのだけど、改めて鏡で自分の顔を見たらやっぱり若い時の私になっていた。
私こんな感じだったわねー。18歳くらいかな? 1番ノッていた時だね。
とりあえず昨日からおかしな事ばかりだし、こんなのもアリなのかも。と開き直った。今どうしたらいいか全く分からないから、とにかく動いてみよう。そのうち道は見えるでしょう。
「おはよう、身体は大丈夫かい?」
サーラさんが、料理の手を止めてこちらへ来る。
「びっくりしたよ、昨日。床で倒れていたから。」
ミリさんもなぜか笑いながら近づいてきた。
「お騒がせしました。泊めてくださってありがとうございます。」
「いいんだよ。お母さんよくやるんだ、ほっとけない性格で。」
ミリさんが笑いながら言う。
「私、娘のミリです。服のサイズ大丈夫そうだね。」
「ちょうどいいです。ありがとうございます。私はイツミです。」
「さあ、うちの家族たちを紹介するよ。」
サーラさんは、中で準備をしながらチラチラとこちらを伺っているメンバーをイツミの周りに集めた。
浅黒い肌でガッチリとした筋肉質な身体。頭には赤いバンダナを帽子のようにして巻いている。
「ダンだよ。あたしの夫さ。一応ここのシェフだよ。」
「よろしくお願いします。」
「ん。」
無口な人なのかな?
「そしてロイ。ここの従業員で、主に受付とガードマン担当」
彼はとても精悍な顔立ちをしている。そして鍛え上げているのが服の上からも分かるくらいのマッチョだ。でもスマートな雰囲気が嫌じゃない。モテそうな人だなというのが第一印象だった。腰に剣を下げていて、ならず者やしつこいお客様がいらした時には対応に当たっているそうだ。
「そしてイレーユ。同じく従業員で主にウエイトレスとルーム担当。ベッドメイキングとか掃除とかお客様対応もしているよ。」
シルバーっぽい淡い水色の綺麗な長い髪。雰囲気も癒しの女性って感じね!とても優しそうな、それでいて芯のしっかりしていてお嫁さんに欲しいタイプ!
ちょっとうちの娘に似てるかな?
「みんな、昨日も話した通り、この子はイツミ。迷子みたいだから、街へ行くまで一緒にいるよ。」
「しばらくお世話になります。色々知らない事が多いみたいなんですけど、できるだけご迷惑おかけしないように頑張ります。よろしくお願いします。」
「あたしが仕事を教える担当になったので、一緒に頑張りましょう。」
にっこりとミリさん。この人は宿屋の太陽だねきっと。
「イレーユです。よろしくね。一応魔導師なので、魔法系の話は私が色々教えられたらと思っています。」
わっ、綺麗な声!
「ロイだ。なんか教えられることがあればその時に。よろしく」
笑顔爽やか!
「……」
顔と目だけで頷く。ダンさんは口数が少ない人みたいだけど、とっつきにくいという感じではないね。
「さあ!仕事始めるよ!みんな、よろしくね!」
サーラさんが手をパンパンパン!と叩くと、みんな自分の持ち場に戻っていった。ミリさんがこっち、と頷いて歩き出す。
まずは調理部屋の向かいにあるテーブルのセッティングをするようだ。対面式になっていて、ダンさんが作ったものをカウンターに置いて来るのでそれをウェイトレスが運ぶ形になっている。食堂には四角いテーブルが5つ並んでいる。部屋の数と同じだけあるみたい。
テーブルを拭いて、椅子を整える。掃除などは前日の夜に済ませるようで床下などは綺麗になっていた。
「次は皿の準備だよ。料理をスムーズに運べるようにしておくの。」
調理場に入って、ダンさんの邪魔にならないように皿をカウンター近くに並べる。スプーンとフォークもテーブルごとに持っていけるようにセッテイングしておく。
「明日から朝はとりあえずこれをイツミさんの担当にするから。」
「はい。」
「この後ウェイトレスの仕事に移ってもらうんだけど、その前にイレーユさんが時間取れるから色々話聞くといいよ。」
「こっちよ。」
魔導師のイレーユさんが手招きする。
「はい! ありがとうございます。」
セッティングを済ませたテーブルの1つに向かい合って座った。
イレーユさんの髪本当に綺麗。
