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2・

「気づいたら外にいたなんて、不思議な話だねえ……。ニホン国ってところは聞いたことないよ。あたしたちキャラバンは旅をしながら、あちこちまわっているけどね。」


 自分の国の名前、夫が亡くなったこと、娘がいること、強い目眩がして気づいたら外にいたこと、ここまで何とか歩いてきたことをかいつまんで話した。おかみさん、もといサーラさんも、自分のテイ茶を取ってきて飲みながらため息をつく。


 本当はなんとなく、嫌な考えも浮かんでいるけど、ありえない話なので考えないようにしている。


 ここは死後の世界……か、もしくは異世界……ないないないない!頭おかしくなったかと言われるわ!


「あのー、さっきここへくる途中に、変……見たことがない生き物を見たんですけど、赤くて丸いやつで……」

「ああ、ギモだよ。この辺に生息している魔物さ。ちょっかい出したり近づいたりしなきゃ何もしてこないよ。」

「魔物……?」

 嫌な予感が大きくなる。

「ギモは大地の魔力を吸って生きてるんだよ。それで大地の栄養素を排出してまた魔力を吸って、そうしてこの平原と循環し合っているんだよ。」

 これは……やっぱり……

「魔力?」

「そう、魔力。……そこから説明が必要……なんだね。」

 サーラさんが諦めたような、可哀想な子を見る目をした。


「あんた、きっと記憶喪失なんだよ。」

 サーラさんの結論はそこに達したようだ。


「よし分かった!イツミさん。行く当てもないようだし、しばらくここの仕事を手伝わないかい?そしたら空いているベッドを使わせてあげるし、空いた時間に色々教えてあげるよ。あと15日でキャラバンを移動するから、その時に街まで送ってあげるから、街にいる治癒者に診てもらうといいかもしれない。」

 サーラさんが、うんうんと頷きながら話を進める。


「それにギルトもあるから、もしかしたら忘れているだけで登録してあるかもしれないよ。もしかしたらその街に、娘さんがいるかもしれないじゃないか。イツミさんの服装じゃ、遠くから来たようには見えないからねえ。案外近くにいるかも知れないよ。」


「はい。……ありがとうございます。よろしくお願いします! あと、イツミでいいです。」


「そうかい。あたしもサーラでいいよ。じゃあ、部屋はこっちだよ。他のみんなには後で紹介するからね。」

 サーラさんの好意に甘えることにして、部屋へ案内してもらった。


 テントの中は、男部屋、女部屋、宿屋、調理部屋、倉庫に分かれていて、私は女部屋の中に案内される。

 白と青を基調にしたさわやかな色合いのベッドが並んでいる。横にはドレッサーや衣装かけ。ドレッサーの隣に、水瓶と水を流し入れる桶。横からホースがテントの外に繋がっていて、流し捨てられるようになっている。移動キャラバンだし、やっぱり水は貴重品なのかな?

 そして棚にはカゴが綺麗に並べられていて、そこが個人の持ち物を入れるカゴらしい。私の荷物は、着ている服と真珠のネックレス、小さいバッグしかなかったので、ミリさんの服を借りた。

 私は左端のベッドを割り当ててもらい、その下にあるカゴにバッグを入れて、着替える。脱いだ喪服を見て、思い出した。


「しょうちゃん……。私、どうなるのかなあ……。なりちゃん……」

 心配しているであろう娘を想う。

 娘はしっかり者だ。私を反面教師にしたんだとよく笑って言っていたのを思い出して、ふっと笑った。


 お母さん、なりちゃんによくホワホワしてるって言われてるけど、ちゃんと帰るから大丈夫よ!

 いい人に会えたみたいだし。……死んでいるのでなければ、だけど。先程サーラさんに聞いた、魔物とか魔力という単語は無理やり押し退けた。


 ベッドに腰掛けると、どっと疲れが押し寄せてきた。

 葬儀が終わって家でちょっと休むつもりが、いつのまにか知らないところにきていて。喪服、すごく汚れてる。手で軽く汚れをはたくが、なかなか落ちない。

 よく見たら手も洗ってなかったわ。部屋にある水瓶で、ちょっと顔も洗わせてもらおう。

 喪服をカゴにしまって向かう。途中、ドレッサーの鏡があったので覗く。

「???」

 鏡の中の自分をじっと見る。

「!!!!」

 鏡の中で私が目を見開いて、口をアワアワさせて……


 ええ?

 なんか、若くない?!

 目の下にあったシミの集合体が、

 目尻のシワが、

 あ! ほうれい線も!

 色も白くなーい!?

 あ! よく見たらお腹の肉がないーっ!

 一瞬嬉しくなるけど、すぐにサーっと顔の血の気が引く音が聞こえた。

 やっぱり……

 やっぱり私……

 死んで異世界へ転生したパターン!?

 それともあの世!?


 先程から取り消していた嫌な予感が現実のものだと突きつけられた。

「あ……」

 疲れが溜まっていたのも重なって、気が遠くなり、その場で床に倒れてしまった。


 娘に、また会えるんだろうか……



 その後、大の字になって、床の上でぐーぐーいびきをかいている状態をミリさんが発見して、若干引かれたのは樹実のあずかり知らぬことだった……。

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