緑星
『ついに見つけたぞ! 水と緑の惑星よ!』
平たい何かが猛スピードで星の周りを回っている。
その中に人型ではあるが、人ではない何かが話し込んでいる。
『これだけの水分があれば、我が星の食糧危機は一気に解決だ!』
『この方向に資源が大量に存在する惑星があるという学者の説は間違ってなかったということだ』
『それにしても…夢見たいだ…惑星全体が水で包み込まれてるようだ…』
彼らの星は元来から水分が少なく、僅かな気体から水を作り出す『水業』が盛んである。
しかし異常気象により大量の気体が惑星から離れてしまい、もはや『水業』だけでは星の水分は賄いきれなくなっていた。
そこで前から計画されていた『緑星計画』が実行された。
早い話、水のある惑星から水を取り寄せるのだ。
奇跡的に発見されていた『緑星』と名付けられた水と植物で溢れた星を見つけた彼らは、この星から水を取り寄せるために、今この場にいるのだ。
『む? 待て! 様子がおかしいぞ!』
乗組員の一人が『星顕微鏡』で惑星の様子を伺っていると、何かうごめいているものが見えた。
『我々に形がソックリだぞ!?』
『馬鹿な!? この星には生命体がいたのか!?』
『水が大量の星では生命は誕生しないはずでは…?』
向こうとここでの常識は大分違うようである。
「キャッキャッ」
「こらこら、あんまりハシャがないの。ころんじゃうわよ~」
真夏日、整備された噴水公園で子ども達が元気よく遊んでいる。
勢い良く飛び出した水が子ども達に雨のように注がれる。
汗がダラダラで辛い状況から一時でも解放された喜びを味わっているのだ。
『むむ! アイツらぁ! 水をあんなことに!』
『し…信じられねぇ…まるで金を浴びているかのようだ!』
『"水はダイヤである"という格言が俺の中で崩れ落ちそうだぜ…』
水が貴重である彼らから見て、それは斬新な光景であった。
水が娯楽として使われている。という事実だけでも驚いているのに、なんとそれが湧き水の如く溢れ出しているのだ。
「あーあ、今日もコンビニ弁当ですよチクショー。あそこで勝ってりゃあなぁ」
ブツクサと呟きながら、コンビニ弁当と500mlの飲み水を持って、この時代ではかなり古びた建物へと向かって歩きだしている。
「休みとはいえ、出掛けたのは失敗だったわ。やっぱあちぃや」
汗が噴き出して水分が奪われる。我慢出来ずに買ってきた水を一気に飲んだ。
「ああ~生き返るぅ~」
その顔は、とても安らいでいた。
『ああああ! あいつぅ! あれほどの大量の水を一気にぃ!!』
『あれだけありゃ、俺たちは1ヶ月持つんだぞ!』
『それを…それをさも当然の如く一気飲みしやがってぇ!』
彼らの怒りは頂点に達していた。もはや戦争も辞さない! そんな決意を身に秘め始めたころ。
「なんだありゃ?」
「あれだよ。巷で話題のドローンって奴だよありゃ」
「へえーあれがねー。こんな湖にねー」
釣りに勤しんでいた二人組が、浮遊している機械を眺めている。
「最近のドローンってよ。手足がついてんのか? 水を掬ってるぞ」
「あり? ドローンってそんなことできたっけ?」
「見てみろって。ほら」
次の瞬間、機械は驚異的な速度で空へと消えていった。
「……最近のドローンはワープ装置もついてんのか…」
「いや…そりゃ無ぇ…たぶん…」
二人は呆然と立ち尽くしていた。
『お! きたな』
無人探査機が、水を持って帰ってきた。
早速、この惑星の水質調査に取り掛かる。
『どれどれ…』
乗組員たちは調査の結果に、顔を青くした。水質には信じられないものが入っていたからだ。
『おい…これって…』
『ああ…猛毒Oだ』
『猛毒O!? 少しでも摂取すれば死に至るというあの!?』
なんと奴らは、このどぶ水以下の水質の水を使っているのだ!
下流層でさえ、猛毒O濃度は0.00001なのにも関わらず、この濃度は規定値の800,000倍を越えている!
『…どうやらこの星は我々にとっては毒の惑星であったようだな』
『見た目に騙されちゃいけないことを学んだよ…』
『上層部は、このサンプルを持っていけば納得するだろうな』
『ああ、帰ろう…』
彼らは家族の待つ星へと帰っていった。
彼らが忌むこのサンプルが食糧危機解決の糸口になるのは、今から100年後であるが、彼らは知る由もない。
[昨日未明、未確認飛行物体が確認され…]
「またこの手の話題かい。飽きないねえ」
ボロアパートの大家が、朝からビールを片手に美容パックを貼りながらテレビを見ていた。
「ちょっと母さん! 私の美容パック勝手に使ったでしょ! それと朝からビールはやめてって何回も言ってるでしょ!」
帰省していた大家の娘が怒っていた。
今日も平和であった。