EP1 悠久のひと時
ぼんやりと眼を覚ます。
心地よい睡眠であった。
この感覚だと、1週間くらいは寝ていただろうか。
薄暗い砂浜に磯の香りがただよい、波の音だけが洞窟の中に響いている。
悠久の時をこの場所に繋がれていたが、それでもここは心地良い。
我は、この場所を気に入っているのだ。
魔道師どもにかけられた拘束が解かれた今も、この場所をねぐらとしている。
我の気配を察してか、虫1匹も訪れぬ静かな場所である。
海に出れば、潮の流れが良いのか大きな魚が多い。
大きな魚が多いから、我が食す水生の魔物も多い。
ここは食糧も豊富なのだ。
1年を通して涼しいのも素晴らしい。
火山に巣くう竜もいるらしいが、とてもじゃないが考えられん。
我なら1日で干上がってしまう。
守るべき制約もなくなり、好きなだけ寝て、腹が減れば食事をする。
悠久の時を生きる我にとって、大抵のことが些末事である。
そんなことを考えていたら、小腹が減ったのだ。
洞窟から海に出る。
今日も魚が多い。
きっと我の獲物も、すぐに見つかるだろう。
しばらく泳いでいると、魚群に襲い掛かっている大王イカを見つけた。
今日の食事は、あいつだ。
大王イカに高速で近づいていく。
向こうも我に気づいたようだ。
墨を吐いて逃げようとしている。
しかし、そんなもので我からは逃れられんのだ。
大王イカの巨大な身体に爪を振るう。
見事、爪は胴体に刺さった。
まだ抵抗しているので、頭を握りつぶした。
爪に獲物をひっかけたまま、住処へと戻る。
洞窟の中にある小島へ大王イカを運ぶと、食事の時間とする。
なかなかの大物であったので、腹は一杯である。
少し眠気が襲ってきた。
このまま、しばらく睡眠にしようかと思う。
うとうとしていると、脳内に念話が届いた。
我に念話してくる相手は1人しかいない。
唯一の我が友である。
『ブライトよ。今、話しかけても良いだろうか?』
『我が友よ。我はいつでも汝の話を聞こう』
『ありがとう、ブライト。
1つ質問があるのだが、使い魔についてである。
使い魔を召喚し、契約する術式を発見したのだ。
実際に使い魔を作ろうと思うのだが、何か注意する点はあるだろうか?』
『ほう。また懐かしいものを見つけたようだな。
使い魔を召喚する際は、汝のイメージに近いものが訪れる。
魔道師どもは鳥と人間、両方の姿を取れる魔物を良く使い魔にしていたな。
その系統の魔物は使い勝手が良いのであろう』
『なるほどな。そのイメージで召喚してみよう』
『あとは、契約と同時に名前を付けることだ。
名前を与えることによって、契約から誓約に変わる』
『おお、そうなのか。それは古文書にも書いてなかったのだよ。
さすがは、ブライトだ』
『グッグッグッ』
『早速、試してみるのだ。結果は、また報告しよう』
『楽しみにしておるぞ、我が友よ』
我が友ハルファス…
人間の魔道師だが、我を解き放ってくれた恩人である。
いつも知的好奇心に溢れておる。
ハルファスとの対話は、懐かしき事柄を思い出し、新しき真実を見つけ出す。
我もまた知的好奇心をくすぐられるのだ。
突然面白いことを考える人間でもある。
一度、頼まれて道化師のような真似事をしたが、実に楽しかった。
また道化師の真似事をしてみたいものだ。
ハルファスに、どのような使い魔が現れたか報告が楽しみだ。
また、眠気が襲ってきた。
しばらく寝ることとしよう―――