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FILE03:大人になれない僕らの小さな争い〜枕投げ戦争開戦〜


「あのお花綺麗だね〜」


 後ろからのんきな会話が聞こえてくる。まぁ、こんな場所にいればのんきな会話が出てくるのは自然だろう。ここには都会の喧騒やせわしなく行き交う人々の雑踏の軌跡はない。


「そうだな」


 俺は適当に相槌を打ちながら地図と格闘していた。お世話になった農家の人が書いてくれた地図には目印になる近代的な造形物がいくつか書かれていたが、辺りを見渡せど一つも見当たらない。それどころかさっきから人一人発見することも出来ないのだ。


「なぁ京、まだ着かないのか!?」


 こいつの名前は野崎徹。ちなみに作者が5秒で考えた名前だ。こいつは徳明館高校に入って最初に出来た親友であり悪友である。まぁ、もともとは姉貴目当てだったんだがな。


「ウッサイ、地図がおかしいんだよ!!」


「はぁ、方向音痴なんかを班長に選んだのが我が小隊唯一のミスだね」


 こいつ名前は高槻美咲。ちなみに俺と一緒に学級委員をやってる。


 美咲はスポーツ万能で情に篤く、頼れる兄貴といった感じで男女問わず人望がある。その上なかなかの美人だ。しかしこんな奴にでも弱点というのは存在する。それは馬鹿だということ。果てしなく馬鹿だということ。クラスで、いや、学年で一番馬鹿だということだ。


「京ちゃ〜ん? 何か今私に対して物凄く失礼なことを読者のみなさんに言ってなかったかな?」


「何のことだ? それにもともとの班長はお前だろ。ジャンケンで一人負けして、どうしても代わってくれって言うから好意で代わってやったんだろが! それに小隊ってなんだよ!!」


「はて、何のことかな?」


 そんなことも忘れるとは、貴様は短記憶障害なのか!? ニワトリと同等かッ!?


「小隊。軍隊の編成単位の一。中隊の下の部隊。少人数の集団。類義語、第08M○小隊。スーパー大辞林(電子辞書版)より引用」


「嘘だ!! 大辞林に08M○小隊のことが書いてあるわけないだろ!! それに普通は類義語じゃなくて、関連語句だろうよ」


 わざわざ小隊について説明してくれたこいつの名前は鷺ノ宮結子。四角眼鏡っ娘。作者のタイプです。性格は寡黙。役回り、冷静にボケ。見た目のイメージはツンデレだが、実際はそんなことなかったりする。成績は優秀で、趣味は読書。文字通り、本の虫と言ったところだ。


「俺はっ、……生きる!! 生きてア○ナと……! 添い遂げるっ!!」


「話をややこしくするでない!!」


 キレてる。キレてるよ、今日の俺。いつになくツッコミがキレてるよ。この絶妙なタイミングでのカウンターツッコミ。読者の皆さんには分からないだろうけど。


「ア○ナ様の想い人に出会う……。面白い人生だった……。だが……、負けん!!」



 今度は後方の美咲が話し始めやがった。人のカウンターツッコミは無視か? というより、何でそんな台詞を知ってるんだよ!


「人の生は何を成したかで決まる。ギニ○ス様は夢を叶えられた、……立派です。ア○ナ様の望みがケルゲレンの脱出なら、それを助けるのが軍人としての私の役目。見事脱出ルートを確保してみせる!」


 今度は美姫のやつかよ。しかも時間の流れ的に言ったら美姫の台詞が一番初めだろ。ちなみに美姫は冒頭で

「あのお話綺麗だね〜」と、言っていた不思議系ロマンチストロリータのことだ。


 フルネームは安堂美姫。某有名スケーターとは漢字一つ違いだが因果関係は一切ない。容姿のほうは某有名スケーターと負けず劣らず可愛かったりする。


 性格は明るく前向き。学力は最低ランク。コンプレックスは身長が低いこと。そして身長に反比例して胸がやけに大きいこと。好きなことは料理。苦手なことは料理。下手こそものの上手なれと言うが、下手の横好きとも言える。美姫は後者だな。しかも自分は一切味見せず、周りの人間に毒味させるというタチの悪さ。専らの被害者は俺。見た目はMのクセして美姫はSだ。見た目はM、中身はS。Sの女帝、安堂美姫!!


