墜落?ろけっとがーる! ~001~
改めましてこんにちはこんばんわ!
ここまで追いかけてきてくださり、本当にありがとうございます。
それでは第二幕です。
第一幕でだらだら書いた設定を、果たして結実させることはできるのか!
ことなかれ主人公の『選択』はどうなるのか。
あの消えていった『光球』はなんだったのか。
早速本編へどうぞ!(*゜▽゜)ノ
――なんだか疲れた一日だった。
陽もいい加減に傾き、博覧会場からは一時間ほどの、駅から歩く帰り道。
カケルはなんだか慣れない一日を過ごしてしまったと振り返りながら、苦楽を共に歩んできた愛車にまたがるでもなく家路についていた。
「破天荒エピソードは家族で充分間に合ってるんだけどなぁ……」
とひとり呟き、今更ながら現場に行っていたらどうなっただろう、などと考えていた。
世間に比べ、比較的変わり者が多い家族を持つカケルは、小さいころはそれなりに、ソレらといい勝負をしていたのだが、青春時代には誰にでも起こりうるある事件をきっかけに、これではろくな大人になれないと一念奮起、自己改革に努め、これまで生きてきた。
しかしこういうことが起こると、『地』というものが出てくるのだろうか。
祖父の忠告はもちろん、自分の理性からの――かかわるな!という声は、しっかり機能し、事実それに従った。
それでも身体は野生動物のように『本能』へ向かいたがる。
行ってみたかったような、何かを失ったような、してもいない後悔のような、表現しづらいこの感情は何だと。
己を啓発する一環のように、一人もんもんとしていると、
――おや、そういえば今日からばあちゃんも旅行に行って、家は俺一人になるんだっけ。
と、そんなことを思い出す。
カケルの姉は来年に控えた進学の為に、一足飛びに学府から招集がかかっていた。
つまり、――天才は大変なの。私がいない間に悪さしちゃダメよ。――
そう言い残して、今年の春から家を留守にしている。
ここにも破天荒な人間が一人。
そんな、少し広くなってしまった家の雰囲気のせいか。
祖母は、ご飯はひとりで大丈夫?と、たよりない孫を気にかけ、
カケルはカケルで、大丈夫大丈夫! たまには何も気にせずゆっくりしておいで。テスト明けで俺も羽をのばすいいチャンスさーと、力強く笑顔で追い出したのが今朝のこと。
しかし、いざこうなってくると、少しばかり自分の胸の内を、信頼のおける年長者に吐き出したいところであった。
今朝がたの自分を若干恨めしく思いながら、改めて自分の現状を認識し、このまま家に帰っても一人かと考えると、足がますます重くなるのを感じる。
「飯買うついでに公園にでも寄っていくかなー?」
返事の帰ってこない独り言を呟き、カケルは家路に向かう道を外れ、自分の避難場所へと足をむけた。
戦後以降、都市開発の見直しの影響からか、戦前の街並みに比べて随分多くの公園や広場が敷設されるようになったそうだ。
その中でもお気に入りの、空が開けた広場のある公園についたカケルは、おーさむさむと味の違いも大してわからない何種類かの中から、目当てのコーヒーを選び、いつもの自販機から買う。
小さいころから、誰かに怒られてはここに避難し、こっそり弱音を吐き出したいときには逃げ込み、家の窓や町中からは望めぬ満点の夜空に随分と救われた場所でもある。
指定席であるベンチに座り、馴染んだ味に安心し、冷えた両手を温め、ほぅ、と一口飲んで白い息を吐き出く。
覚次郎が煙草の煙でするような真似事をし、いくらか気持ちも落ち着いてきたところで考える余裕も生まれた。
――さっきのじいちゃん怖い顔してたなぁ。あの調子なら今日はもう帰ってこないだろう。
小さいころ、覚次郎に怒られた時のことを思い出しそうになり、ぶるると頭を振って別のことを考えることに努める。
いっそ山下のとこに転がり込んで、今日の話をネタに、遊んだ方が気も紛れるか。山下のお母さん、料理上手で優しいし美人だし、そろそろおなかもすいたなぁ。などと図々しくも自分勝手な今後の予定を立て、よっと勢いをつけると座っていたベンチから腰をあげ立ち上がった。
