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FILE02:胸の大きさが戦力の決定的な差なのか

 四月も終わりのとある休日。姉貴は高校の修学旅行で北海道に行っているため、家には俺以外誰もいない。だから、俺は誰にも邪魔されずに延々と睡眠をしているはずだった。


「起きてください先輩」


 どうやら俺は幻聴が聞こえているみたいだ。誰もいないはずの家で誰かの声がするはずがない。


「先輩起きてくださいよ〜」


 誰かが俺の肩を掴んで揺すっている気がするが、この家に俺以外いないのだ。そうか、これは地震か。揺れ具合いからして震度2くらいだろう。その程度の揺れで慌てる日本人などいるわけがない。地震大国をなめるなよ?


「いい加減起きてください先輩。……もう!」


 その幻聴を最期に一時の静寂が訪れる。妙に静かだ。嵐の前のなんとかってヤツか。突如フローリングをタッタッタッと走ってくる音が聞こえてきた。それはどんどん俺の寝ているベッドに近付いてくる。


「チェストー」


 先程までの少女の声から格闘家の怒号に近いそれが響く。


 何事かと目を開けると、ミニスカートを翻して女の子が上から降ってきた。もちろん俺は重要なところを見逃さない。パンツの模様はピンクのイチゴ柄だ。


 降ってきた少女は足から俺の上に落ちる。いくら身軽そうな少女といえ、打ち所によっては死に至らしめることも出来るのだ。


 落ちてきた少女は俺の上で立つような感じになるが、当然の如くバランスが悪いがためにお尻から落ちる。


「あたたたた……。あれ、先輩どうかしたんですか?顔が真っ青ですよ。先輩?先輩!?」


「……返事がない。ただの屍のよ──」


「誰が屍のようだって?」


「さすが先輩。反応が早いですね」


「危うく天に召されるとこだったろ!ネロとパトラッシュを拉致して行った天使がすぐ側まで来てたぞ。それに、玉がIKKOになるとこだったろが!!」


「や〜ん、恥ずかしい〜」


「誰がモノマネしろ言うた? んでもって、俺が死にかけたのは何故だ!?」


「坊やだからさ」


 ん〜とイチゴ柄パンツの少女Aさん、それは違うと思うんですけど。俺は殺されかけた理由を知りたいんです。


「な、なんでパンツがイチゴ柄だと知ってるのだ」


 俺の質問は無視ですか。そうですか。今さら顔を赤らめて恥ずかしそうな表情でスカートを手で抑えても萌えるだけで、バッチリ、クッキリ、イチゴ柄は目に焼き付いてますから。残念!!


「まさか兄さんが覗き魔だっただなんて……。琴乃、失望したよ」


「こらこら、今の発言は読者様を混乱させてしまうでしょ。設定では姉貴しかいないことになってるんだから。それと、俺は覗き魔じゃないから」


「初期設定なんてただの飾りとです。偉い人にはそれがわからんとです」


「確かに初期設定ってのは後々変わってくる場合もあるが、君は俺の妹じゃないから」


 というか、女の子のクセにファーストネタに詳しすぎるだろ。さっきからファーストネタで会話が成り立ってるし。


「とりあえず、何故に俺を殺ろうとしたんだ?」


「だ、誰も兄さんとヤりたいなんて言ってないもん!」


 顔を赤らめてイチゴ柄パンツの少女Aは言った。……軽く問題発言だろ。そういうのはノクターンノベルでやってください。


「とりあえず朝飯を食わせてほしいんですけど」


「なんで琴乃ちゃんに俺が朝飯を提供しなきゃならなんだ?」


「兄さんだから♪」


 なんですかその音符は? それから兄さんとか言うの止めなさい。そして、人の質問に対して果てしなく意味不明な答えを言うな。


「愛ちゃんから聞いてないの義兄さん?」


 兄さんの前に義を付けただけで読み方変わってないじゃん。


「そういえば愛さんがそんなことを言ってたな……」


 愛さんというのは隣に住んでる美人な奥様のことで、琴乃ちゃんこと中原琴乃と愛さんは母と娘という関係になる。愛さんを呼ぶ際に『おばさん』等の年齢を連想させる呼び方をするということは身の破滅に繋がることになると俺は身をもって知っている。


