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12.まねかれざる客

「いや、今の痛みは俺のせいじゃないだろ……自分で思い切りつねったんじゃないか」

 理人はいつも表情に笑みを張り付けているため、その感情や思っている事を知る事は難しい。仲の良い一条と話している時でさえも、ニコニコとただ笑っているだけ。


「君が驚かせるからでしょう……本当に誰かいるの? 僕の目には映っていないのだけど」

 自ら進んで話しかけてくるような奴ではなくて、まして人を睨みつける何て……。

 小さなため息を吐き出すと共に、俺の背後に視線を向けた理人が首を傾げる。


 勝手に理人に対して苦手意識を持っていたけれど、洋館に来てから随分と俺の思い描いていた人物像が崩れてしまった。


「俺には見えるんだよ。俺と同じ年くらいの女子高生が」

 偽の妙子がニヤニヤと笑みを浮かべると俺の体を解放する。床に足がつくと考えるよりも先に本音が漏れた。


「ってか、軽々と俺を持ちあげられるのなら階段を上るのに俺が苦戦している時に運んでくれたって……」

 背後を振り向き偽の妙子に声をかける。


「その手もあったわね。けれど、女である私に体を軽々と抱えられる事を貴方は嫌がると思ったのよ。でも、気にしないのなら階段をおりる時は抱えてあげるわよ」

 考えもなしに言葉を漏らしてしまってから後悔した。自分よりも小柄な偽の妙子に体を抱えられる姿を想像して顔から血の気が引く。

 

「やっぱり自分の足で歩く。確かに偽の妙子の言う通り恥ずかしくてすぐに下ろしてほしいと頼むことになるだろうし」


「えっと……話は学校に戻ってからにしようよ。一条が気づいたみたい。僕が学校を抜け出した事を……」

 黒を基調とした最新型のスマートフォンを取り出して操作し始めた理人が一条に連絡を入れているのだろう。見ていて羨ましいほど、軽やかに文字を打ち込んでいく。

 

「あぁ……そうだな。後は警察に任せて俺達は学校に戻るか」

 身を翻した理人に続き、洋館を後にしようとした俺に声をかける人物がいた。


「ちょっと待って。警察に伝えて欲しいの。一階に書斎があるんだけど、二番目の本棚を押してから横にスライドさせると隠し通路があるの。階段をおりると地下へ行けるわ」

 俺の腕を咄嗟に掴んだ偽の妙子が険しい表情を浮かべている。


「どうしたの?」

 足を止めた俺に気づいた理人が背後を振り向いた。


「なんか……一階に書斎があり、二番目の本棚を押してから横にスライドをさせると隠し通路があるらしい。階段を下りると地下へ行ける事を警察に伝えてほしいと言っているんだけどさ」

 偽の妙子を指差して、警察宛の伝言を理人に伝える。


「地下に何かあるの?」

 俺が指差した方へ視線が向かうように体の向きを変えた理人が首を傾げる。


「私の体があるのよ。あの日、地下室に閉じ込められてしまってね」

 ポッと偽の妙子の頬が色づいた。

 ほんのりと赤みがかった頬を隠すようにして両手を添えると、くねくねと体を動かす。


「どうやら地下室に閉じ込められているらしい」

 偽の妙子の反応を理人に伝えることなく簡潔に要旨を述べると、理人の穏やかだった表情が一変する。


「まだ監禁されてる子がいるの? 知らせてくる」

 身を翻した理人が警察の元へ向け足を進め出す。



 慌ただしくこの場を離れていく理人を見送って、偽の妙子に視線を向ける。

 そこには、ふわふわと体を中に浮かせ、満面の笑みを浮かべる偽の妙子の姿があった。

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