FILE05:LastFREEDOM〜A X'mas present is me〜
遅くなりましてすみません。『フラグメント!』のUPを期に書き上げました。
──シャンシャンシャン♪♪♪
赤と緑の二色が今日この日を待っていましたと言わんばかりに街を染めている。そして俺が歩いているこ洒落た商店街のあちこちでは、真っ赤な洋服を着ていてカーネルおじさんにどこか似ている感じのするアンチクショウのコスプレをした若い女性がビラを配っていた。真っ赤な服に襟や袖、裾のところにある純白がよく映えている。
まさかこの街にこれほどのコスプレイヤーがいたとはな。いくらヲタ文化が世間の人たちに周知されているとはいえ、若い女性が寒い中コスプレをして堂々と街中でビラ配りをするとは……日本は、……いや、どこの国でも同じような光景なわけだし、世界はもう末期だな──などと考えつつ、顔を上げれば目の前は光で満ちていた。
普通の平日ならばどうってことない風景が、今日という特別な日だと眩しく見える。
この商店街は若者向けの雑貨屋などがたくさんあって、若者に人気の商店街のため、当然若者が半数以上を占めていて尚且つ今日は人が多い。
周りには手を繋いで歩くカップルや彼女の肩に手を回して歩くバカップル、さらに一つの長い手編みマフラーを二人の首に巻き付けて歩く超バカップルで溢れていた。その顔には自分たちは世界一の幸せ者で、不幸になるなんて有り得ないという顔をしていた。
そして極めつけは道のど真ん中で熱いキスを交していた、超という文字をなん文字使っても形容出来ないであろうバカップル。もし俺の右手がケーキで、左手が通学カバンで塞がっていなければ殴り飛ばしてやるとこだった。ったく今日はネロとパトラッシュの命日だというのになんて不純な行為を……
とまぁ、ネロとパトラッシュを引き合いに出して恋人のいるやつらを僻んで(ひがんで)るわけだが……あー、身も心も寒いぜぇ。とっとと家に帰ろう……
* * * * * * * * * * * *
家に帰るとようやく凍てつく(いてつく)ような寒さから解放された。凍てつくような寒さに身も心も打ち拉がれた(うちひしがれた)後、暖房の効いた家に帰ると生きているっていいなぁ、と思うのは俺だけだろうか? ア○ロ、俺にも帰れる場所があったんだぜ。
「おっかえり〜、京ちゃん!」
パタパタとスリッパの音をフローリングで響かせながら、通常よりも三割増しの速さで走ってくる赤いMS。間違いない、奴だ! 奴が来たんだ!! あの赤い彗星のシ○アだ……
「誰がシ○アだって?」
「姉貴……」
「お姉ちゃんはマ○ルダさんがいいの!!」
「マ○ルダさんって誰かわかってんの?」
「えっ、あっ……う、うんとね、『それでも男ですか、軟弱者!!』って言って平手を繰り出す金髪美女でしょ!?」
そんな風に胸を張ってどうだ、みたいな感じで答えないでください。胸が大きいのはよくわかってますから。それに間違ってるし。
「平手打ちを繰り出すのはセ○ラさん。マ○ルダさんは美女だけど、金髪じゃありません」
「うぅ……じゃ、じゃあお姉ちゃんはセ○ラさんでいいもん!」
拗ねたのかぷいっと明後日の方向を向いて言った。
「じゃあってなんだよ。じゃあって。つーか姉貴のその格好からしてシ○アザクだろ。シ○アザクって言ったらシ○アしかいないじゃん!」
「どこら辺が?」
「例えばそう……真っ赤なセーターに真っ赤なミニスカートを着用しているところとか、それに指揮官専用の証である角があるところとかかな。つーか、ケツにくっついてる握り拳と同じくらいの大きさで、柔らかそうな毛で作られていて見るからにフワフワそうなボンボンはなんなんだよ」
姉貴の服装は街でコスプレをしていた若い女性たちと大差ない。姉貴の着ている真紅のセーターの襟と袖、真紅のミニスカートの裾にもフワフワの白い物体が群生している。