 隣に引っ越してきた時は俺は五歳くらいだったのだが、その時から愛さんと呼ばされた。小学生の時に一度『おばさん』と言ってしまった時は──、いや、止めておこう。兎に角、血を見ずにはいられない展開になる。


「今日から旅行に行ってくるから琴乃をよろしく頼むって……」


「そういうことです」


「朝飯か。朝飯が食いたいんだな?」


 俺は真剣な眼差しで琴乃に問う。


「はい」


 それに釣られて琴乃にも緊張が走る。


「却下だ。俺はもう一眠りするからな。夕飯なら作ってやるぞ」


 俺は手をヒラヒラと振ってベッドにダイブする。ベッドに入るとすぐに意識が薄れていった。琴乃ちゃんが何か言っているようだが無視する。




ということで、夜──




「よく寝たなぁ……」


 時計を確認するともう17時を回っていた。琴乃が起こしに来たのが10時だから、更に7時間も寝たことになる。


 とりあえず俺は着替えてリビングに向かう。


 階段を降りてリビングへと通じる扉を開けると、琴乃が倒れていた。


「琴乃ちゃん!? 大丈夫か、何があった?」


「せ、先輩……、私もう……ダメぽ…………」


 琴乃ちゃんの体は完全に脱力し、腕はダラリと下がる。


「琴乃ちゃーーーんっ!!」


 俺は力の限り叫んだ。しかし、琴乃ちゃんからの返事はない。


 俺は決意した。必ず琴乃ちゃんの仇を討つと




───完───




「え? これで終わりなんですか?」


 コラコラ、ヌッコロされた子が出てきちゃ駄目でしょ。


「ええっ!? 私ヌッコロされちゃってるんですか?」


 話の流れ的にはそれが妥当なんじゃない?


「って、あなたは何処の誰よ。姿を見せなさい!」


 あ、申し遅れました。私は神様です。姿を見せないのは神様が出て来たら色々と混乱するかと思って。


「ならどうやって会話してるのよ!?」


 テレパシーということでお願いします。それが嫌ならニュー○イプ同士の会話ってことにしてもOKっすよ?


「どっちも大差ないじゃない!」


 ハァ、これだからイチゴ柄パンツなんてはいているガキんちょは困るんだよ。ニュー○イプとエスパーの違いも分からないなんてさ。黒の勝負パンツ穿いて一昨日来やがれ、と言いたいところだがしょうがない。私が極意を伝授してやろう。


「イチゴ柄パンツとか黒の勝負パンツは全く関係ないと思うんですけど。それに極意なんて要りません。釘バットで打ち返したいくらいです」


 本当は弟子なんてとりたくないんだが、どうしてもと言うならしょうがないな。その代わり、私のことは東西南北中央腐敗マスターアジアと呼ぶように。


「私の話は無視ですか。シカトですか。そういうのが深刻なイジメに繋がるんですよ? それにそんな名前は呼びたくありません」


 まずは気配を消して、好きな娘が変な輩に襲われないように帰り道を護衛する方法を教えてしんぜよう。



ハァぁぁああ!! 俺のこの手が真っ赤に萌える。あの娘を付け狙えと轟き叫ぶ──

これぞ我が流派──

東西南北中央腐敗 最終必殺奥義!!


『Let's、ストーカァァアアア!!』



「そんなもの必要ありません。むしろ気配じゃなくて貴方を消したいです。つーかそれって貴方はストーカーをしてることになりますよね? そして初めての技が最終奥義ですか」


 この奥義のポイントは名鏡止水の心。つまり曇りなき澄んだ心、心が清らかである必要があるのだ。


「貴方の言っていることとやっていることが矛盾しているのは気のせいですか? 貴方の心の中は欲望だけで清らかな部分なんて微塵もありませんよね?」


 手厳しいなぁ〜、琴乃ちゃんは。将来はきっとS界の女王として君臨してるよ。


「気安く名前を呼ばないで下さい。警察に突き出しますよ?」


 おっと、そろそろ時間のようだ。私は三分間しかもたんのでな。


「嘘つけ。三分以上いたくせに」


 それじゃ元気でな。また来るからよぉ〜。


「二度と来るな!!」






「──で、先輩の好きな食べ物ってなんですか?」


「あの、琴乃ちゃん……」


「ん?」


「話の展開が急すぎて読者様はおろか、俺も話についていけてないんですけど。特に琴乃ちゃんが倒れているところらへんとか……」


「細かいことを気にしてると女の子にモ・テ・な・い・ぞ。ウフッ」


 ツッコミ所が満載で、どこからツッコミ入れようか迷いますね。とりあえず、鼻クソみたいな点はなんすか? そして貴方の言った台詞ですけど、第一話で似たようなの出てきましたよ。極めつけは最期のウフッって何!? というか、それで話を流しちゃうんかいッ!!