「ちょっと京くん、読者の人に変な説明しないでよぉ。それに最期のやつって名探偵コナ──」


「ストォォォップ!!」


 俺はあわてて美姫の口を手で塞ぐ。


 大丈夫、間に合った。そう、間に合ったのさ。美姫は最期まで言ってない。だからきっと読者の人も分からないさ。


「んっ、んんっ、……プハァ!」


 俺の手から強引に逃れた美姫は大きく息をする。どうやら勢い余って鼻まで塞いでいたようだ。


「大丈夫か美姫? 悪かったな」


 美姫には苦しい思いをさせてしまったが、姉【Sister】is FREEDAM存続の危機だったんだ。理解してくれるだろう。


 しかし、俺の願いは儚くも砕け散った。


「だ、誰か助けて!!」


「どうしたの美姫!?」


「助けて美咲ちゅぁ〜ん。強姦魔に襲われそうになったの!!」


 そう言って美姫は美咲に抱きつく。美咲は美姫をそっと受け止め、赤ん坊をあやす母親の優しい目で頭を撫でてやる。


「よ〜し、よしよし、もう大丈夫だよ。もう怖い叔父さんはいなからね」


 美咲はまるで子守り唄を歌うかのように安らかで、平和な声で美姫に言い聞かす。男勝りな面をよく見せる美咲だが、こういう一面を時々見せるのだ。


「怖かったよぅ。北の工作員がいきなり私を拉致しようとしてきて、それで……、それで私、怖くて……」


 あの……、さっき『強姦魔に襲われた』って言ってたのが何故に北の工作員に変わってるん? それに謝ったよねぇ?


「普通に謝って済むなら警察も自衛隊もインターポールもS.W.A.Tも要らないし、禿げたジジイが泣きながら謝罪してテレビの画面を汚すなんてこともないんだよ!!」


 美姫の台詞を美咲が代弁して言う。二対一かよ。俺が悪いみたいな感じになってるし。


「ガキみたいなこと言うな!! それに最期のは言い過ぎだろ!」


「美咲ちゃん、京くんが怒った。怖いよぅ……」


「大丈夫! 君は俺が守るから!! 君を死なせたりしないから!!」


「美咲ちゃん……」


「美咲! お前はシン・ア○カかっ!? ああっ!?」


「美咲ちゃん、あの人怖い……」


 美姫は俺の方を指を差して言った。


「くっ! 美姫、お前は逃げるんだ!」


「イヤッ! ……美咲ちゃんを置いて逃げるなんて……、私……、私、出来ないよ!!」


 ごめん。俺、正直どこでツッコミ入れていいのか分からなくなっちまった。


「いいから逃げるんだ!! そして生きろ! あの鬼蓄王京介は私が食い止める!!」


 えっ? 俺って最初は強姦魔で次は北の工作員で、最終的には鬼蓄王っていう役回りなの?


「でもっ!! 美咲ちゃんを置いて逃げるなんて……」


「姫をお守りするのが私の使命! そして、今がその使命をまっとうする時!!」


「美咲ちゃん……。生きて、生きて帰ってきて!! 私……、美咲ちゃん、愛してる!」


 美姫は美咲に抱きつく。美姫の告白に一瞬驚いた表情を浮かべた美咲だが、美姫を優しく受け止めた。


「私は、守りたい! 姫を、姫がいるこの世界を! 鬼蓄王京介にこの世界を渡しはしない!! 私も、姫のこと愛してます」


 美咲は美姫の髪の毛を優しく撫でた後、強く美姫を抱き締める。


「さぁ姫、もう行ってください……」


「美咲ちゃん、生きて帰ってきてね」


「はい。必ずや姫のもとに」


 美姫はすっと美咲の顔を引き寄せると、美咲の唇と唇を重ね──


「お前らええ加減にせぇ!! それに、軽く百合ってんじゃねぇよ!! ページがもったいねぇだろうが!! ゴルァァア!!」


 読者のみなさまへ。大変ツッコミが遅くなってしまいすみませんでした。これからは所々省略していきます。


「初めっからそのつもりだったんでしょ」


 結子、何か言ったか?