「『なんなんだよ』と訊かれたら、答えてあげるが世の情け!! 世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため、真実の悪を貫くラブリィーチャーミングな敵役!! マム──」
「もうええわ!! ……はぁ、でもその服を着用しているということはついに姉貴もコスプレイヤーの仲間入り……か」
「コスプレ言うな」
「でもよ、そんな黒いリボンとかが付いてるのってアニメとか漫画の見すぎだろ。姉貴のはヲタファッションというか、街で姉貴と同じようにコスプレしてる人よりヲタク色の強いコスプレだろ」
「だって京ちゃんが喜んでくれるかと思ったんだもん。どぉ? 似合ってる!?」
姉貴はクルッと一回転して見せた。ミニスカートがフワッと膨れ上がり、白い太股が見え隠れする。スタイルもよく美人の姉貴に似合わない服なんてあるのだろうか。
「えっ、あ、うん。似合ってるんじゃない」
「良かったぁ〜。この服、セーターとミニスカートで五万円もしたんだよね」
俺は自分の耳を疑った。五万円と聞こえたのは気のせいだろうか。
「へ、へぇ〜。よく五万円もお小遣い貯めたね」
「ん? これお小遣いで買ったんじゃないよ?」
「じゃ、じゃあ何のお金?」
嫌な予感がした。
「お父さんの机の引き出しの下に茶封筒があって、その中で諭吉が10人も囚われの身となっていたから3人救いだしてあげたの♪」
「それを拉致っていうんじゃないかな?」
「あとは……ん〜とね、京ちゃんのお小遣いを天引きしたり、天引きしたり、天引きしたり……」 ──俺は気付いていた。月々のお小遣いが随分前から減らされていることを。家計が苦しいからだと思って文句一つ言わず黙っていたが、そんなことに使われていたのか。親父も可哀想に……久しぶりに家に帰ってきてお袋に内緒で貯めていたヘソクリを確認した時、10人いた諭吉が3人も減って7人になってるんだからな。
「つーかなんで俺のお小遣いが天引きされなきゃいけないんだよ!!」
つい口調が荒々しくなってしまう。
「うぅ……怖いよ京ちゃん。これはきっと、そう……カルシウム不足なんじゃないかな? ……かな?」
首をすくめてワザと怯えるような目をして上目使いで俺を見つめる。馬鹿にしてんのか?
「五月蠅い!! カルシウム不足じゃなくとも勝手に小遣いを天引きされてりゃ怒るわ!!」
「だって京ちゃんを喜ばせてあげようと思って買うんだから、京ちゃんがお金を出すのは当たり前でしょ?」
姉貴の口調からは罪悪感なんて微塵も感じられない。
意味のわからない屁理屈をサラッと言うでない!
「待て待て。俺のタメとか言ってるが、着るのは姉貴だろが」
「酷いよ京ちゃん……せっかくお姉ちゃんが可愛い京ちゃんのタメにと思ってお姉ちゃんのお小遣いや食費を切り詰めて、ようやくのことで買ったのに京ちゃんは喜んでくれないんだね……」
「貴方の言ってることは矛盾してますよね。さっきは俺のお小遣いを天引きしたって言ってたのに、なんでいまさら自分のお小遣いを減らしたとか言ってるのかな? ……かな?」
「酷いよ京ちゃん……お姉ちゃんの言うことを信じてくれないの? お姉ちゃんはいつでも京ちゃんのことをBelieveしてるのに……」
「はいはい、わかりましたよ。疑った俺が悪うござんした。何卒お許しくださいませ。姉上さま」
「うむ、わかればよろしい」
俺は殺したい衝動をなんとか抑えた。
* * * * * * * * * * * *
「いっただっきまーす!!」
姉貴が小学生かと思うくらい脳天気な声で、いかにも天真万欄といった満面の笑みを浮かべて胸の前で手を合わせる。
目の前には豪華な食事が並んでいた。今日は特別に腕によりをかけて作ったのだ。ちなみに品目のほとんどは姉貴からのリクエストだった。