現金なもので、安心できる話し相手と、おいしいご飯の希望が出てくると気持ちも軽くなってきた。駐輪場にある愛車へ向かい歩き出し、
そうだ、山下の差し入れはチョコにしよう、などと考えていると――
ズドンと、まるで地面が震えるように一瞬、カケルの体が跳ねた。
何だ地震か?と自分の周りを反射的に見渡す。
人気は無し、遠くの森から鳥が飛び立つこと以外、視界の中で特に変わった様子は見当たらない。
おかしいなと頭をかきながら一歩足を踏み出すと、――不意の落下感。
とっさのことに感覚が追いつかず、『墜ちた』反応で手足をバタバタさせて何かにつかまろうとするが、それはむなしく空を切る。
落下の後は何やら斜面を転げ落ちているようで、ごろごろ勢いが止まらず。
何かに顔面から突っ込み、ようやくそれは収まった。
「何だ! 何が起こった!?」
とっさにあげたカケルの問いかけは、誰かに返事を返してもらう事を期待したものではなかったが、思いもよらず律儀に返事が返ってくる。
「どうでしたー? キレイでしたかー?」
遠くの方から声が聞こえ、このイタズラを仕掛けた主か? まるで意味が分からない。
「はぁ?! 何がだ! いい加減にしてくれ!」
と、叫び返しながらカケルの理性の糸は、ミチミチと悲鳴を上げ始めていた。
先ほどから視界は真っ暗で何も見えない。
そんなに深くへ落下しただろうか?
落下のせいで普段とは天地逆になっている顔の周囲を中心に、先ほどまでの寒さが嘘のようにあったかい。
状況を確かめなければと暗闇の中、必死に冷静になろうと感覚を総動員する――
視覚、現在暗闇。転落のショックか。それほどまでの深い穴なのか。
聴覚、多少三半規管が揺さぶられているが、先ほどの声が聞こえたところを見ると、鼓膜自体は問題なし。但し声の方向までは不明。
触覚、何やら顔面を中心に埋もれているような感覚。仔細不明。あったかい。風は感じない。痛覚は幸いにも重篤な痛みをこちらに訴えかけてこない。
味覚、土の味。非常に腹立たしい。
嗅覚、なんか洗剤みたいな、干した布団の匂いがする。
――何とか自分の制御を取り戻そうと、もがもがしていると、
「大丈夫ですかー?」
と、やはり遠くの方からのんきに間延びした声が聞こえる。
なんだか昼間に聞いた少女の声とそっくりだ――
そう認識してしまった瞬間、せっかく山下のおかげで日常に回帰し始めていた心が、再び何とも言えない先ほどの感情に塗りつぶされ、沸騰。
煮えたぎった感情が、捌け口を求め、爆発した。
「どっせぇぇぇいっ!!」
気合一閃、掛け声とともに一気に立ち上がると、わっわっわっ!と頭上から焦った声が聞こえてくるが、もはやそれどころではない。
「お前か! このイタズラの主は! 加減というものをしらんのか!」
カケルは普段出さないような、覚次郎譲りの声で一喝する。
重力に多少の異常を感じ、足元がふらつくが、この暗闇では気を付けることもできない。
「イタズラじゃありません。『墜落』です。『不慮の事故』です。『神様のイタズラ』ですっ!」
天高く
聞こえる声は
耳鳴りと
共に遥かな
頭上の彼方に――
しかしもはやそんなことは(季語無し字余り)どうでもいいといわんばかりの勢いで、感情を爆発させることを最優先に、一気に次をまくしたてる。
「いいから降りて来い。いますぐ教育してやる。今日日子供だって謝るときは下からだ!」
「それなら早く降ろしてください! いつまで私の股に顔を突っ込んで怒鳴ってるんですか!?」
「なんだと! バカと煙は高いところが好きだっていうよな? あんまり調子に乗っていると……」
叫ぶのにも体力と息継ぎが必要だ。
そこまで言った後、次の酸素を求めて呼吸をしようとすると、妙になんだか息苦しい。
なんだかカケルの髪の毛をグイグイと、引っ張る小さい手のような感触も感じる。
――近くにいるのか?