淡い水色がイレーユさんの優しい雰囲気を際立たせていて、素敵。そして、優しい光をたたえたような黒い瞳。一緒にいるとこちらまで気持ちが落ち着く。
昨日は本当に色んな髪の色をした人達に只々驚いたけど、ちょっと憧れるなあ。しばしイレーユさんの髪に見とれながら、自分の黒いセミロングの髪をスイと撫でた。
「改めまして、魔導師のイレーユです。まあ、魔物とかと戦う時に魔法で戦います。……これから学ぶ子供達に話すように教えてと言われてるけど、大丈夫ですか?」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
戸惑うのも分かる。この世界で常識も知らずに旅をしていることほど危険なことはないそうで、よく生きてここまで来れたねって言われた。運が良かったのかな?魔物はいたけど、特に怪我もなくたどり着けたし。
でも、まだ何も知らないし、草原と遠くに見える森、赤い毛の魔物、ギモだっけ? それしか見てないし、実感が湧かないなあ。
小説の世界とかでは、強敵な魔物をパーティで倒したりとかする冒険者っぽいことやってる本、なりちゃんが持ってたなあ。面白いから良かったらと勧められて何冊か読んだね。
「まずは一見は百聞にきかず。やって見せますね。」
イレーユさんは、テーブルに置いた皮袋から、石のようなものをいくつか取り出した。
赤い石、青い石、黄色い石の3つで、形は、その辺に落ちている石ころと変わらないコロンとした感じ。
でも綺麗な色。ここの世界って、色にこだわってるのかな?部屋も落ち着いたブルーを基調にした感じだったし。食堂は壁がオレンジ色で明るい感じだし。
「これは魔法石って言うのよ。」
イレーユさんが、石を両手で撫でながら話す。
「赤い石には赤の魔法。
青い石には青の魔法。
黄色い石には黄色の魔法。
私たちはこの石を使って、それぞれ自分の魔力を消費して使えるのよ。魔力は全ての人が持っているの。
もちろん、魔力量の違いはあるから、魔法石を使える量は個人差があるわね。
これが日常でごくごく普通に使われる魔法から、戦うための攻撃魔法まで幅広くあるわ。例えばこれ。」
イレーユさんが赤の石を取り、そっと握った。
すると、ふわっと暖かい空気がイレーユさんの持っている石辺りから伝わってきた。触ってごらんと石を手のひらに乗せたまま差し出してくる。
触れると暖かい。こたつみたい・・・
「赤の魔法の基本は、火。温めたり、炎を出したり、あと身体能力効果としてはバーサクとか。細かいことはまた後で。今日は基本の基本からね。
そして青。青の基本は水よ。
それから黄色は風。
この三色は日常生活でよく使うの。例えばダンさんは料理をする時に、赤の魔法で火を出して魔力で加減をしながら作るのよ。」
「なるほど……」
なんとなくわかってきた。
「じゃあ、水が欲しい時は青の魔法石で出すんですか?」
「そういうこと!」
はい、と青の魔石を手渡してきた。
そっと手に取り、見よう見まねで握って、綺麗な冷たい滝を思い出し、イメージでえいっと気持ちを込めてみた。すると、青の魔石の周りに小さな水滴が数個渦巻いたかと思うと、突然勢いを増して巨大な水の渦巻きが天に昇った。
「きゃっ!!?」
勢いで自分の体も、椅子から押し出されるように椅子ごと後ろへ弾き出された。
「いたっ!」
床を転がりながら、青の魔法石が落ちた衝撃で手から離れていった。すると行き場をなくした水の渦巻きが勢いを弱めて、そのまま食堂の辺り一面に思いっきり降り注いだ。
ザバーン!
ザザー……
……体が固まってしまった。
ポチャ、ポチャ。
水滴が落ちる音だけが響く。
全身ずぶ濡れになって、ぽかーん。
イレーユさんは自分の身体の周りに膜みたいなものを纏って、ずぶ濡れは免れたが、その顔は驚愕している。
調理室にいたミリさんとダンさんはカウンターの向こうから前乗りになったまま、ぽかーん。
水の衝撃を受けたテーブルや椅子はあちこちに倒れていて、惨劇があった後みたいになってしまっている。
「きゃああああああーっ!!!なんだいこれは!!??」
サーラさんの悲鳴がキャラバン中に響いた・・・。