表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/32

19・井原の道トンネル

 自らの過去の行動を責めている青年の身に実際に起こった出来事である。

 遡ること約二週間前。




 夕暮れ時ということもあり薄暗くなった景色が次から次へと変わっていく。前を走る車の後を車間距離を開けることも無くピタリとついていく形となっているのは昼間嫌な事がありイライラしていたから。八つ当たりである。


 速度を落とすこと無くトンネル内へと入ったところで、強引に黒色の軽乗用車を追い越そうとした。

 素早く対向車線へ移動する。

 速度を一気に加速させて、黒の軽乗用車の真横へ並んだ直後の出来事だった。


 突如大きなスキール音がトンネル内に響き渡る。

 黒の軽自動車が急ブレーキをかけた音だと分かったのは、グシャリと鈍い音がトンネル内に響き渡ったから。

 

 単独事故を起こしたトラックの横を通過して、走行車線へ戻るとアクセルを強く踏み込んで、法定速度を遥かに上回ったスピードでトンネル内を通過する。


 ドキドキと高鳴る心臓と共に沸き上がってくる恐怖心。

 ハンドルを握る腕が小刻みに震える。

 井原の道トンネルを抜けて、しばらく車を進めるとやがて自宅が見えてくる。

 動揺を隠すことなく自宅駐車場へ車を止めた青年は、うまいことバック駐車が出来ずに、何度も何度も駐車を繰り返す。


 時間をかけて自宅の駐車場へ車をとめることに成功をした青年は、恐怖心から小刻みに震える体を強引に動かして家の中へと移動する。


 井原の道トンネル内で一体何が起こったのか、前を走っていた黒い軽乗用車が事故を起こした事は安易に予想することが出来る。

 運転手は無事なのか。

 トンネル内から早々に走り去った青年が知るよしもない。


「兄ちゃん。真っ青な顔をしてどうしたんだ?」

 玄関で呆然と立ち尽くしている青年に、弟がキョトンとした表情を浮かべて呟いた。兄の顔色が悪いことに気づき首をかしげている。


 しかし、言えるわけがない。

 もしかしたら、自分がトンネル内で追い越しをかけたせいで前を走っていた黒の軽乗用車が事故を起こしたかもしれないなんて。

 

「今日は疲れたなぁって思ってな。帰宅したら気が抜けて放心してたわ」

 強引に表情に笑みを張り付けて、不安な気持ちを悟られないようにしながら弟の元へと歩み寄る。


「そっか。体調が悪いのでなければ良かった。夕飯出来てる。親父は今日早上がり。そろそろ帰ってくると思う」

 幼い頃に両親が離婚をして母親が家を出ていった。父が一人で俺や弟を育ててくれたため、俺も弟も父親には頭が上がらない。

 食事を作るのは弟の毎日の日課となっている。掃除洗濯は俺の役割であって、親父は食材や日用品の買い出しをしてくれている。


「了解。夕飯を食べたらすぐに風呂に入れるように湯を沸かしてくる」

 一度2階に上がり、鞄を部屋に置く。父親が早上がりの時は父親を待ち、父親が遅番の時は弟と共に先に夕食を済ましてシャワーを浴びる。

 それが俺達の日常だった。




 

 翌日、新聞記事にそれは書き記されていた。





 停車中のトラックに衝突し男性死亡。

 11日午後5時頃に発生した交通事故の記事が書き連ねられていた。

 井原の道トンネル内で発生した交通事故の時間と俺が井原の道トンネル内を走行していた時間帯が一致する。


 頭を強く打って亡くなっている男性は、きっと黒色の軽乗用車の運転手なのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ご覧いただき有り難うございました。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