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16・井原の道トンネル

 日の出前。

 道路を照らすために設置された街路灯すれすれを2台の車が立て続けに通過する。

 先頭を走るのは黒の軽自動車。

 後に続くのは白の乗用車である。


 黒の軽自動車を運転する白髪の男性は顔面蒼白となりながらも、アクセルを強く踏み込んだ。


「じいさんや。速度を出しすぎではないかのぉ」

 普段は安全運転を心がけている男性の荒い運転に、堪らず助手席に腰を下ろす白髪の女性が声をかける。


「後ろを走る車が車間距離を詰めるのであれば、脇へ止めて先へ行ってもらえば良い。こっちが速度を合わせる必要はないんじゃ」


 顔面蒼白となっているじいさんが何を考えているのか婆さんには分からない。背後を走る車と一緒になって速度をあげて走っていては事故に合う可能性がある。

 

「婆さんや。バックミラーを見てはくれんかのぉ」

 顔面蒼白となりながらも荒い運転をするじいさんは、行動とは対照的。落ち着いた口調で呟いた。


「40歳くらいかのぉ。おでこの広い男性が運転しているようだが……それが何か問題でも?」

 じいさんが、何を言いたいのか分からない。婆さんが首をかしげて問いかける。

 

「そうか。婆さんには男性の姿が見えるのか」

 じいさんの意味深な発言に対して疑問を抱いた婆さんは、小さく頷いた。

 一体じいさんには何が見えているのやら。

 不信に思った婆さんが背後を振り向いてみるものの、やはり後方を走る車を運転しているのはおでこの広い男性で間違いない。

 

「まさか、後部座席に女性の霊が座っている何て言い出すんじゃないだろう?」

 じいさんには霊感があるのだろうかと、疑問を抱いた婆さんが問いかける。


「わしは生まれてからこれまでの間、一度も幽霊を見たことはないんじゃよ。後部座席に幽霊が乗っているのかどうかは分からないが……」

 じいさんは自分の目にしている光景を口に出して説明をしてもいいものだろうかと考えていた。

 婆さんの見ているものと、じいさんの見ている光景は違っていた。

 

 見ている光景を口に出して説明をするのは勇気がいる。人に話すことにより後ろを走る車の持ち主であろう人物に悪影響が出るかもしれない。自分達が危険な目に可能性もゼロとは言い切れない。


 しかし、このまま法廷速度を大幅に越えた状態で走り続けるのも危険な行為であり、ハンドル操作を間違えば死に至る可能性がある。 

 どのみちこのまま法定速度を大幅に越えたスピードで車を走らせ続けることも出来ないだろう。この先の井原の道トンネル内は急なカーブとなっているためブレーキを践まざるおえない。


 ここは一か八か。



「わしには原型をとどめていない顔を、首の皮一枚で繋ぎとめている人の姿が見えているんじゃ。男性か女性か見分けがつかん。じゃが、婆さんには人の姿に見えているのなら、その言葉を信じるぞ。後ろの車に抜いてもらおう。てっきり、追い付かれてしまえばあの世に連れていかれると思ったんじゃが……」


 普段は安全運転を心がけているじいさんが、荒い運転をしていた理由が分かって婆さんは安堵する。

「脇へ止めて先へ行って貰おう」

 婆さんが直ぐ様頷いた。

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