 まさかたった三行の文章で4つもツッコミ入れられるとは思わなかったね。


「べ、別に作者が途中で辻褄が合わなくなって困っちゃったから仕方なく、し・か・た・な・く出来心で悪あがきしたわけじゃないぞ?」


 だからその鼻クソみたいな点はなに?


「とりあえず兄さんは好物を白状するアルヨ!!」


「えっ? な、なんで? しかも片言だし」


「見せてあげます! エプロンドレスは伊達じゃないということを!!」

 見れば琴乃ちゃんの手には白のエプロンが握られているではないか。しかもフリフリが付いていて本格的なやつ。


「つまり琴乃ちゃんが夕飯を作ってくれるってこと? いろんな意味でとっても心配なんですけど……」


「し、失礼な。クッキ○グパパと美味○んぼを完全読破している私に作れない料理などない!! それにいろんな意味とはどういうことだ!?」


「琴乃ちゃんが包丁で指を切っちゃわないだろうかとか。この世の物とは思えない乾汁みたいな味噌汁を作っちゃわないだろうかとかね」


「ええい、ツベコベ言わずに好物を白状しろ!!」


 苦しいから首を絞めるの止めてくれないかな? それも顔がマジだし。殺気がビンビン伝わってきてますよ?


「わ、分かりました。好物を白状いたしますのでお許し下さい琴乃様!」


「初めからおとなしく白状すればいいのだ。我が下僕よ……」


 読者のみなさまへ。これは決してSM小説ではありません。

 そして、純粋無垢な良い子及び悪い子たちへ。SMについて君達は生涯知らなくていいことだ。SMの意味が分からなくても決して、お父さんお母さんに『SMプレイってなに?』などと訊かないように。お母さんはあまりのショックに寝込んでしまい、お父さんは会社をリストラされてニート街道まっしぐらなんてことになるかもしれないぞ!? これは君達とお兄さんとの約束だ! いいね?


「……そ、その、か、カボチャの煮物とか好き、かな……」


 はぁ、言っちゃったよ。男のくせにカボチャが好きとか有り得ないよな……


 キュイーン──

 スパァァァアアン──


 どこかで聴いたことのある音が鳴り響く。


「はぅぅ、兄さんかぁわいいぃぃ!!お持ち帰りぃぃ!!」


 こ、これが噂に聞くお持ち帰りモードというやつなのか!? ちぃ、連邦の白い悪魔めっ!!


「とりあえず落ち着け。というか羽交い締めにするでない! 逝っちゃうだろが!!」




琴乃ちゃんを説得すること10分──




 ようやく正気に戻った琴乃ちゃんは、俺をリビングに残して台所へと行ってしまった。琴乃ちゃん曰くご飯と味噌汁と焼き魚にカボチャの煮物を作ると言っていたが、俺は心配でしょうがない。以前琴乃ちゃんに作ってもらった時はサラダ油が見付からないと言って、台所用洗剤を使ってしまったという前科の持ち主なのだ。その時は肉からほのかに香るオレンジの臭いで気付いたから食べずにすんだものの、間違えて食べていたらと思うとぞっとする。


「テレビでも見るか……」


 まぁ、何年も前のことだし中学三年ともなれば食えるものは作れるだろう。


「痛っ!!」


 小さな悲鳴が台所から聞こえた。どうやら俺の予感は的中したようだ。もしかしたら俺にはニュー○イプの素質があるのかもな。しかも琴乃ちゃんが台所に行ってからまだ10分くらいしかたってないし。俺はすぐに台所へと駆けつける。