頭皮をくすぐる指の感触を頼りに腕を伸ばし、むんずと自分の髪の毛から引きはがすと、再びわっわっわっ!という声と共に、今度はこちらの手首をつかんで引っ張り返してくる。
負けじと、こちらも引っ張り返すと、今度は代わりに首が締まった。
油断した。相手は想像以上の悪意ををもってこちらに仕掛けてきている……っ!
簡単にはやられまい!
距離をとる為、目は見えないまでも強引に上半身を引き抜く。
回避の為に後ろへ飛びのこうとすると、しかし体軸はずれ、思うように身体がついてこないっ!?
重力が何倍も重くなったような錯覚にバランスを崩して、今度は後頭部から無様にはひっくり返った。
うぶっ!と再びカケルの毛根と相手の悲鳴が聞こえたが、顔面にかかる圧力はますます強くなり、このままでは本格的に窒息すると、とっさに自分の顔の前の何かを押しのけようと懸命に腕を伸ばした。
こちらの激しい抵抗にようやく諦めたのか、カケルに押し付けられた『いい匂いがする迷惑な何か』は、わーわーとなにやら騒ぎながら壁の方まで後ずさりし、こちらから遠ざかっていく。
どうやらそれのせいで見えなかったのかと納得し、騒ぐ声のする方を睨みつけると――
「――っ! 変っ態です! こんな屈辱を受けたのははじめてですっ! はずかしめをうけましたーっ!!」
ふわふわマフラーをしっぽのようにぶんぶん振り回し――
「あれですね! あなたがお爺様が言っていた噂の『へんしつしゃ』ですか?!」
片方を腰に、片方をこちらに。お揃いの毛糸で編まれた手袋をずびしっ!! とこちらにつきつけ――
「こういう時は『ほーふく』されても『せーとーぼうえい』になるんですよ!」
手頃な大きさの体を反らし、赤がまぶしい上品なコートは少女の身を守るように包みこんで――
「さぁ! 『じょせいゆーい』を思い知らされたくなければ、今すぐ『しゃざい』と『せーい』を!」
ぷにぷにの素足で一歩こちらにずずぃと踏み出し、何やら当然のように要求してくる――
その怒りでうるんだ瞳とその星空を隠す前髪、恥辱で朱に染めた顔に、ちょいんとのっかっているボンボン帽子の主を――カケルは確かに覚えていた。
子犬のようにじゃれついてきたかと思えば、空を切り裂くロケットのように消え去って、最後は流星になって天に昇った少女。
何とも言えない余韻をカケルに残していった本日の元凶。
なおも続く少女の迫力のない鈴のような声音に、カケルは今更ながら、あーかわいい声してるんだなぁと思うが、
「なぜ……、はだし……?」
再びいきなり『現れた少女』は、――カケルが今、『穴』の底にいること、あまりに近く『不幸な墜落』をしてしまった爆音のせいで、どうやら耳がおかしくなってしまっていたことを――、カケルに理解させたのを最後に。
「もう、勘弁してくれ……」
とうとうカケルは頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
本編はいかがでしたでしょうか?
萌えを感じる事は出来ましたか?(*゜▽゜)ノミ✿<イマハコレガセイイッパイ!!
あなたが少しでもこのお話で癒されてくだされば、こんなに作者冥利に尽きることはありません。
あまり語っては台無しかと思いますので簡単ですがここまでとします。
それではまた次のお話で。
2014/12/28
ぽんじ・フレデリック・空太郎Jr.
@感想くだひゃい。