インタールード -001-
今回は物語の舞台の過去ををせつめーするよっ!( ・ω・)ノ
エネルギー工学に技術革新が起きて五十年余り、世界はめまぐるしく変化した。
自然エネルギーの活用や、リサイクルにおける資源の再生利用が盛んに叫ばれたのは、今はもう昔のこと。
のど元過ぎれば熱さをわすれる、とはよく言ったもので。
半世紀前はあれほどエコ精神が叫ばれ、スーパーのいたるところに見かけたリサイクルBOXは、宇宙からの資源輸入でいつの間にか姿を消し、個人向けの太陽光発電機の営業マンが、『こんちわー地球にやさしいエネルギーいかがっすか!』などとチャイムを押そうものなら、決して目の前の扉が開かれることはないだろう。
――さぁ拓けや我らが未来。大いなる希望と共に!
当時、一人の天才科学者によって、新しい時代の扉が一際大きくノックされた。
挨拶の文句はこういったものだった。
『この乾電池一本で、あの世界最大級の電波塔の電力をまかなってみせましょう!』という愚にもつかないばかばかしいパフォーマンスで。
あまりのあほらしさに注目を集め、お昼のニュースのネタにしてやろうと記者たちが詰めかけた、ある技術研究発表会。
――そんなことできるわけがない。それならば――と実際にタワーの柱に設置された電池ボックスへと、どこにでもありそうな一本の単三電池が投入された。
結果は科学者にとっても観衆にとっても、予想と異なるものだった。
タワーのイルミネーションは過剰な電力のオーバーロードによって激しく光り輝き、まさに光の柱といっても申し分ない姿を見せ――
そのまま煙をあげてタワーごと燃え尽きた。
当然のことながら大騒ぎとなり、消防が出火原因を探るとともに、前代未聞の実験結果を調査すべく、関係各所が様々な角度から調査、念入りな検証がなされた。
莫大な予算がつぎ込まれたタワーに対する被害請求やそれに伴う電波障害、貴重な観光資源であったシンボルを失った地元住人の苦情も殺到したが、実験の成果自体は、予想をはるかに上回る、大成功と言わざるを得ない数字が次々と報告された。
これを受けた報道陣はこぞって、やれ『救いの技術だ』とか『新時代の幕開けだ』などと、使い古された文句を臆面もなく一面に飾りつけ、久しぶりに世界に先駆けた自国の躍進を人々に確信させるかのごとく、これを大きく取り上げた。
ニュースは人々を大いに熱狂させた。
不況や雇用問題など、将来の閉塞感にあえぐ当時の雰囲気は若干以上に明るくなり、暗い未来を吹き飛ばしてくれる朗報だと、皆期待で胸を膨らませた。
もちろん、これほどの技術がいきなり世に投入されてしまっては、混乱の極みとなることは想像に難くない。
事実、国家規模のプロジェクトとなり、優秀な人材が惜しげもなく投入され、実用に向け、これを取り扱うことのできる技術者たちの育成が行われた。
また経済的混乱を避けるために、自国政財界の面々や各国有力者への根回しも行い、人々に新しいものを受け入れてもらうための準備は、着々と行われていった。
当然、より汎用性や安全性を高めるために、その間にも技術実験は極秘裏に繰り返し行われ、世間は次の朗報を今やおそしと待っていた。しかし――
――それはある日突然やってきた。
誰の仕業か。何の前触れもなくこの新技術は、見ようと思えば誰でも見ることができる場所へ引きずり出された。
希望の種子は未熟なままで、裸同然に世界へばらまかれたのである。
世界各国は「ここで出遅れてはならん」とばかりに、この新技術をすぐさま取り入れようとした。
その危うさを知ってか知らずか、いきなり運用を始めようとする国も現れた。
無軌道な方向性は口当たりの良いフレーズと共に。
次々と各方面へ転用されていき、既存のエネルギー効率などを比較ともしない、新しい仕組みで動く新製品たちは、あらゆる分野を飛躍的に躍進させる。
当時の様子を知るために一つ、大げさな話をしよう。
新しい技術が採用された商品が生み出されるたび、その噂だけで旧技術に固執した企業の株価は大暴落。それと同じ数だけ消えていったという。
当然、このことに良い顔をしないのは、これまで旧利権の中心にいた人物たちである。
彼らの言い分はこうだ。――安全性も確立されていない。なんで動いているかもよくわからん、仕組みも明らかになっていないような気持ちの悪いものを自分たちの中軸に持ってくるなど、とうてい正気の沙汰ではない――
なるほど、ごもっともな言い分だ。
つまりは――自分たちの取り分が、日に日に減ることにこれ以上は我慢ならん――ということだろう。
事実その頃から、世界中の老舗企業と新興企業の間で、利益についての争いが激化し、無視できないレベルで摩擦や小競り合いが徐々に目立つようになってきた。