「いいえ、何も言ってませんよ作者殿」







 俺たちはあれから一時間ほど歩き続けてようやく旅館を見つけた。それはとても立派な旅館で、高級感が漂っていた。門をくぐると綺麗な白石を敷き詰めた日本庭園が俺たちを出迎える。優しいオレンジがかった色を放つ燈籠の灯りが気分を和ませ、時が緩やかに流れているかのような錯覚を覚えさせる。


 俺と徹が部屋に戻るとそこには俺と徹以外の男子10人が既に揃っていた。聞けばもうすぐ夕食の時間だと言う。俺と徹は急いで着替える。俺は私服か浴衣かで迷ったが、他の男子たちが浴衣を着ていたから俺も浴衣にした。徹も浴衣を選んだ。


 浴衣を装着してから待つこと三分。入り口の(ふすま)を二度ノックする音が聞こえ、夕食が運ばれてきたことを告げた。



 女中さんに運ばれて来た夕食はこの旅館の豪華さを象徴するかのように豪華絢爛だった。お頭付きの刺し身やらなにやらがズラリと並ぶ。そしてどの料理も満足のいく美味しさだった。


 美味しい料理に心行くまで満足した俺たちは早めに布団を敷き、思い思いの一時を過ごしていたその時、事件は起きた。


「枕投げやろうぜ!」


 その何気ない一言が事の発端だった。


 俺たち男子12名全員の賛成もあって枕投げをやることに。最初のうちは和やかな枕投げだった。だが頭に枕が当たったとかで次第に皆が本気になる。そしてそれは女子の部屋まで聞こえるほどになった。


「ちょっと男子五月蠅い(うるさい)わよ!! 何やってんの!?」


 学級委員の美咲を先頭に数名の女子を引き連れて来た。


「見りゃわかるだろ!? 枕投げだよ」


 俺は枕を避けながら答える。まっ、女子が文句言うのは当然だよな。


「五月蠅いからいい加減にしてよね!」


 美咲の声は明らかにイラついていた。イライラは皺が増えるだけで美容に悪いんだぞ? それに俺たちにもプライドってもんがあるのさ。


「負けられない戦いがここにある」


「へぇ〜、枕投げかぁ。面白そうだね」


 美姫が美咲の後ろからひょっこり顔を出して言った。


「ストレス発散にもってこいだぜ」


「いいなぁ。ねぇ京くん、私も混ぜてよ」


「おぅ、いいぜ」


「やった。美咲ちゃんもやろうよ」


「私? そうね、勝負事は好きよ」


 結局美姫の呼び掛けにより結子と数人を除く約20人の女子たちも枕投げに参加することになった。


 なんで女子の方が人数が多いかと言うと、もともと徳明館高校は大阪にあり、今俺らが通っている東京の徳明館高校は去年まで徳明館大学附属女子高等学校という名前の女子高で、俺たちの学年から共学になった。そのため女子の人数が多く、発言力は女子の方が大きい。

 ちなみに今は徳明館大学附属女子高等学校から徳明館大学附属東京高等学校に名前が変わっている。


 最終的な参加人数は男子12名、女子は24名の合計36名。普通の部屋じゃとても出来るような人数ではないが、俺たち男子の部屋はそれを可能にした。理由は男子12人一緒に泊まれる部屋を学校側が確保出来なかったため、偶然宴会のなかった大広間が男子の部屋になったからだ。それも真ん中にある襖を閉めて仕切りを作ることで大宴会を同時に二つも出来るほどの広さである。今は襖を閉めて半分だけ使っているが、襖を開けてフル活用すれば十分な広さになる。


 人数が増えたためちゃんとルールを決めることにした。


・リタイアは自己判断に委ねる


・ベランダは非戦闘エリアとし、リタイアする場合はベランダに避難すること


・リタイア後の戦闘復帰は禁止


・武器は枕のみ


・制限時間は見回りの先生が来る10分前の午後11時20分まで


・参謀が討ち取られた時点で負けが決定


 以上がルールとして定められた。


 早速チーム決めを始める。まずは参謀を決めることからだ。参謀=リーダー=学級委員、という学生の一般概念の基、俺と美咲が各チームの参謀になるということであっさり決まった。