「どうしたの!?」


「指、切っちゃった」


 そう言って俺に左手の人指し指を差し出す。確かに白い肌から真っ赤な液体が垂れていた。だから言わんこっちゃない。


「ちょっと待ってろ」


 ジーンズの右ポケットに手を突っ込んであるものを探す。


「何してるの?」


「コレを探してたんだよ」


 絆創膏を琴乃ちゃんの目の前で振ってみせる。


「な、なんでジーンズのポケットに絆創膏なんて入れてるのよ?」


「ニュー○イプだからさ」


「はい?」


「いいから左手貸して」


 琴乃ちゃんの左手を掴んで目の前に引き寄せる──


「あっ、くっ、んんっ……、だ、ダメ。そんな強く吸われたら、わ、私……。あっ、ダメっ……。も、もっと優しくしてぇ! ああんッ!!」


「紛らわしい声を出すでない! 読者様が混乱するだろ」


「だって兄さんが急にしゃぶりついてきたから感じちゃって」


「しゃぶりつくとか言うな! ただ人指し指の傷口を舐めて消毒していただけだろ!!」


「傷口を、舐める? ……誰か、誰かぁ!! ここに人の血を舐めて楽しんでいる変質者がいます。早く110番してください!」


 俺の嗅覚が異臭をロックオンしたのはその時だった。臭いはコンロの方から漂ってくる。恐る恐るコンロに目を向けた俺は、惨劇を目にしてしまった。焼き魚は消し炭と化し、鍋からは言葉で表現出来ないような異物が溢れだすという公害が発生していたのだ。


「なんで魚をコンロの直火で焼くんだよ!!」


「魚と言ったら豪快にキャンプファイアでしょ!」


 どうだと言わんばかりに胸を張って答えないでください……。魚をキャンプファイアで焼いたら消し炭になるのが目に見えてるでしょうが!


「ハァ、こんな腕じゃ一生お嫁にいけそうにないな」


「そしたら兄さんがもらってくれるよね!?」


 振り向きざまに言い放たれた言葉。フリルの付いた可愛い白のエプロンとミニスカートが一緒に揺れる。それは不意打ちだったとしか言いようがない。とびっきりの笑顔で笑う琴乃ちゃんに俺は魅せられてしまった。


「さて、まな板まな板っと!」


 俺が気恥ずかしいその場の雰囲気を変えようと発した何気無い、その一言が災いをもたらす……。


「……た……って。まな……で……」


「琴乃ちゃん?」


 琴乃ちゃんはうつ向き、何やらブツブツ独り言を呟き始める。


「……まな板ですってぇ!?」


 刹那の静寂の後、火山は噴火した。そして、琴乃ちゃんの後ろに俺は確かに見た。漂う黒いオーラを。見る者を畏怖させる黒いオーラは辺りに満ち満ちていく。


「ど、どうかしたの?」


「胸の大きさが戦力の決定的な差なのかパーンチ!!」


 眼にも止まらぬ速さで繰り出された昇龍拳が俺の顎を直撃する。


「ふべし!!」


 読者のみなさまへ。奇怪な言葉を発してすまん。


「つ、つまり……、兄さんは義姉さんみたいなバイーンが良いということですね?」


 あれ、何で義が付いてるのかな? そ、それになんか眼が怖いし。てか、琴乃ちゃんの後ろに黒いオーラが漂っているのはなんでかな? ……かな?


「こうなったら毎日牛乳を飲んで大きくしてやる!!」


 何やら固い決意をされているようですが、牛乳を飲んでもバイーンにはなれませんよ?


「なっ、私の心を読むとは貴様、ニュー○イプだな? 乙女の心を持て遊んで喰い物にするなんて……、この恥廉痴野郎のコンコンチキがっ!!」


 いやいや、貴方がモロくそ言葉に出してたし。てか恥廉痴野郎のコンコンチキって、言い過ぎでしょ。それに喰い物になんかしてません。


「ほ、本当に牛乳じゃバイーンになれないの?」


「へっ……?」


「だから、本当に牛乳を飲んでもバイーンになれないのかって訊いてるのよ。乙女に何度も卑猥な言葉を言わせるなんて……」


「そりゃ、あんな脂肪溜まりが牛乳を飲んで大きくなるわけなかろうが」


「なら『目指せ!!毎日油1リットル以上!!』」


「バイーンになる前にメタボリックシンドロームでご愁傷様だろうな」


「図ったなっ!? シャ○!!」


 ああ、ガ○マがシャ○に向かって言った台詞ね。……俺は赤い彗星じゃねぇよ!! てか、ハメてないし。


「嘘だっ!! 私を陥れようとしたくせに!」


 再びひぐらしネタですか……。


 こうして俺の休日は消えていった……



──Fin.──

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