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FILE01:真実はいつも一つ

短篇小説として連載していたものを長篇小説にしたものです。よろしければ完成お願いします

「京ちゃ〜ん」


 背後から声がしたかと思うと、急に体が重くなった。色白の腕が俺の首に絡みつき、俺の頬を撫でる綺麗な黒髪からいい香りが漂ってきては鼻孔をくすぐる。どうやらさっきまで風呂に入っていたみたいだ。まだ髪が少し濡れている。そして、背中には発達しすぎた女性の柔らかいアレが押し付けられている……


「鬱陶しいから離れてくれ姉貴……」


 俺は冷めた口調で返事をした。


「酷いよ京ちゃん。たった一人の肉親であるお姉ちゃんに向かってそんな言い方するなんて……」


「勝手に親父とお袋を殺すなよ!」


 俺は間発入れずにツッコミを入れる。京ちゃんというのは俺、赤坂京介のことで、俺が姉貴と呼んでいるのは一歳年上の赤坂瑞希のことだ。


 ちなみに親父は単身赴任で、お袋も親父にくっついて行っている。お袋が親父と一緒に行く理由は『パパともう一度ストロベリィな新婚さん生活を味わいたいから』という果てしなくわけのわからない理由だった。


 だからこの家には高校一年の俺と、同じ学校に通う高校二年の姉貴だけで住んでる。


「グス……、酷いよ京ちゃん……」


「って、なんで泣いてるんだよ!」


「だって……、グスン、だって……、京ちゃんがお姉ちゃんをいじめるから……」


「いついじめたんだよ! ……ったく、わかったよ。俺が悪かった」


 早いうちに俺が折れる形で取り敢えず謝っておく。でないといつまで続くかわかったもんじゃない。


「じゃあさ、お詫びの印としてお姉ちゃんの唇にごめんねのチュウして」


 そう言って姉貴の顔が、薄化粧した女の顔が、艶やかな魅惑の唇が俺に近付いてくる。それは、まるでスローモーションを見ているかのようにゆっくりと。


 迫りくる魅惑の唇に俺の心臓は自然と鼓動が早くなる。顔が赤面していくのを自分でも感じていた。


 俺と姉貴の唇がドッキングする数センチ前、姉貴の髪の毛から再びいい香りが漂ってきたその刹那、俺は右手を前に突き出して姉貴の顔を遠ざけていた。


「どうして、姉弟でチュウせなあかんのじゃ!」


 あくまで平静を装って姉貴にツッコミを入れる俺。


 というか、なんで俺の心臓はこんなに鼓動が早くなってんだ。これがトキメキってやつなのか? ええい、うるさいぞ鼓動。しばらくの間止まっていろ────










──訂正します。ごめんなさい。心臓さん、動いて下さい。死んじゃいます。



 そして、俺は生き返った。



「え〜、京ちゃんのケチ〜。……う〜ん、じゃあさ『瑞希、ごめん』って言って」


「んなセリフ言えるか! てか、そもそも何で俺が謝るんだよ」


「う〜ん……、京ちゃんはお姉ちゃんのペットだから?」


「何だよその理由」


 この果てしなく意味不明な理由をサラッと言ってのけるあたりは絶対に母さん譲りだ。間違いない(By長井○和)


「ね〜、いいじゃんそんくらい。ね〜いいでしょ。ね〜ってば。たったの一言だよ。ね〜……」


「わかったよ。言えばいいんだろ言えば。……瑞希、ごめん」


 結局ここでも俺が折れる。これ以上貴重な朝の時間を潰されてはかなわない。


「……てへ」


「てへじゃねぇよ。自分で言わせておいてなに照れてんだよ! ……で、何の用?」


「もう時間なのに着替えずのんびりしていていいのかな、と思って」


 姉貴の言葉に俺はハッとして、背後にある壁掛け時計を恐る恐る振り返った。そして、一度昇天した。時計の針は8時35分を差していたのだ。始業時間は8時50分。学校までは徒歩約10分。全力疾走すれば2、3分だろうか。しかし俺はまだ制服にも着替えていない。


「ダァァァ、遅刻だぁぁぁぁぁ!」


 俺は慌てて学校に行く準備を始めた。


 姉貴はそんな俺を尻目に玄関へと向かう。


「遅刻しちゃダメだぞ京ちゃん」


 笑みを浮かべた姉貴は振り向きざまにそう言うと、軽やかな足取りで家を出ていった。


「何だよそのタ○チの南ちゃんみたいな話し方は。『遅刻しちゃダメだぞタッちゃん』みたいな。浅○南は二次元だけでいいんだよ。むしろ、二次元だから萌えるんだよ。つーか、お前ら名前間違えんじゃねぇぞ。朝倉じゃなくて浅倉だからな。なんでググると朝倉南で引っ掛かるんだよ。それから、野球部に行けば南ちゃんみたいなマネージャーがいると思っている野郎共、失望するだけだから止めておけ。そんなマネージャーがいるわけないだろ! てか、俺は達也じゃねぇよ」


