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18・井原の道トンネル

 付き添いである九条は病院の待合室に並ぶ椅子に深く腰を掛ける。テレビ画面を呆然と眺める九条の周囲の席は空席にも関わらず大勢の患者が、九条の側に腰を下ろす事を避けていた。


「居心地悪いな」


 ポツリと一言、素直に考えを口にした九条の独り言を耳にした男性が、ドサッと勢い良く九条の隣の席に腰を下ろす。


「眉間にシワがよってるからだろうな。見るからに機嫌が悪そうな奴に自ら近寄る奴はいないだろうし。ってか、何故病院にいる?」


 何故か病院内で汗だくになっている男性は、九条の通う学校の教師であり、教師からの問いかけに対して九条は小声で経緯を説明する。


「そうか。生徒が一人学校を飛び出したから、追いかけて欲しいと校長から頼まれたんだ。行き先は目の前の病院だろうからって言われて、事情を聞く間もなく走って来たけど、父親の容態はどうなんだ?」

 

 乱れた呼吸を整えようとする男性教師は、途切れ途切れになりながらも自分が何も事情を聞かされていないことを口にする。

 

「分からない。思わしくはないようだけど」

 既に死亡している事実を教師に伝えても良いものだろうか。事実を伝えるのは自分ではないような気がすると考えた九条は小さく首を左右にふる。

 きっとすぐに男子生徒の父親が亡くなった事実は教師や、彼と仲の良い生徒達にも伝わることになるだろう。

 

「先生が来たから後は任せる。俺は授業に戻ることにするよ」

 霊が見えることは兄と妙子しか知らないため、余計なことを口にしてしまう前に早々ににこの場から立ち去ることにする。

 疲れきっている男性教師に視線を向けて呟くと深く腰かけていた椅子から腰を上げる。のんびりとした足取りで歩き出したところで男性教師はか細い声で呟いた。


「おう。また学校でな」

 疲れきった様子の男性教師は九条に視線を向ける事なく、右手を上げて左右に手を振る素振りを見せる。

 病院の天井を見上げたまま神妙な顔をする男性教師は大きく深呼吸をすると乱れた呼吸を整えて小さなため息を吐き出した。

 



 病院正面玄関出入り口に向かって移動する九条を大きく避けるようにして受付まで移動する患者達は皆、病院の壁をまじまじと見つめている。

 病院の壁に何か、心引かれるようなものが記されているのだろうか?

 疑問を抱き、一緒になって壁に視線を移してみるけれど、何もかわったところはない。

 

 もしかして、俺を視界に入れないようにしている?

 疑問を抱いた九条が患者の一人に視線を向けると、神妙な面持ちを浮かべる患者が顔面蒼白となって小さく身震いをした。

 それほど、俺の見た目は人に対して不快を与えるのだろうかと疑問を抱く。足早に病院内を移動する。正面玄関出入り口にさしかかった所で自動的に扉が開き、真っ青な顔をする青年が病院内に足を踏み入れた。


 青年とすれ違うような形で病院から足を踏み出すと、ほんの一瞬視界に入り込んだ光景に対して疑問を抱き、立ち止まる。

 背後を振り向くと、それは視界にはっきりと入り込む。


「ん? 一条に取り憑いていたはずなんだけどな」

 ポツリと一言、小さな声で独り言を呟いた九条の視界には、顔面蒼白となりながら足早に病院内に移動する青年の背中に、寄り添うようにして後に続く、首の無い霊が映し出されていた。


 一条に取り憑いていたはずの首なしの幽霊が何故青年に取り憑いているのか、疑問を抱きつつもどうすることも出来ずに九条は学校に向かって足を進める。


 


「何で俺じゃなく親父なんだよ。親父は何もしてないどころか通夜に参列したのに……」

 本当にポツリと小さな声で呟かれた言葉は九条の耳に入る事なく、病院内のざわざわとした話し声にかき消されてしまう。

 顔面蒼白となりながら、自らの過去の行動を責めている青年の身に一体何が起こったのか。

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