ロイネリアの街と冒険者ギルド
ーーーロイネリア
それは此処トライゼ王国にとっては隣国ランドケイドと交易を繋ぐ一つの大事な街である。
ランドケイドとトライゼが互いに和平を結んでから数十年。
戦後両方の国は戦争で疲れ切っていたのもあるが何よりも国を建て直すための資源が必要であった。
そのため、トライゼの王が目を付けたのはラルス地方という資源の豊富な地であった。
元々戦に備えて色々な地方の資源の多寡は調査が付いていたのだ。
しかしその豊富な資源を知っていたのはトライゼ側だけではなかった。
隣国ランドケイドは何処からか其れを嗅ぎ付けていたのだ。
ラルス地方はランドケイド領土に近く当時の線引きは微妙であった。
互いに険悪な関係になることを両国の王は恐れた。
そのため、元々さほど有名で大きくはなかったがーーーランドケイドに近くトライゼの王都を結ぶ中継地が必要だったためラルス地方にあるロイネリアが国王によって両国の交易地に相応しいように拡張された。
そしてトライゼ屈指の街となった。
「おお・・・」
ロイネリアは高い壁が街を取り囲むようにそびえ建ち害獣の進入を頑なに拒んでいるようであった。
「身分証か何かを提示してくれ」
とその大きな壁をぼんやり眺めている傍ら声が掛かった。
検問所の兵士だ。
(どうしよう・・・)
そう、渡はこの世界に来たばかりなので身分を証明するものなど持ってはいない。
と渡が困惑していると
「安心して下さい」
とウォルカが小声で言った。
「僕らの身分は商人が保証してくれます」
のことだ。
そして、商人と兵士の数分間に渡る何度かの問答の後
「通って良いぞ」
ようやく許可を貰えた。
ーーーーーーーーーー
商人と別れて一行は冒険者ギルドへと向かうらしい。
ウォルカは商人から茶色い用紙をもらっていた
マークに聞いてみたところどうやらこの茶色い用紙が護衛依頼確認の証となるそうで、これをギルドに提出することで公式に達成となるそうだ。
なるほど。
初めて馬車に乗ったので浮かれていたが、これは護衛依頼だったという事をうっかり忘れていた。
その後ちょっと厄介だったのは、護衛した物静かな商人が最後には俺の名前を聞いてことだ。
俺は冒険者ではないし名乗る程の者ではないといったが
中々に食い下がり意外にしつこかった。
この商人は俺が目立ちたくないという事を解っていない。
俺との繋がりを作るのが今後の旨みになるとでも考えているのだろうか。
困った。
しかし、その後その場をウォルカとマークが何とかごまかしてくれたので助かる。
また彼らに借りを作ってしまったが、この二人が動いてくれなかったらいい加減我慢の限界だったので
ーーー商人に対してうっかり記憶を飛ばしてしまうようなにスキルを行使してしまうかもしれなかったからだ。
勿論、誰にも知覚されない速度でね。
そんなことより気になったのは壁を越えた先にある中世的な街並みであった。
辺りを見回すとヒューマンだけではなく猫や犬のような亜人もちらほら見かける。
「これがこの世界の街か」
元々渡はNWC2で幾つかの巨大で煌びやかな街を作成していたがやはり本物の街とは雰囲気が違う。
渡は数回深呼吸をする。
ゲーム内では意味の無かった行為であるが現実のようなこの世界では街の活気を感じる。
他に何があるのか
キョロキョロと忙しなく街を見渡す
しかし、余程目立ったのか
「こういう街は初めてか?」
マークが苦笑気味に語りかけてきた。
「・・・辺境の村から出てきたばかりなのでこういう場所は慣れないかな」
実は別の世界から来ましたなんて言えない。
「ふふっ、僕もマークさんも辺境とは言わないまでもとある村の出なので気持ちは分かります」
とウォルカも同感する。
(ごめん、都会は見慣れてるんだわ)
こういう中世風の街並みを見るのが初めてな訳で。
と内心突っ込みを入れる渡。
さて、とウォルカが
「僕らは冒険者ギルドに向かいますが、貴方はどうしますか?」
渡の答えは決まっている。
勿論冒険者というものを見てみたい。
それにこの世界では無一文も同然だ
この世界の硬貨については一通り彼らに教えてもらってはいるが持ってはいない。
一攫千金を夢見るとまではいかなくても日々普通に暮らせるだけの金は欲しい。
そうと決まれば
「俺も行こう」
いざ、冒険者ギルドへ。
ーーーーーーーーーー
立派な建物だ。
単純だが、それが俺の最初の感想だ。
外装は一見何処かの大きな豪邸のようであるが決して煌びやかな造りをしているわけではない。
その造りは見た目だけではなく実用に耐えるものであることは建物を詳しく知らない俺でも良く解るし、何よりこの街の中心地に建てられているこの冒険者ギルドは街で重要であり権力があることを示しているように思えた。
扉を開けると熱気と会話が飛び交う。
恐らく冒険者であろう様々な戦士風の者達が口々に騒ぎ、酒を酌み交わし今回の報酬の算段でも決めているようなパーティ、仕事がてらに飲み交わし酔いが醒めやらぬパーティ、といったように冒険者ギルドというよりここは酒場かという雰囲気だ。
「こっちです」