まるでたんぽぽの種が、古いくたびれたアスファルトの割れ目に着地し、ひび割れからたくましくわずかな栄養を吸い上げ、かわいらしく殻をかぶった芽が、地面の下でコンクリートを押し割りながら根を張り始めるように、時代は新たな息吹を感じさせていた。
――ばらまかれた種子は、突然のことで、まるで本人の意図せぬ形であったが、あらっぽい兄弟と共に、世界の各地でどんどん芽吹いた。おっかなびっくりの様子ではあったが、それでも一途に人間のためにと、指向性を持たずその使命を果たし始める――
もちろん、この技術が投入されたのは平和利用に限ったことではない。
いつの時代も最先端の科学は、軍事分野においても大いに歓迎された。
世界の火薬庫といわれている地域で、実験さながらに新兵器は運用され、それに抵抗するように地元勢力はさらなる火力をもって対抗、紛争は激化の一途をたどる。
この流れを皮切りに、各地の争いはますます激しさを増していく。
軍事予算は雪だるま式に膨れ上がり、経済的体力のあるもの以外は早々に潰れ、火種を提供していた国々は、徐々に手に余っていく戦争のお守りで精いっぱいとなった。
そうして、いまだ新技術をとりこめず、旧体制の技術運用を行っている後進国はあっというまに支援を断たれ、世界はどんどん疲弊していった。
結果、当時世界のリーダーシップをとっていた某国の指導者は、公の場で責任を問われることとなり、指導力を疑われ、発言力を失い、責任をとるかのようにある日、突然、事故死したと発表された。
こうして世界は、それまで微妙なバランスで保っていた均衡の天秤を、もはや水平に保つことが出来なくなったのである。
――そしてたくさんの人が死んだ――
未来に希望を望み、新技術を求めた結果、その新技術がないために死んでしまった人の数はそれ以上にのぼったという。
こうした負の泥沼化を収束に向かわせたのは、件の新技術を搭載した一発のミサイルだった。
疲弊していくばかりの戦争に嫌気がさしたのか。
ある国が、頑なに抵抗を続ける『元』資源国へ、普通ならば考えられない標的を目標とした『ある攻撃作戦』を実行した。
その目標とは、旧体制でいまだ現役で稼働し続ける、敵国の中枢エネルギー施設。
とうとう人は、自分の手によるとりかえしのつかない、未曾有の規模の世界的大災害を引き起こしてしまった。
破壊された施設は二次、三次と被害を拡大させ、自国だけにとどまらず海洋を汚染し、危険な物質を含んだ風と雨を世界中にばらまいた。
しかしながら皮肉なもので、この大災害をきっかけに、このままでは新技術活用をする前に世界が終ってしまうという、争いの終結を求める気運が世界中で一気に高まり、戦争は一転、終結へと向かう。
戦争を続けることにもはやメリットを見いだせない国々は、『新しい技術の象徴が、危険な旧技術のシンボルたる施設を、尊い犠牲を払いながらも、来る新時代から駆逐したのだ!』と、どこでどう頭を打ち付ければそこまでポジティブな考え方になるのかわからない、そういう一側面のみを強調した報道を、いたるところで連日熱心に垂れ流した。
多分に偏向をはらんではいたが、指導者たちはこれを自国民に説いていった。
人々は、正直素直に受け入れがたい反発はありながらも、これ以上の争いは望んでおらず、最終的には受け入れた。
世界はあいまいになってしまった境界線を引き直し、色々な約束事を再び結び付け、徐々にではあるが以前のような平和を取り戻していった。
こうして人類の希望の種子たる新技術は、忘れられない教訓を残し、複雑な経緯をたどりながらも、ようやく本当の意味で人々に理解され始めていった。
――世界と人は、互いに深く傷つきながらも、たくさんのものを飲み込んだ一連の争いにおいて、ひとまずの終結を見たのである。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
配慮したつもりですがわりと固い言葉がたくさん出てきて読みづらいと思いましたがどうにもとまりませんでしたすいませn。
書いてるとどんどん量が膨らみそうになった部分で、なんとか自制した箇所です。
本編は暗くならない予定なので、お子様にも安心してご覧いただけます。
どうぞご家族総出でお楽しみください。
それでも「めんどくさいなー!」って人には――(ダッシュ)のところだけ読んでもらえばたぶん行ける!いけるはず、いけるんだろうな。
それでは長々お疲れ様でした。
また次のお話で。
2014/12/25
ぽんじ・フレデリック・空太郎Jr.
@仕事ください。