「おい京、ルールで一つ忘れてることがあるよな?」


「えっ……、何のことだがさっぱり分からないんだが。何のことだ徹?」


 ルールってさっきの6個だけだろ。他には聞いてないぜ。


「しらばっくれるなよ京。敗けた方の参謀はメイドコスするって罰ゲームがあるだろ?」


「……そんな話は聞いてないよ? というか今お前が決め──」

「みんな!! 敗けた方の参謀はメイドコスするって罰ゲームでいいよなぁ!?」


 俺の言葉を途中で遮ってクラスメートに呼び掛ける徹。クラスメート達は静まり返る。そうだよな。そんな馬鹿げた罰ゲームを認めるはずないよな。


「メイドコス、万歳!!」


 クラスメート全員が一糸乱れず高らかに万歳と叫んだのは俺の気のせいかな? しかもバンザイじゃなくてマンセーだし。なんで朝鮮風なんだよ。


「満場一致で敗けた方の参謀はメイドコスする法案が可決されました」


「待てぇぇい!! 美咲のメイドコスを見たがる奴はいても俺のメイドコスを見たがる奴はいないだろ!!」


「醜いぞ京。民主制の世の中で最も公平だとされる多数決において満場一致で決まったんだ。あきらめろ」


 待て待て。あきらめろで納得出来るはずなかろうが。しかも満場一致って俺の反対は反映されてないじゃん。これっていじめだよな?


「大丈夫。京くんなら似合うから」


 どこらへんが大丈夫なんだ? 美姫の頭が大丈夫じゃないということはわかったよ。てか、メイドコスが似合うとか言われても複雑な気持ちなんですけど。


「おい、美咲。いいのかよこんなの認めて。敗けたらメイドコスだぞ!?」


 美咲ならメイドコスに反対するさ。俺はそう思っていた。だからこそ美咲に話を振ったんだ。だがアイツは

「ようは京ちゃんに敗けなきゃいいんでしょ? 私は敗けるつもりないから」なんてあっさり答えやがって。


「わかったよやってやろうじゃん! 勝てばいいんだろ!!」


 美咲には敗けねぇぜ!!


「さすが京。話のわかる男だぜ!!」


 上手くのせられた感がしないでもないが、そんなことよりチーム編成についてだ。このままじゃページ数が増える一方だからな。

 俺と美咲のどっちのチームに入るかは好きな方を選ぶという形でやったら綺麗に半分で割れたからそのまま採用。ちなみに美姫と徹は俺のチームだ。


 そして試合開始時間が刻々と迫るにつれてチームの緊張が高まる。俺たちのチームは作戦なし。とりあえず正面突破で様子を見る。それから作戦を考えることにした。


 開始時間まで一分を切った時、俺たちのチームは隣の人と肩を組んで円陣を作っていた。

「何がなんでも美咲のメイドコスを拝んでやるぜ! 行くぞお前ら。Ya━━ha━━!!」


「Ya━━ha━━!!」


 俺の掛け声に応える仲間たち。そして今、戦いの火蓋が切って落とされた。




 開始から10分──




 美咲を参謀に構える敵チームとこちらの勢力比を見るとこちらが押され気味のようだ。それもそのはず。美咲の方には大半の男が付きやがった。男の参謀より美少女学級委員に付きたいというのは男の素直な(さが)なのだろう。


 それにしてもアッサリと掌を返しやがって。入学した時に俺たち男子で誓いあった想い、絆はどこへいったんだか。ア○ラン・ザラに裏切られたシン・ア○カも俺と同じ気持ちだったに違いない。しかもちゃっかりメ○リンを連れて行きやがって。ルナがどんなに心配したことか。やはりア○ラン・ザラは女好きのヘタレ野郎だ。間違いない!