と苦笑混じりな表情でウォルカが先導する。
どうやら俺はまた挙動不審だったみたいだ。
幾つかある窓口には受付嬢らしき女性がいた。
どの女性も美人だ。
先程街中を歩いているときにも思ったことだがこの世界には美男美女が多いんじゃないかと思う。
すれ違う者達の多くが綺麗どころばかり。
(はぁ・・・)
ちなみに俺の今のこの姿は美男子と言うわけではない。
適当なキャラメイクのまま作成したアバターなので見た目はそこそこと言った青年なのだが、この世界の美的基準で考えるならば微妙な顔立ちになってしまうような気がする。
なぜもっと美男子にしなかったのか悔やまれる。
ーーーウォルカやマークが俺のどんよりとした表情を見て不思議そうな顔をしているが
俺はそんなことよりも彼らの顔を凝視する。
「・・・・・・」
くそっ。
やはりこの世界は高水準な奴が多い。
不条理だ。
ーーーーーーーーーー
「冒険者ギルドにようこそ。
本日はどのような御用件でしょうか?」
気を取り直した俺は受付嬢の一人に声を掛ける。
「冒険者の登録をしたいんですが」
そう、登録だ。
冒険者はギルド登録を行わなくてはならない。
これはウォルカとマークに馬車の中で聞いていたことだ。
冒険者ギルドは周辺各国と同盟を結んでおりここロイネリアギルドは支部であり本部ではないそうだ。
ギルドが特殊な情報網を持ち各国に多く存在しても一つの組織として形を成していること、その情報網は半端ではないことは良く知られておりギルドは比較的治安の良い土地でしか開かれないらしい
ーーー「治安が良いは」あくまでこの世界基準だが。
冒険者は様々な人々の依頼、要望を受ける。
魔物などの害獣駆除は勿論、依頼人の護衛、荷物運びや家の屋根の修理、子犬探しなど便利屋のように依頼は多岐にわたる。
これらの依頼は何でも受けることは可能だが一度受けた依頼を破棄するには違約金というものが発生し大凡の場合は少なくともその依頼料の数倍の違約金を冒険者側は依頼人に払わなければならない。
だから依頼は必ず遂行するのさとマークは苦い顔をしながら俺に教えてくれた。
膨大な違約金を払うだけではなく評判も下がる。さらにギルド側から三度の厳重忠告というものがあり、三回目の忠告を受けた者は二度と冒険者として活動することが出来ない。
その厳重忠告についてもっと聞きたかったが、とにかく三度程依頼をすっぽかしたら駄目だと言うことだという態度で突っ張られてしまった。
聞かれたくないことは聞くまい。
ランクについても教えられた。
冒険者のランクには下からF.E.D.C.B.A.Sとあり、その上に一応SSランクというものが有るらしいが現在は誰も居ないらしい。
現在、ということは前は存在したという事だろうか。
訪ねてみるとSSランクまで到達したであろう者は過去一人。
魔王を討伐した勇者くらいだろうとのことだ。
ふーん。
そしてこのランク形式にもさらに厳密な区切りがある。
同一ランクの中でもギルドに能力が他の者より高いと認められたあるいは多くの依頼達成数の持ち主はギルド専用の本人証明書に+が付くらしい。
マークのギルドカードを見せて貰ったがCの横に+がついていた。
誇らしげな顔だったよ。
良い顔だ。
そう説明つつマークは続けてくれた。
Dランクからが大変だったと。
俺はそのランクで挫折する奴らを多く見てきたと
Eランクまでは一般人でも何とかこなせるらしい。
命のやりとりが少ないからだ。
Eランクまでの大概が家の掃除、物の配達や捜索だと。
Dランクからは試験があり、魔物を狩る技量と己の覚悟を試されると
全てはその下積みに過ぎない。
冒険者は強くなくしてはやっていけない。
俺は真剣な表情でそれを聞いていたが、
ーーーだが、お前が冒険者になるならば心配なさそうだな。
と言われウォルカにも
僕もそう思いますと言われたことは俺には良く解らなかった。
「はい、ギルドへの新規登録ですね」
受付所の声が俺の意識を取り戻す。
「ではこちらに貴方の血を垂らして下さい」
と一枚の銀色のプレートを渡してくる。
「えっと・・・」
いきなり血を下さいと言っても何がなんだかだ。
「どういうことです?」
と思わず質問。
受付嬢の説明は簡単に言えばこうだ。
ギルドカードには本人の血が必要となる紋章が刻み込まれており同一の人間がその契約を二度行うことが出来ないようになっているらしい。
つまり一人のギルドカードは生涯一枚きりで二枚以上は存在し得ない。
複数のギルドカード所持による横行を防ぐためだろう。
俺はふむ、と納得すると人差し指をちょこっと切る
ポタっと血の滴が銀色のカードに落ち俺の情報が記載される。
「あ」
ーーこの瞬間にある一つの懸念が湧いたのだが遅かった。
恐る恐る記載された自分の情報を確認する。
「・・・・・」
名前と性別と年齢だけか。
よし、余計な情報は載っていないみたいだ。
・・・職業 教皇とか出てきたら大変だったよ。
本当によかった。
「はい、新規でのご登録のようですね」
と受付嬢は笑顔を浮かべ
「それではカード代金として銀貨3枚頂きます」
「・・・・・」
え?金取るの?