ピラフにグラタンに、パスタやら、スーパーで買ってきたオードブルなどが並ぶ。普段使わないオーブンを使って調理した七面鳥もあった。飲み物もシャンパン(ノンアルコール)とコーラ、なっちゃんなどバラエティに富んでいた。あれもこれも全て姉貴がクリスマスは盛大に祝うべきだと言い出したことに端を発する。年々クリスマスの食事は豪華だが、今年のはいつもよりも豪華だ。
さっそく姉貴はピラフを皿に盛って口に運ぶ。
「おいしい?」
味には自信があったが、作るものが多すぎて味見をしていないのだ。だから、自信はあっても心配になる。
「おいしい〜」
そう言って次々と食べていく。よほど美味しかったのだろう。黙々と食べていた。
しばらくして、姉貴が食べる手を止めて言った。
「いや〜、京ちゃんの愛が篭った手料理は美味しいねぇ」
「愛なんて篭ってないけどな」
そんな俺の言葉を気にすることもなく、姉貴は幸せそうに七面鳥に食らいついた。これだけ美味そうに食ってもらえると作りがいがあるってもんだ。
俺も料理を皿に盛って一口。
我ながらうまいな。
最後のケーキを俺たちは膨れた腹をさすりながら、まったりとテレビを見ていた。つかの間のくつろぎの時間だ。明日からは大掃除で忙しくなるからな。
* * * * * * * * * * * *
俺は息苦しさで目を覚ました。反射的に首を右にひねって冬の冷気を肺に送り込む。
仰向けになって上半身を起こすと、首の位置から何かがずり落ちてきた。左を向くと、姉貴が右半身を下にした状態で寝ていたのだ。首からずり落ちてきたのは姉貴の左腕で、つまり俺は姉貴に抱かれるようにして寝ていたらしい。息苦しさを感じたのは、ちょうど姉貴の胸に顔を押しつけられていたからだと推測する。
俺は抱き枕じゃねぇよ! おかげで死にかけたじゃねぇか! と、叩き起こして説教しようか迷ったが、神々しいばかりの寝顔を前に、そんな気は失せてしまった。
消え失せた説教をする気の変わりに、新しく疑問が俺の中に浮かんだ。
なんで姉貴が俺の部屋にいるんだ?
もしやアレか? クリスマスパワーを借りて俺と姉貴は禁断の関係に……って、そりゃないか。昨日のシャンパンにアルコールが入っていたわけじゃないんだし。
起き上がって周囲を確認するが、間違いなくここは俺の部屋だ。
昨日の衣装のまま、姉貴は隣で心地良さそうに寝ている。目の前が赤かったのは衣装のせいか。
「おーい、姉貴起きろー!」
肩を上下に揺する。
数秒後、姉貴は目を覚ました。
「おはよ、京ちゃん」
「なんで姉貴が俺の部屋にいるんだ?」
「今日ってクリスマスだよね」
姉貴は俺の胸にもたれかかり、細い左手の人差し指で『の』の字を書いていた。その指には赤いリボンが蝶結びで巻き付けられている。
プレゼントの催促か?
「色々とクリスマスプレゼントを考えてみたんだけどね、何すればいいか思いつかなくてね……」
ちなみに俺はペンダントを購入していた。もちろんそれほど高価な物ではないが、でも高校生という立場で考えると決して安価とも言えない代物だ。
「だから、今年のクリスマスプレゼントはね――」
そこまで言ったところで姉貴は黙りこんだ。顔は真っ赤に染まり、恥ずかしそうにウジウジしている。だがやがて何かを決心するように顔を上げて俺を見た。
「今年のプレゼントは、わ・た・し♪」
姉【Sister】is FREEDOM
―完―
おまたせしました。ようやく完成です。ながかった。ながかったよ。うう。
フラグメントの掲載を期に書き上げました。遅くなってすみませんでした。
これにてシスフリは完結です。当初はこれに続く妹【Sister】is FREEDOMっていうのを考えていたんですが、完結しそうにないうえに需要もなさそうなのでお蔵入りに^^A
今読み返してみると、ひどい出来ですね。フラグメントなんかに比べると手抜き感が抜群です(笑)でも真剣に書いてますよ。ただ一人称は不向きみたいです。
あまりぐだぐだ書いても仕方ないんで、ここらへんにて。最後に。こんな小説に付き合ってくださった皆さん、本当にありがとうございました。