墜落?ろけっとがーる! ~003~
今回は書いててとても楽しかったです(。・ω・。)
「うーん。」
ひな子はあごに手をあて、座り込んで考える。
――今日の打ち上げで『推進力』のほとんどは失っちゃいましたし、よしんばここで『補給』したとしても『熱振動変換機』の調子自体がおかしいです。目の前の人は……、おっといけません。カケルでしたね。カケルは話に聞いてたような夢見がちの可愛い子ではありませんでしたよお母さま! 昼間はあんなにやさしそうだったのに、一体何がカケルを変えてしまったんでしょうか……? ともかくこのまま疑われっぱなしというのは非常に『しゃく』にさわります。『おいいつけ』に逆らうことになってしまいますが…… こうなったら――
「わかりました!」
ひな子は勢いよく立ち上がると、叫ぶようにそう言った。
――絶対に人に『見せるな』と言われましたが、カケルなら、大丈夫ですよね――
心の中の誰かに、同意を求めるようにそうつぶやくと、ひな子はカケルに向かって口をきゅっと縛り、これから起こる出来事に覚悟を決めた。
「考えはまとまったか?」
「はい、『証拠』があればいいんですよね?」
「そうだ。証拠だ」
相手の出方をうかがう為にも、あえて証拠の『手段』は提示しないカケル。
そうですか、と決意の色を目に浮かべ、
「おいでっ!ヴァーチ、ホリー、ディア、ヘイト!」
少女がそう呼ぶと、背負っていたリュックの中から四つの、中心に光る一筋をやどした、真っ黒な機械でできた『円盤』が飛び出してきた。
おぉ!? なんじゃそりゃ!
カケルは思わず声をあげそうになったが、喉元まで出かかったそれをぐっと飲み込み、
「まだ甘い。『その程度』、近所のスーパーで子供が遊んでるのを見かけたわ!」
目標は『この場』で『ひな子』に『空を飛ばせる事』。
決して『空飛ぶ円盤』を見ることじゃない。
カケルの『真実』は多少のびっくりごときで揺らぐ『信念』ではない!
「フォー・スキュー! ゼロモーメンタム!」
ひな子はカケルに応えるように、続けて、『円盤』に掛け声をかける。
飛び出してからはふわふわと好き勝手に飛び回っていた『円盤』は、号令ひとつで忠実な兵隊よろしく、ひな子の周囲にびたっと、張り付くように空中で静止した。
「カケル」
ひな子はカケルから少し離れながら、言う。
「お願いがあります」
「なんだ?」
これから起こる何かを見届けるために、ひな子から目を離さずカケルは答える。
「……近づかないでください。そこから」
「うむ。お安い御用だ」
それからと、ひな子は続ける。
「お願いですから――」
ひな子は少しためらいながら、それでも強い意志を瞳に浮かべ、
それでもなお、何かを恐れるようにこう言った。
どうした?と声をかけようとしたカケルを遮って、
「お願いですから、嫌いに――」
――ならないで――
そんな風に聞こえた気がしたが、
「統合命令!『光放つ天弓』、起動!」
ひな子の宣言が――
「3rdから11thまで疑似信号オン、単独飛行形態シークエンス開始――」
ひな子の最後の『お願い』を、確認させる事を許さなかった。
目を閉じ、祈るような姿勢で手を組むと、四基の『円盤』は燃え尽きんばかりに大きく輝き、内部から激しく空気を切り裂くような音を立て、ひな子の周りに張り付いたまま、その場で稼働し始めた。
「中央通信機器オフ、補助制御装置、接続開始。主塔筒格納――解除――」
彼女のコートの裾からごとり、重そうな音を立てて何かが落ちる。
それは無骨で大きい、融通の利かなさそうな『鉄柱』だ。
太い円筒状の『鉄柱』は突然現れたかとおもうと、それに続けとばかりに今度は一回り細い『鉄棒』が、『鉄柱』を中心に何本も伸びてきて、まるで一つのギリシャ神殿の『太柱』のように形成されていく。
あっけにとられたカケルは、それを呆然と見つめながら、ある一つのことに気が付く。
いや、落ちたのではない。
それは、ひな子から、――生えている!?
