学校生活を語ります(2)
第一ホールに到着した俺と阿左美だったのだが、ホールの入り口になにやら人だかりができていて、とてもじゃないがホールに入れる状況じゃなかった。
「……?」
これは一体何が起きているんだ?
思わず首をかしげると、そんな俺に気づいた阿左美が不思議そうに俺を見上げてくる。
「あれ?剣は知らないんだっけ?新しいクラスの名簿が貼ってあるんだよ。始業式の後は、その名簿にそったクラスに移動しなきゃって言われてたじゃん」
なるほど、そういえば先生が言っていた気がする。
あまり記憶にないのは、きっと寝不足で寝てしまっていたからだろう。
「と言うわけで、俺達も見に行こう!」
「……そうだね」
言うが早いが、阿左美は小さい体でどんどんと人だかりに突っ込んでいく。
俺はその後ろをゆっくりとついていきながら、名簿が見える距離まで移動する。
名簿は発見したがどうにも俺の名前を見つけることができず、ジーッと名簿を睨みつけていると、前方から阿左美の嬉しそうな声が聞こえてきた。
「あ!あったあったー!!剣ー!また同じクラスだよー!!!」
…阿左美と同じクラスでよかった。
俺は嬉しそうにしている阿左美の隣までなんとか歩いて行き阿左美が指差す先を見ると、確かにそこには俺の名前が書いてあり、阿左美の名前も書いてある。
ただ1つ、問題があるとしたら俺と阿左美の間に名前が書かれている人物が、阿左美との相性最悪ということだ。
「………っ(東条 太一と一緒か…)」
この東条 太一という人物、格好いい名前と裏腹にその見た目は可愛いと言われるタイプ。中身はプライドが高くてちょっと扱いにくい性格なのだが、それがまた良いと一部の生徒に大人気の生徒である。
確か小規模だけど親衛隊持ちで、親衛隊の皆からは女王様って呼ばれているとか…。
そんな東条くんなのだが、自分と同系統の阿左美の方が人気があるという事実がどうにも気に入らないようで、事あるごとに阿左美にライバル意識を燃やしているのだ。
それだけでも迷惑なのに、阿左美は阿左美でそんな東条のことを名前しか知らないレベルのため、それがまたさらに東条くんを煽るという悪循環に陥っている。
2人の会話は遠目から見る分にはなにも問題がないのだろうが、近くで聞いているとそこだけ気温が下がっているんじゃないか?と思うくらいにひやっとするのだ。
(巻き込まれたくないな。……面倒くさそう…)
思わず小さく溜息をこぼすが、それに気づかなかった様子の阿左美は楽しそうに俺の制服の袖を掴む。
「ほら、剣!中行くよ!始業式始まっちゃうよから!!」
「………あぁ…うん…」
第一ホールの中は人口密度が高く、どこか空気が良くない。
「…、(換気してほしいな…)」
「さぁ、剣!新しいクラスはあそこだよ!」
阿左美はもうテンションが振り切れているのか、ぐいぐいと俺の腕を引いて座席へと向かっていく。
新しいクラスの出席番号順に座席は割り振られているため、俺と阿左美は東条を挟む形で座ることになるわけだ。
そしてそこには既に女王様こと東条くんが座っていた。東条くんは俺と阿左美に気が付くと、面白くなさそうに鼻を鳴らしてから、作ったような笑顔を浮かべる。
「あれ、誰かと思えば月島じゃん!まさか君と一緒のクラスになるなんて、ねぇ!」
「やっほー、東条くん!俺もまさか君と同じクラスになるなんて思わなかったよ!これから1年、よろしくね!!」
周りの気温が3度位下がった気がした。
もちろん、阿左美自身は特に意識した何かがあるわけではないのだけど、それでも東上くんの表情が妙に引きつっていて、何かをこらえているのが目に見えて分かる。
それに寒気を感じたのは俺だけでは無いようで、周りにいた生徒たちも皆恐ろしい物を見るかのような表情で東上くんと阿左美のやり取りを見ていた。
…早く始業式始まらないかな。
そう思いながら、俺も2人のやり取りを見ていると、そのうち東上くんが視線を阿左美から俺に突然向けた。
「にしても、棟梁。君はどうして月島といつも一緒にいるの?…僕の方が断然可愛いのに!」
「……!?」
突然俺の方に話を振られたことに驚いたし、何より反応に困る。
実は、俺は2年生に進級する少し前から東上くんに目をつけられているのだ。
理由は簡単で、東条くんは阿左美の事が気に入らないために、阿左美への嫌がらせを企てることがある。
その一環として、阿左美の友人である俺を引き離そうとしているらしいのだ。
(…その行動のせいで、東条くんの親衛隊から嫌がらせの被害を受けるようになったとは知らないんだろうけど。)
反応に困っていると、そんな俺を見かねたのか、阿左美が笑いながら助け舟を出してくれた。
「ははは、東条くん。剣は人を見た目で選ぶような人じゃないんだよ。」
「月島には聞いてないじゃん!それに、現に棟梁は今何も言ってないよ!?」
「……あ…阿左美…言うとおり…」
俺が阿左美の言葉に激しく同意を示すと、東条くんはその可愛らしい顔を不機嫌そうに歪めると、「あ、そう!」とこれまた不機嫌そうにそう言って俺からも阿左美からも視線を外す。
「……助かった…」
思わず口から出てしまった言葉だったが、隣に座る東条くんにも聞こえないレベルの小声だったようで、俺は慌てて口元を手で抑えてから視線を前に向ける。
まだ始業式は始まらないが、阿左美と話そうにも間に東条くんがいて話せないし、そもそも俺は話をするのが苦手だからとくに話すこともない。
とくにすることもないため、俺はゆるく腕を組んでから舞台上の準備をしている生徒たちの動きを目で追うようにして時間を潰すしかなかった。