「井戸端会議」
――とある雨の日――
マサキは炊事洗濯と次々と生活魔法を試していった。
とくに雨の日の【乾燥】は村の主婦たちに非常に好評だった。
数日雨が続き、村の主婦たちが洗濯物が乾かなくて困っていると聞いたマサキは、村中の洗濯物に【乾燥】をかけまくって回ったのだ。
そんな雨の日に3人の井戸端会議が開かれた。
「洗濯物がたまらなくていいわぁ~。一家に一人マサキさんが欲しいわねぇ~」
語尾が甘ったるい喋り方で、村の男供を虜にしている魅惑ボディーのマリアンヌ。
「うちにも欲しいさね。ねぇアリシャ、うちの旦那と交換しないかい?」
粋な喋り方で、村の男共さえ物おじしない豪胆な性格のドリス。
「だめよっ! 絶対っ!」
どこか天然なあどけなさの残る喋り方で、村一番の美人と言われる子持ちのアリシャ。
「はっはっはっは!冗談に決まってるさね!アリシャは正直ものだねぇ」
「~~っ」
「それよりも聞いたわよぉ~アリシャ。あなた、マサキさんと毎晩同衾してるみたいねぇ~?」
「それは……。最近暑い日が続いているから――」
「熱いのはあんたらの夜のお勤めの方さね」
「ち、違うわっ! そうだったらよかったけど――じゃなくて! 彼の魔法に【冷房】っていうのがあって、彼の周りだけすごく涼しくなるの。だから夜はその魔法を使ってもらって、アーニャと一緒に寝ているのよ」
「ふふっ。アーニャちゃんが一緒だとぉ、できないわよねぇ~」
「そうなのよっ! アーニャが居る手前、彼にせまることもできないし。かといって彼とこっそり抜け出そうにも、魔法の効果範囲までついてくるから、アーニャに気づかれちゃうの……」
「アリシャは今年で29歳だったかい?」
「ええ。そうだけど。彼の前で言ったら殴るわよ?」
「……怖くて言えないさね。で、マサルはいくつなんだい?」
「……25歳」
「「嘘だろう(でしょ~)!?」」
「でも彼は25歳って言い張るのよ……」
「いやだってあんた……」
「そうよねぇ~。どう考えても10代にしか見えないわぁ~」
「彼が言うには『確かに僕は童顔ってよく言われてましたよ。』らしいの」
「それにしてもぉ、若く見えすぎじゃないかしらぁ~。あんなキラキラした少年みたいな顔でよぉ~?」
「ええ。でもそこがいいんだけどね。若々しくて初々しくて、あどけなくて。頼りがいがある半面、変なプライドがなくて。分からないことはちゃんと聞いてくるし素直なの。でね? 私が彼にスキンシップをとろうとすると、顔を真っ赤にして照れちゃうの。ふふっ、それはもう穢れのない顔でね。それから、時折見せる優しい笑顔にキュンってなるの。私に向けてだったり、アーニャに向けてだったりするのだけど。あとは――」
「も、もういいわぁ! もういいわぁ~! あなたぁ、マサキさんのことになるとぉ、本当に見境なくなるわねぇ~」
止めどなくしゃべり続けそうな勢いで語りだしたアリシャをなんとか塞き止めるマリアンヌ。
「もうあんたさ、いっそのことマサキに婚約申し込んで、マサキにもらってもらえばいいんじゃないかい? アーニャにもちゃんと説明してさ」
「そうよねぇ~。アリシャの旦那さんが亡くなってもう8年も経つのだしぃ。アーニャちゃんも納得してくれるんじゃないかしらぁ。あなただって寂しい夜もあるでしょ~?」
「……それが出来ないのよ」
それが出来たら苦労しないとばかりに肩を落として答えるアリシャ。
「なんでさ?」
「どうしてぇ~?」
2人の問いかけに対して、アリシャは一瞬答えるのを躊躇ったかに見えたが、俯き気味にボソッと白状した。
「アーニャも彼のことが好きだから――」
途端、アリシャの告白を聞いていた2人が吹き出して笑った。
「ぶっ…あっはっはっははははは!親子揃ってマサキにホの字とはね!」
「ふふふふっ。こんなにも身近な恋のライバルがいるなんてねぇ~」
「そ、そんなに笑わなくたって……いいじゃない……」
顔を真っ赤にしてシュンとなるアリシャ。
小さい頃からアリシャと仲がよかったマリアンヌとドリスは、愛おしげにアリシャを眺めると、どちらともなくこう言った。
「「2人ともマサキ(さん)にもらってもらえばいいさ(わよぉ~)」」
果たしてそんなことが可能なのか。
この世界では重婚に寛容であったが、それはお金のある貴族や商人の話。
一家を支えるだけで大変な農村では一夫多妻など有り得なかった。
しかも親子が同じ夫と結婚するといった話は聞いたことがない。
いや、もしかしたら貴族の中ではあるのかもしれないが。
それに彼なら、あの常識外れの能力で金銭的な問題など解決させてしまう。
悶々と悩み出すアリシャ。
「こりゃ重症さね」
「しょうがないわよぉ~。アリシャにとってマサキさんは、娘を救ってくれた白馬の王子様なんだものぉ~」
こうして井戸端会議は結論が出ないままお開きとなったのだった。