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硝子の武士  作者: 葦草
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学校生活を語ります(5)



「剣、もう大丈夫ー?」

「………ああ…うん…」



あの後は何事もなく始業式は終了したのだが、俺はしばらく震えも汗も止まらず、周りの人にかなり心配をかけてしまったようだ。



「いやぁ~、本当びっくりしたんだよ!いきなり剣がガタンッ!てなるし、普段は鉄仮面みたいな剣が、真っ青になるんだもん…」

「………鉄仮面…」



俺はもともと口下手のために必要最低限しか喋らず、感情を表に出すことも苦手だという自覚はあるのだ。

ましてや、1年の時に比べて伸びた前髪で顔が見えない!とよく阿左美に言われるし。


だから「無口」だの「無表情」だの言われることはなれているのだが、まさか鉄仮面とは…。



「え?あ、ごめん剣!!別に俺、剣を貶してるとかじゃなくって!!」

「いや……ピッタリで…うん……つらい…」

「ちょ…本当にごめんって!そんなうつむかないでー!!つる………へあっ!?」



それまでの口調とは違い、何かに本気で驚いた様子の阿左美。

何事かと思ってゆるゆると顔をあげると、そこには腕を組んで仁王立ちをしている雨宮先輩の姿。



「………っ!」


雨宮先輩の姿を見て先ほどの殺気を思い出した俺は、いつでも戦えるようにと僅かに腰を落として臨戦態勢をとってから雨宮先輩を見据える。



「な…なんで、俺達の目の前!風紀隊隊長の雨宮逸輝様がいらっしゃる!?」


先ほどとは違って殺気を振りまいているわけでは無いものの、阿左美と同じようにここに雨宮先輩がいる理由がわからないため、俺自身警戒レベルを上げながら雨宮先輩の返事を待った。

そんな俺を見た雨宮先輩は一瞬だけ目を細めたが、すぐに元の顔に戻って阿左美の方に向き直る。


(…もしかして今、笑ってた…のか?)



「ああ、ちょっとな。…お前、2年B組の月島阿左美だな?」

「…え?そうですけど…」



雨宮先輩が阿左美に声をかけた瞬間、野次馬とかしていた生徒たちが皆ザワザワとし始める。


やれ「あの逸輝様が阿左美様に声をかけた」だの。もちろん俺だって、きっと表には全く出ていないのだろうけど内心は混乱状態だ。


もしかしたら、阿左美が風紀隊に任命されるのかもしれない。そうなったら、俺の立ち位置が更に良くない方向にいってしまいそうだな。

ただでさえ阿左美様に近づく不潔野郎って感じなのに、今度は風紀隊に近づく不潔野郎に格上げされてしまいかねない。


(…それは嫌だなぁ…)


そう思いながらも警戒および臨戦態勢を解かずに2人のやり取りを見ていると、突如雨宮先輩が俺の方に視線を向けた。


「…で持って、さっきから臨戦態勢を全く解こうとしないお前。」

「…!?」

「名前は?」

「と…棟梁…剣……です。」


いきなり俺の方に来た。突然過ぎて全く頭が追いついていないが、俺の本能がガンガン警鐘を鳴らしている。

分からない。正直全く分からない。

雨宮先輩が何を思っていて、今何をしようとしているのかとか、周りの生徒たちがどういった気持ちでこの状況を見ているのか。


全くわからないけど、俺の本能が訴えかけてくるのだ。



『今すぐこの場所から逃げ出せ!』



「棟梁、お前…っておい!待たんか!!」


本能の赴くままに、俺は思いっきり床を蹴ってスタートダッシュを決める。

そのまま長い廊下を人にぶつからないようにしながらも全速力で駆け抜けた。



雨宮先輩は何やら俺に話しかけてきていたが、正直言わせてもらうと関わりたくない。

ああいう、人気がある人と関わるとただでさえ面倒なのに相手が風紀隊長ともあれば、学園中を敵にまわしかねないだろう。


話の途中で逃げ出してしまったことに関しては多少の罪悪感があるものの、俺だって自分の身が大切だ。

当り障りのない平和な学園生活を送るためには、これが最善だったのだ。



(……あ…阿左美、忘れてた)



そういえば阿左美のことを忘れて走りだしてしまったけど、阿左美はあそこに取り残されてしまったままだ。

雨宮先輩が阿左美に何かするとは思えないけど、やっぱり友人を置いてけぼりにしたのは気になる。


俺は足を止めてから、阿左美の様子を確認しようと後ろを振り向いたのだが、そこには俺を追って爆走している雨宮先輩がいた。



「…はぁっ!?」



自慢じゃないけど、俺はそれなりに足が早い。そんな俺が全速力で走っていたというのにこの距離感!!

とにかく追いつかれるわけにも行かないので、俺は慌てて再度走りだしたのだが、まさか追いかけられていたとは思ってもいなかったために、逃げ道を完全に間違えていた。


「棟梁!その先はつきあたり…行き止まりだぞ!観念しろ!!」


そう。長い一直線の廊下の先にあるのは壁、そして窓のみ。



これは逃げ切れないパターン?

嫌だ。悪いけど、俺はそんなパターンは認めない。


「……舐めんな!」


俺は窓を思いっきり開けると、そのまま窓枠に手をかけて勢い良く窓の外にその身を放り出す。

ここは校舎の5階。一見するとただの自殺行為かも知れないが、生憎この学園ではパルクールの授業があるために、俺からしてみたら授業の応用編でしか無いのだ。


まあ、だからといって5階から飛び降りるなんて行為は多少怖い。

怖いけど、窓の外にはいくつかの足場と柔らかい芝生が見えたためいけると判断した。なにより、ここで雨宮先輩に捕まった後の方が怖いだろ?



「…よっ!…とぉ…りゃぁ!!…」



足場を駆使してなんとか芝生に着地をした俺は、悔しそうにしている雨宮先輩でも拝んでやろうかと思って校舎を見上げる。

するとあろうことか、俺の後に続いて雨宮先輩も窓の外に飛び出していた。



「……え…?」

「はっ…棟梁!俺から逃げられると思うなぁ!!!」



足場を駆使して俺と同じように芝生に着地した雨宮先輩はその勢いのまま俺にぶつかり、呆然としていた俺はそんな雨宮先輩の勢いに負けて体を芝生にたたきつけられたのだった。


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