【習作】 家宝の宝石から現れた5人の美少女精霊とのドタバタラブコメ/冒頭 【続かない】
蔵を片付けるにあたって、俺はでっかい梯子を引っ張り出してきた。
掃除は上から。鉄則である。まして下手すりゃ云十年物の埃が上から舞い降りてきたら、下をいくら磨いてもその時点でおじゃんとなりかねない。
言うは易しという奴で、まず梯子を見つけるのに一苦労して、半ばボケた祖母の繰り言に付き合った挙句、田舎特有のやたら広い家の反対側のガレージに格納されていたことを思い出す。
それを持ち出し、蔵に入れるまでが一苦労だった。なにしろ大して広くない蔵の床にまでモノがあふれている。でっかい木箱の類をパズルめいた閃きによって動かすことによって、どうにか俺は梯子を立てるための土地をねん出した。
そして、大まかに三段に分けられた蔵の最奥にひっそりと隠すように天井裏への階段を見つけた俺はそれを躊躇い無く上った。
気分は半ば探検である。
真っ暗な屋根裏は、存外がらんとして物が少ない。これまた何十年開けられていなかったのかもわからない窓を開けると、飛び込んできた光に照らされて埃が生きもののようにうねり、
ぽつん、と。
行李、というのだろうか。
屋根裏にあったのは古めかしい箱がひとつだけ。
「なんだそりゃ」
下の方はぎゅうぎゅうに詰め込んであったのに、上の方が全く使われていない。
収納空間の下手くそさは、先祖代々受け継がれて俺の母親で焼結を究めたらしい。願わくば俺の代でその忌まわしい連鎖は断ち切られて欲しいところだが、妹にもまたその才能の片鱗が見えるのが頭の痛いところだ。
箱を開ける。
なんだかキラキラした黒っぽいものが入っていた。
「なんだこりゃ」
よくみればそれは一塊の石だった。大方は真っ黒な、このあたりでもいくらでも出土する火山岩だ。
だが、そこにまるで人の手で埋め込まれたような石が五つ。
赤、青、黄、紫、茶。
五色の石がキラキラと光っている。
果たして自然に宝石がこの様に算出するのかはわからない。が、もしかしたらあるのかもしれないとも思う。宝石の色というのは全体からすればほんの少しの不純物によってつくものなのだから。
「……うん?」
突然、手の中の宝石が輝き始めたのに気が付いたのは偶然だった。
爆発する。
とっさにそう思ったが、別に宝石は熱くなったわけでもなく、ただ光りはじめただけだった。ただ、アニメだと大抵そうなる。理由と言えばそれだけだと思う。
アニメを見ていてよかった。
宝石は本当に爆発したし、そのまま持ち続けていた場合の俺の被害は当社比この五倍となっていただろうから。
「うわ!」
放物線を描いて飛んでいく宝石は、その最高到達高度で一際強烈な光を放つとどこか間抜けな音と白っぽい煙を噴出した。
と、同時に俺の背中になにかとんでもない重さがかかった。
重さ自体は、正直さほどでもなかったと思う。ただ、急だったことと、思わぬことに慌てて体制を崩していた事があって、俺は盛大にすっ転んだ。
その時だった。
「やった~! お外だ!」
「!?」
そんな声とともに俺の右手が踏まれた。
「待ちなさい琥珀!」
「!?」
左脚。
「私達も遅れずのりこめ~」
「この場合は乗り出せ、が正しいのでは?」
「!!??」
右足に左手。
あまりに五体あまりなく痛めつけられたせいで、一体自分は痛いのか単に衝撃を受けたのかが一瞬さっぱりわからない。
だが、煙が薄れていくにつれて、痛みが本物であることがわかってきた。
余りに痛いと悲鳴を上げることもできない。
それが全身となると、痛がる動きでさえ痛い。
――全身?
そう、全身。痛みのあまり叫ぼうにも、そのために息を吸い込もうにも、胸から腹にかけての打撲と、背中の重みが邪魔をする。
――背中の重み?