 時間が経つにつれて男子と女子との差が目立つようになってくる。


 さっきまで押され気味だった勢力比は今や我軍の圧倒的不利。


「ぐぁぁぁああっ!!」


 どんどんやられていく仲間たち。その叫びは数が増えるばかりだ。


「きゃぁぁぁああっ!!」

 今度は女子が一人やられた。圧倒的な戦力差。味方は壊滅状態だ。


 そしてまた一人、女子生徒が狙われた。


 狙われた女子生徒は一発、二発と連撃を叩き込まれ、顔に苦悶の表情を滲ませる。そして、トドメの三発目が叩き込まれるその直前、俺の足は無意識のうちに動いていた。


「もう止めろ美咲!!」


 今にも枕を振り降ろしそうな美咲の背後に素早く近付き、振りかざした両手ごと枕を叩き払う。


「君はいつでも邪魔だな。キラ・ヤ○ト!」


 女子生徒にトドメを刺そうとした美咲がゆっくりとこちらに振り返る。

「美咲! 俺と勝負しろ!!」


「フフフ、今日ここで因縁の対決に終止符を打つか……」


「望むところだ!」


「通算成績は99勝37敗9引き分け。今日ここで貴様を倒し、100勝に華を添えてくれるわ!!」


「99勝は俺だけどな」


「いちいち数字にこだわるなんて……。小さい男だね!」


「ぐっ……」


「京ちゃん、準備はいい?」


「ああ、いつでもいいぜ」


「「さぁ、最期の闘いを始めよう!」」


 美咲は一気に間を詰める。俺より身長の低い美咲はリーチが短い。だから懐に潜り込むつもりなのだろう。


「知れ! 人は自らの育てた闇に喰われて滅ぶとな!!」


 完全にダークサイドですな。しかもその台詞言った奴は死んじゃったしね。


 俺と美咲の距離は至近距離から零距離に変わった。この距離は互いの間合いだ。張り詰めた空気が漂う。そして刹那、張り詰めた糸が、空気が、一人の叫び声によって斬り裂かれた。


「きゃあ!!」 それは聞き馴れた声だった。


「美姫!? クソッ!! 今すぐ助けに行ってやるからな!!」


 美咲の後方で美姫が敵兵三人と殺り合っていた。三対一の圧倒的に不利な状況。美姫はそれでも果敢に攻め続け、一人を倒した。それでも二対一。不利なことに変わりない。走って美姫を助けに行きたいが、美咲に隙を見せるわけにはいかない。


「京くん、来ちゃダメ!!」


「でも!!」


「……悲しいけど、これって戦争なのよね」


「スレ○ガー中尉━━!!」


「うぉぉぉおおっ!!」


 それは美姫の叫び。敵意を剥き出しにして残りの二人と好戦を繰り広げるさまはス○ラさながらだった。人は見掛けによらずと言うが、美姫は実際その通りだ。見た目からはとても好戦する人間に見えない。


「てこずってるようね。仕方ない……」


 ボソッと呟いた美咲は後ろを向いて走りだす。美咲が走ってくることに美姫はまだ気付いてない。


「美姫ぃ━━ッ!!」


 俺の言葉に振り返る美姫。そして美咲に気付き美姫はガードを試みる、が時既に遅し。美咲の振り降ろした枕が美姫の頭を直撃。美姫の膝が沈み、体が布団に墜ちる。


「最初は三人がかり。そしてトドメはお前……。美咲、お前は美姫があんな死に方を、殺され方して何とも思わないのか!?」


「ふふふ、何とも思わないね。戦争とは常に非情なものさ!!」


「お前……、それ本気で言ってるのか!?」


「もちろん……、本気よ?」


 キュイーン──

 スパァァァン──


 美咲のその言葉に、毎度お馴染の音と共に俺の瞳の中で種が弾けた。頭の中がクリアになる。


「キラァァァアア!! お前がニ○ルを……、ニ○ルを殺したぁぁぁああ!!」


 俺は自然と暁の騎士とシンクロしていた。今の俺には大切な仲間を失い、幼馴染みに怒りをぶつける暁の騎士の気持ちがよくわかるぜ。


 烈しく互いにぶつかり合い火花を散らすビームーサーベルもとい枕。


「あの……、私はニ○ルじゃないし、死んでもないんですけど……」


 ベランダで美姫が呟いたツッコミが京介たちに届くはずもなかった。


「うぉぉぉおお!!」


 俺は雄叫びと共に枕で殴りかかる。それを美咲は寸前で避け、反撃に転じる。

「太刀筋……、いや、枕筋がめちゃくちゃだよ? どうしたのかな? 京ちゃん」


「京!!」


 またしても聞き覚えのある声が聞こえた。俺を京と呼ぶのはこの世にただ一人だけ。作者が五秒で名前を考えたアイツだ。


「ト○ル!? ダメだ!! 来ちゃ!!」


 犠牲者を増やしたくない。一抹の望みを賭けて叫んだ俺の言葉がト○ルに届くことはなかった。


「ト○ルじゃなくて徹だボケぇ!! って、う、うわぁぁぁああ!!」


 自分の後ろからト○ルが来ることにいち早く気付いた美咲は、枕を振り下ろすト○ルに対し、腰の高さのところを水平に枕を振り抜く。それは急所を射抜いた。


 ト○ルは膝立ちの状態になり、そこから頭を床につけてうずくまる。それは流れるかのようにスムーズだった。体は微かに痙攣している。


「ト━━ルっ!!」


「ふっ、他愛のない……」


「アァァスラァァァァン!!」


 友達を幼馴染みに討たれた。それは戦争だから。わかっていても行き場のない怒りと憎しみ。行き場のない怒りや憎しみを叫びに、力に、昇華させて幼馴染みに向ける。それが果てしなく続く憎しみの連鎖だとしても。最高のコーディネーター、お前もこんな気持ちだったのか?