 浅倉と朝倉の違い。それは一生を生きていく上で使うことなどないであろう無駄知識で、それを熱弁する俺の声が虚しくリビングに響いていた。


 一人家に取り残されてしまった俺。


「クソ、覚えておけよ姉貴」

と、百人中一万人が捨て台詞だと思うであろう言葉を残して俺は支度にかかる。ん?人数がおかしくないかって?そんな細かいこと気にしてたら女の子に嫌われちゃうぞ。女の子はどうなるかって?多分男の子に嫌われちゃうんじゃないかな。オカマはどうなるかって?……知りません。ピー○さんにでも訊いてください。


 俺は黒色の通学用カバンに教科書類を乱雑に詰め込んで家を出た──






 俺は一分後、リビングに COME BACK していた。そして一言、

「チャリがねぇぇぇええ!」

と叫びながら怒りを拳に込めて昇龍拳をした刹那、俺の瞳の中で何かが弾けた。


 何が起きたのかは俺のソウルフルなボイスと昇龍拳で大体理解してくれるだろう。そう、チャリがなくなっていたのだ。しかし、俺には犯人の目星がついている。何故なら今の俺は種割れ状態だからだ。シードのファクターを持つ者のみに起きるという現象。ファーストやZで言うところのニュー○イプ状態。それにより今の俺は頭脳明晰なのだ。まずは犯行現場の状況を確認してみよう。


1. パンクしている赤いチャリが停めてあった。


2. そして、そのチャリは登校したはずの姉のものだった。


 この二つから分かる犯人とは…… 突然、頭に電流が流れたかのような錯覚に陥った俺。それは一瞬の出来事で、次の瞬間には犯人が見えた。


「見える! そこっ!」


 いくつもの死線をくぐり抜けた白い機体を駆るエースパイロットと一瞬シンクロした俺は、人指し指をピンっと伸ばして右腕を高々と掲げる。そして右腕を振り下ろし、高らかに決めゼリフを言い放つ。


「真実はいつも一つ」


 俺は犯人から自供を得るためにポケットから携帯を取り出し、着信履歴から電話をかける。呼び出し音が数回鳴った後、容疑者が電話に出た。


「どうしたの京ちゃん。まさか、お姉ちゃんの声が聞きたくなったとか?」


「んなわけあるか! それより、俺の自転車に乗ってっただろ?」


「愛しい京ちゃんの自転車に勝手に乗って行くわけないじゃない」


 姉貴は俺の追及にハッキリとした口調で否定した。ならば俺は切り札を切るまでだ。



「じゃあ何で姉貴の自転車が置いてあるんだよ」


「うぅっ…… そ、そりゃパンクしてたからよ」


 フフフ……、かなり動揺してるようだな。そこを一気に攻める!!


「あれ?かなり動揺してるようだけど、どうかした?」


「ど、どうもしないわよ」


 姉貴は嘘をつくのが苦手だ。あっさりと自らの犯行を自供する。


「その動揺ぶりからして、俺の自転車に乗ってったんでしょ?」



「だ、だってしょうがないじゃない。今日が生徒会朝礼だってことすっかり忘れてて、生徒会役員は早くいかなくちゃいけないのに自転車はパンクしてるし……」


 証拠一つないのに自供するとは、コ○ンでも火サスでもお目にかかれるもんじゃないよな。


「俺は遅刻してもいいのかよ!?」


「はぅ……、だ、だって……」


「はぁ……、もういいよ」


 これ以上話してたら本当に遅刻しちゃ……、遅刻?俺は耳から携帯を離して携帯で時間を確認する。


「NOォォォオオッ!」


「ど、どうしたの京ちゃん!?」


「遅刻だぁぁぁああ!」


「あはははは、遅刻しちゃダメだぞ京ちゃん」


 姉貴の純粋無垢な笑顔が手にとるように分かる。しかし天使の様な微笑みも、今の俺には悪魔の冷笑にしか思えない。


「あはははは、じゃねぇだろ。誰のおかげで遅刻しそうになってんだよ。それから、南ちゃんは二次元だけでええわ!」


 その時、俺は重大なことに気が付いた。


「もう電話切れてるし!」


 ツー、ツーという断続音だけしか聞こえてこない。


 俺は携帯を制服のポケットに荒っぽくネジ込んで家を飛び出す。


 外は雲一つない日本晴れ。俺の焦る心とは正反対で、どこまでも透き通るような日本晴れだった。


──Fin──

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