そう、そもそも俺が大成を崩したのはその所為だった。
いったい何が。
振り返った俺の眼前に、美少女の顔のどアップがあった。
いろんな意味で息が止まるかと思った。
「助けてください!」
「いや待ってごめんなさい俺が助けて!?」
昨今表現規制などの声かまびすしく、成年男子が未成年女子に理由あって声をかけただけでも刑事事件沙汰になる昨今である。
この距離は確実にアウトだと、俺の理性が告げていた。
手足の痛みも忘れ慌ててあとずさろうとする俺に、しかし美少女はがっしりと肩をつかんで食いついてくる。
近い。
これだけ近く、そして壁に追い詰められるまでの時間でしっかり見たので言わせてもらうが、すんげえ美少女だった。
日本人離れした、とか言うまるで具体性のない熟語を常々憎悪している俺だが、この少女が果たしてどんな人種に属すのかはとんと見当がつかない。日本人っぽくはないが、かといって肌の色こそ白くても白人という感じでもない。無論黒人という雰囲気は色の事を抜きにしてもなかった。俺の乏しい人種理解だとその程度である。
あるいは人間でさえないのかもしれないと思う。
その証拠に、その髪色もその瞳の色も、染めたとはとても思えない自然な風合の、しかし人間が到底自然に獲得できるとは思えない燃えるような赤色だったからだ。
彼女に感じるのは、人間相手の美しさではない。そんな親しげで卑近で気安いものではなく、
宝石めいた美しさだと思う。
「早く姉妹たちを連れ戻さないと、大変なことになるんです!」
だから、彼女が俺に理解可能な言語を口走ったという事実を、俺はしばらく正確に理解できないでいた。
そして、その意味をゆっくりと理解する。
ついでに、彼女がどうも焦っていて、緊急性が高そうで、なりふり構ってはいられないという気迫も。
「俺に言ってる?」
「はい」
「あー。別に君を助けるのは吝かじゃないんだが……」
「本当ですか!」
悦びのあまり、だろうか。
ようやく肩を開放してくれ、万歳した彼女を見て俺は重要な事に気が付いた。
「その前に服、着てくれないか。目のやり場に困る」
「あっはい」
キョトンした顔で返された。
でも大事ですから。これ。
もう精神が降り切れていて驚きなど特に感じないのだが、彼女は何しろ裸だった。
それは困る。
年齢は、よくわからない。人種によって大分見え方が違うものだし。
だが、どう高く見積もっても平均的な日本男子である俺の胸のあたりまで、というのは成人とみなすより未成年と考えておいた方がいいだろう。
胸もあんまり膨らんでいないようだし。
感動は無くても理性は働く。初めて知った。
そして、理性が働いていても本能も休んだりはしないのだ。
俺は一瞬で彼女の裸身を余すと来なく目に焼き付けてしまった。
その、次の瞬間。
「えいっ」
先ほどの宝石が光ったのと同じように彼女の身体光に包まれ、そして聞き覚えのある音と見覚えのある煙が噴き出す。
一泊して煙が晴れると、そこには俺と同じ服装をした彼女が立っていた。
俺のと同じようなジーパンとTシャツを着て。
俺のと同じサイズのそれらは、全然体にフィットしていなかった。だぶだぶだった。それどころかズボンはあっという間に滑り落ちて、「あら」という気の抜けた反応のあと、彼女はズボンをずり上げ、もたもたした手つきでベルトをする。ぶかぶかのTシャツの襟ぐりからその下が色々と見えてしまった。
声を大にして言いたい。
驚きのあまり固まっていたのだと。
不可抗力であったと。
ようやくベルトを締めた彼女に、俺は軽く頭痛を覚えて訊ねた。
なんとなく、大体のアウトラインは分かっているような気がするのが心強い。
アニメ見ていてよかった。
「で、君なに。何かいきなり出てきたように思うんだけど」
「実は私、貴女が先ほど持っていた宝石に宿っていたルビーの精なんです」
「へえ。ルビーの精」
訂正。
やっぱ実際目の当たりにすると衝撃がダンチだわ。
アニメ過ぎる。
「……悪いんだけどさ、俺、手が痛くて。代わりに頼んでいい?」
「何なりと」
「ちょっと俺のほっぺ抓ってみてよ」
「え? あ、はい……これでよいですか?」
「うん、ちゃんと痛かった」
思いのほかしっかり抓られたせいで、凄く痛かった。
無事だった頭部もやられてこれでもう全身痛くてしょうがない。
しかし参った。
夢じゃないのか、もしかして?
続かない