「熱振動変換機――切断、終了。補助動力回路、条件、三十秒限定解除、完全解放――」
『太柱』から聞こえてくるのだろうか、それは地鳴りのような吸気音を立て、不気味に体を脈打たせながら、ふとそこでカケルは気づいた。
よく見ると幼さを残すひな子の足から何か――何本もの細い、先端を斜めにカットしたような筒やケーブル、末広りのノズルのようなもの――次から次へと突き出て、先ほどまでとはうってかわり、『異形のソレ』へと変化していく。
歯を食いしばり、しかし決して悲鳴を上げず、苦悶を浮かべたひな子の瞳から――
円盤からの光を反射させながらこぼれる涙を、カケルは確かに見たように思う。
――『はだし』だったのは……そういう事か――っっ!
カケルは歯噛みしながら思う。
昼間はいていた上品な黒タイツも! もこもこの可愛いブーツも! 『あんなものを押し込まれたら』ひとたまりもない――!
「復帰工程、セット――」
ひな子を中心に突風が巻き起こる。
握った小さな握りこぶしから吹いてくるように、その風がカケルの顔を打ち、前髪を揺らす。
それをきっかけに、
「ひなこっ!」
カケルは、もはやたまらず叫ぶが、吸気の音がさらに大きくなったせいか、声はひな子に届いた様子はない。
しかしそんなことはお構いなしに、カケルは叫び続ける。
これを逃せばまるでこんどこそ機会は永遠に失われてしまうような、そんな懇願にも似たような訴えを、獰猛に唸るような声で鉄の獣は、
かき消し――
引き裂き――
眼前の祈りの全てを凌辱せんばかりの勢いで喰らい尽くす。
騒劇の最中、はたしてそれが通じたのか、ひな子がカケルを見た。
そうしていままで進めてきた『工程』とは少し違う、別の形に開くひな子の小さい口は、
「人間感覚神経器官、――DISABLE(無効化)」
何かを『閉じる』――最低の形を彩った。
もうたくさんだっ! やめてくれっ!
カケルは絶叫し、ひな子だったものに走り寄ろうとするが、瞬間、圧縮した空気が破裂するように、転げ落ちてきた斜面まで押し戻す。
――Guidance is internal(全てを内でみたせ)――
荒れ狂う爆風の中、なんとか体を起こし、慌ててカケルは元いた方向を見る。
仕掛け人形のごとく、引き絞ったばねを引き千切らんばかりに『ひな子』は体を仰け反らせ、びくんっと大きく痙攣したその後は、それにとって代わるように鉄の獣は歓喜の声で、さらに調子をあげ踊りだす。
先ほどまであんなにも苦しそうな表情を浮かべていた『ひな子』の顔から既に表情は無く、人としての幕を閉じるように、目の前の『ひな子』だったものは変貌は止まらず続いていく。
カケルはこのままでは本当に何かが終ってしまう気がして、無理やりにでもそちらへ向かおうとするが、狂ったように吹き荒れる暴力のような風のせいで近づくことすらできない。
お願いだからやめてくれ。もういいんだ! これ以上は見たくない!
誰に祈るようにそうつぶやくと、はたしてそれは通じたのか。
ひとしきり狂った風がようやく収まり、あとにはもうもうと立ち込める土煙。
――そんな暴力の嵐の中で――
これまでの少女のものとはとうてい思えない、それでも鈴の音のように美しく、無慈悲で無機質な『声』を響かせる。
――Ignition sequence start(機械のハートに灯を掲げよ)――
――All engine running(全ての感覚を犠牲にして)――
――Lift off,Aglaia(光を解き放て、天弓よ)――
絶望の託宣を、無事最後まで宣言し終えると、
再び周囲を風で煽りながら、『少女』はゆっくりと浮かび始めた。
彼女につき従う『円盤』は、福音を知らせるラッパのように高らかな風切り音を立て、
放射状に伸びた、もはや取り返しがつかない凶悪な『鉄柱』はとうとう最後に――
ぷすん。
……屁――――っ……?
見事な『証拠』を示し、カケルは――あっけにとられながらも確かにそれを見届けた。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
今回のお話、いかがでしたでしょうか?
このパート、作者的に作品の雰囲気をどうするかの『分水嶺』だったので、展開に少し悩みました。
でもやってるうちに楽しくなってきて、今までで一番変な扉が開いた感覚がし(ry
願わくばこの作品があなたにとって一服の清涼剤になれば、作者の中二病も報われます。( ゜Д゜)y─~~
それではまた、次のお話で。
2014/12/29
ぽんじ・フレデリック・空太郎Jr.
@仕事くりゃれ。