「あぁぁっ、京ちゃんズルイ! 私もキラ・ヤ○トやりたい〜!!」


「アァスラァァァン!!」


 二度目の砲哮。果てしない憎しみ。終わらない悲しみ。永遠と続く憎しみの連鎖。俺は、美咲を討つ!!


「キラァァア!! 俺はお前を討つ! 今度こそ、絶対に!!」


 どうやら美咲はア○ランで納得したらしい。


 烈しくぶつかりあう枕。お気付きかと思いますが、既に枕投げではありません。枕叩きです。


 二人の戦いは熾烈(しれつ)を極めた。燃え盛る烈火の如く、勢いを増す二人の戦いぶり。それは敵味方という柵を越え、クラス全員を魅了した。誰もが勝負の行方を見守り、横槍を入れる者はいない。しかし、そんな二人の戦いにも確かに着々と終焉の(とき)が迫っていた。




 烈しい闘いの中で二人の着衣は乱れていった……。そして俺は気が付いた。美咲の浴衣のY字部分から白い肌が大きく見え隠れしているということを。


「お、おい! 美咲、む、胸のとこどうにかしろよ!!」


「フフフ……、引っ掛かったね京ちゃん。お色気作戦に……」


「それじゃ、ま、まさかお前っ!?」


「そう、浴衣の下はノーブラ&ノーパン!! これが和服の、着物の常識。そして止まらない私の熱いパトス!!」


「意味が分からん。てか着物は確かに下着を着けないかもしれんが、浴衣と着物は別物だろ!! それに美咲はまな板なんだからちゃんと着けておかないと男と間違われるんじゃねぇの!?」


 茶化した感じで言い放った俺の言葉が美咲を逆上させた。


「京ちゃんの、馬鹿ぁぁぁああ!!」


 今まで綺麗で隙の無かった太刀筋ならぬ枕筋が乱れ、隙を生じさせていた。やはりシュバ○ツ(キョ○ジ兄さん)の言う通りだ。怒りのスーパーモードでは敵を斬れないだけでなく、大きな隙を生じさせる。


 美咲は怒りに身を委ねて枕を振り上げた。おそらくそのまま振り降ろす気だろう。両手で枕を持って高く振り上げた美咲の体は弓反りになり、小さい胸が強調されていた。それでも小さいけど……。でも破壊力は凄そうだ。伊達に怒りのスーパーモードになってるわけではない。胸は小さいけどな……。


「胸胸胸胸、五月蠅いんだよぉぉおお!!」




 だが──




 モーションが大きい!




 そう瞬時に判断した俺は枕を素早く左腰に持っていき、今にも刀を抜きそうな侍みたいな体勢をとる。そして刹那、左腰の枕を抜刀する。抜刀したら左手を枕の角を持つ右手に添え、体重を右斜め前にかけて美咲の振り下ろす枕に対する回避運動をとりつつ、おもいっきり枕を振り抜いた。


 その動きは野球の左バッターに酷似している。外角の球をレフト線に綺麗に打ち返すイチローを妄想すればいい。振り抜いた枕は美咲の腹部を直撃した。


「京ちゃんの勝ちだよ。まさか最期の最後で形勢逆転とはね……」


「まな板という言葉にペッタンコの女子が反応するのは妹で実証済みだからな(第二話参照)」


「そうなんだ……」




 ピピッ、ピピッ──




 携帯のアラームが鳴り響き、俺たちの戦いの終焉を、俺たちの勝利を告げた。


「ところであれって本気で言ったの?」


「『あれ』って?」


「私の胸のこと……」


「んなわけないだろ! お前のは琴乃よりずっとあって、平均より少しちっちゃいかなってくらいさ」


「いつも私のそんなところ見てたんだ。時々胸に視線を感じると思っていたんだけど、それは京ちゃんの視線だったんね」


「ち、違っ!! ば、馬鹿! そんなわけねぇだろ!!」


 読書のみなさまへ。俺は無実です。信じてください。


「京ちゃんの変態♪」


 美咲に対して軽く殺意が芽生えた今日この頃だった──




 俺はこの芽が大きくならないことを切に願う。






───Fin.───

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