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硝子の武士  作者: 葦草
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学校生活を語ります(1)


私立羽柴ノ学園。


人里離れた山奥に建設されているその私立高校は、高校の校舎とは思えない作りの建物と、その建物に隣接するように建てられた学生寮が特徴的な学校だ。

その豪華な建物や設備からは高額な学費を想像されがちではあるが、それに反してこの学園の学費は高くなく、世間一般の私立高校とは大差がないという。


そんな羽柴ノ学園は実業校に分類され、ある内容について専門的に学んでいくのだが、その内容は商業でも工業でも農業でもない。

武術・体術に特化した授業カリキュラムを組み、生徒1人1人がそれ相応の戦闘力を身につけるための、いわば「戦闘」を専門とした特殊高校なのだ。


さて、自己紹介が遅れたけど俺の名前は棟梁 剣。

この羽柴ノ学園に在籍する生徒で、この春2年生に進級したばかりの16歳だ。


春休みの終わる一週間前から帰寮していた俺は、濃紫のタートルネックインナーに白色のピーコート、ピーコートと同色のスラックスという変わった制服に身を包み、

学校林から漂う花の香りに目を細めながら始業式の会場に向かっていた。


周りを歩く生徒たちを見ると皆どこかそわそわとしているが、俺からすると「進級」ごときでそこまでそわそわする気持ちがまったく理解できない。


「………(2年生になったら、授業がさらにきつくなるだけだろ…)」

「つぅぅぅるぅぅぅぎぃぃぃぃ!!!」


俺が1人でそう考えながら歩いていると、後ろから俺の名を大きく叫ぶ声が聞こえた。

その騒がしい声に少しだけ呆れながら後ろをゆっくりと振り向くと、そこには満面の笑みで俺に向かって突進してくる小柄な美少年の姿がある。


「おっはよーう、剣!!」

「…はよ、阿左美。」


この美少年の名前は月島 阿左美。1年生の時にクラスが一緒だったのだが、ある一件から仲良くなり、今では俺の唯一無二の親友だ。


少し癖がある栗色の髪に、薄茶色のくりっとした瞳が特徴な阿左美は俺よりも30cm以上低い身長という小柄な体躯と、その見た目から阿左美様親衛隊というものが発足されている。

そんな「親衛隊持ち」ステータスの阿左美は、周りの生徒からは阿左美様と呼ばれたりしている人気者なのだが、実は俺しか知らない秘密がある。


それは、阿左美は男同士が恋愛をしている情景を見て興奮を覚える性癖を持っている「腐男子」という存在であること。

本人に隠すつもりはない様子だがなぜか周りにはそれがバレずにここまで来たらしい。

…まあ、俺自身、最初は阿左美がそういう性癖を持っているという事実を知ったのは仲良くなってしばらくしてからだったけど、だからといって阿左美のことを嫌いになるとかそういうことはなかった。


「あー、剣ー!始業式終わったらクラス替えだよ!!クラス替え嫌だよー!俺、2年でも剣と同じクラスがいい!!剣もそう思うよね!?」

「………ん。」

「まあ、とりあえずクラス発表は始業式の後だし…。あれ?始業式って第一ホールであってる?」

「………(コクリ)」



俺の隣に並んでニコニコと楽しそうにしゃべる阿左美に相槌を打ちながら、俺は阿左美の手元に視線を向ける。

視線は俺の方に向けてるし、たくさん喋っているから意識も俺の方に向いているのだろう。ただ、その手元では先程からスマホがいじられていた。



「…阿左美……その…何?…スマホ…」

「え?ああ、これ?フォロワーさんが昨日の深夜テンションでつぶやいた内容に高速ふぁぼしてるだけだから気にしないで!」

「……そう…」


相変わらずの阿左美に何も言えずにいたのだが、阿左美はそんな俺の方を見上げるとニヤッと笑みを浮かべて思いっきり俺に飛びついてくる。



「あーもう!!なんなの剣!本当理想のワンコすぎてヤバイんだけど!!最高!マジわんこ!!ここが二次元かよ!!」



周りの生徒たちにとってはそんな阿左美の行動が可愛らしく、皆顔を赤らめたり、咄嗟に鼻を押さえたり、どことなく前かがみになってどこかに走り去って行ったり…。



…ああ、言い忘れていたけど、この羽柴ノ学園は男子校であり、しかもこの学園に在籍する生徒たちはほとんどが同性もいける口なのだ。

俺にはよくわからないけど、阿左美いわく「学園モノのBLではよくあること」らしい。


ちなみに俺も阿左美もそっちはいけない口なのだが、阿左美いわく入学当初はそうでもなかった生徒も、8割方がそっちに染まっていくという。恐ろしい。

そんな環境故に、阿左美はいわばアイドルのような扱いを受けているのだ。



(…だからって、男見て鼻血出すか?)



阿左美にはいつもそのような好意的な視線が向けられているのだが、それと対になるように、俺には別の視線が向けられる。それは嫉妬の入り混じった悪意の視線。

当初はその視線に居心地の悪さを感じていたが、それが1年も続けば嫌でも慣れてしまうわけで、俺はそんな視線を受け流しながら耳をすます。


やれ『棟梁のくせになんで阿左美様と一緒にいるんだ』だの、『あいつも進級したのかよ』だの、言いたい放題の悪口が聞こえてくる。

まあ、無理も無いだろう。周りからしてみれば俺なんて、阿左美様にくっついている不潔野郎とでもいったところか。あと進級はするよ。そこは許せよ。



でもまあ、この嫌われように関しては慣れているし、と腹をくくっていたのだが、それが良くなかった。

だって、まさかこの状況がさらに悪化することになるんて、誰も思わないだろう?



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