学校生活を語ります(4)
どうして同性にそこまで皆がときめくのか、俺には理解ができない。
そう、阿左美に言ったのはいつのことだっただろうか。
そんな俺の考えを聞いた阿左美は、楽しそうに笑いながら「そう思ってても、いつか剣にもビビっとくる人がいるって!」と言ったのだ。
自分だって男にときめくことはない!って言い切ってるくせに…。
『まずは生徒会長の発表です。生徒会長は前期に引き続き、湯杵島 絢斗くん』
そう名前を呼ばれて、壇上に上がる1人の男子生徒。皆、その後ろ姿に思い思いの叫び声を上げていく。隣に座っている東条くんは顔を真っ赤にして「絢斗様ー!」と必死に叫んでいるし、阿左美は阿左美で「きましたわーー!!!」と叫んでいる。
絢斗様こと、生徒会長・湯杵島 絢斗は、確かに客観的に見ても格好いい部類に入ると思う。
赤みが強めの髪は片目を隠すくらいの長さ。瞳はツリ目がちで鋭く、全体的にスラッとした立ち姿でどこか鷹を彷彿とさせた。
そして長鞭を使った戦法に長けて学園トップ2と言われるほどの実力者でもあるわけで、生徒会長となるには妥当な人物なのだろう。
ただ、どことなく周りの生徒たちを見下しているあの雰囲気は、どこの王様だよ!とツッコミたくなったりならなかったり…。
そんな会長の後につづいて発表されていく役員達。
副会長、会計、書記、庶務の順に発表され、皆壇上に上がっていくが、これまた皆顔がいい人ばっかりだ。
女性のように美しいと評判らしい副会長。見るからに軽薄そうな会計。体格がいい(けど俺より弱そうな)書記。それから妙に人がよさそうな庶務。
(…キャラが濃いな…)
まあ、俺が生徒会と関わることなんて絶対にありえないだろうから別にいいんだけど。
そう思いながら、あくびを噛み締めていた俺だったが、このあととんでもないことが起きるなんて全く予想していなかった。
『では、続いて風紀隊隊長の発表にうつります。』
羽柴ノ学園きっての最高戦力を持つと言われる風紀隊。
この存在によって、俺の学校生活が粉々に打ち砕かれるなんて、だれも想定しないだろ?
『風紀隊隊長も前期に引き続き雨宮 逸輝くん。』
雨宮 逸輝と名を呼ばれて壇上にあがった生徒。
雨宮先輩は舞台にあがると、わずかに険しい表情を浮かべながらマイクを手に取る。
雨宮先輩は墨のように真っ黒な髪と琥珀色の瞳が特徴的な人で、こりゃ男相手でもモテるわけだ、と初対面の時に俺も納得した。
そしてモデルのようにバランスの取れた頭身を持っている。
だが何より特出しているのはその戦闘力だ。空手に主軸を置いているものの体術全般においては教師陣でさえも相手が難しいと言われる、文句なしの学園No1。
そんな先輩が風紀隊長になるのには何の違和感も無いのだが、壇上にあがってからもずっと不機嫌そうな表情を浮かべている雨宮先輩には違和感があった。
「お前ら、みんな立て。」
そんな不機嫌そうな表情のまま口を開いた雨宮先輩。
その声と口調は他者を圧倒する何かがあり、俺は思わず緊張しながらその場に立ち上がる。
「今期の風紀隊の体制についてだが、俺は強い奴だけを風紀隊に求める。弱いやつは風紀にはいらない。…だから俺が認める強い奴がこの学園にいないのならば、風紀隊は俺1人で活動していくし、俺が認める強さの奴が1人でもこの学園にいるのなら、俺はその1人とともに風紀隊として活動していく。」
言ってることはなかなかに滅茶苦茶ではあるが、その有無を言わせぬ雰囲気の前ではそんな内容でも思わず納得してしまう。
特別語句を強めた言い方でも無いのに、そこまでの説得力があるあたり、さすがは風紀隊長といったところだろうか。
俺はそう考えながらボーッと雨宮先輩の方を見ていたのだが、雨宮先輩は生徒たちが皆立ち上がったのを確認すると、わずかに目を細めた。
「よし、…みんな立ったな。」
雨宮先輩はそれを確認すると、ゆっくりと下を向く。
何が始まるのか誰も分からず、皆固唾を呑んでそんな雨宮先輩の様子を見守るが、雨宮先輩はそのままゆっくりと顔を上げる。
…いや、それだけではなかった。
顔をあげたと同時に雨宮先輩から発せられているのは明らかな殺気。
雨宮先輩との距離はそれなりにあるというのに、ヒリヒリと何かが焼ききれそうな危うさを感じる。
首の後ろあたりにヒヤリとした何かを感じ、俺は咄嗟に左足を半歩後ろに下げるが、雨宮先輩の殺気からは逃げたくても逃げられそうに無い。
その圧倒的な殺気を振りまきながら雨宮先輩は、壇上で一歩だけ足を踏み出したのだが、その一歩分の距離が縮まっただけで、俺は雨宮先輩の殺気に押しつぶされるかのような錯覚を覚えた。
「……っ!!」
ガタンッ!
本能的にその殺気から逃げようとしたのだが今は始業式の最中。
後ろに引いた足は思いっきり椅子にあたり、体勢を整えようとしたのだが殺気にあてられた体は言うことを聞いてくれず、俺は派手な音を立ててその場にしゃがみこんだ。
「棟梁!?」
「剣!?」
俺のそんな様子を心配して、東条くんや阿左美を始めとした周辺の生徒たちが心配そうに俺に駆け寄って来てくれるが、正直俺はそれどころじゃなかった。
しゃがみ込んでからも感じられる殺気。今なお、その殺気に本能的に恐怖を感じ取った体は震えが収まらず、尋常じゃないほどに分泌される脂汗はポタポタと床に滴り落ちる。
(…なんで…なんで皆は平気なんだ!?あんなに……あんなに明確な殺気感じて普通でいられるなんて、おかしいだろ。)
「ふん。結果は分かったな。」
雨宮先輩はそれだけを言うと、満足そうにマイクを先生に手渡してからゆっくりと壇上から降りていった。雨宮先輩が壇上から降りると同時に先ほどの殺気は消えていた。
「……っ、(あの人、化け物だ)」