親睦とこれから
ーーートライゼ王国
今居るここはその国の領土であり今向かっているロイネリアという街はその国の中でもそれなりの大きさらしく、位置的には隣のランドケイドという公国の領域に近い街であるそうだ。
この王国は隣にある公国や南に連なる小国群と同盟を結んでいるらしく、ここ数十年程は戦争もなく比較的他の国と友好関係を築いているみたいだ。
そうでなければ困るな。
平和な国生まれの俺としては戦争ばっかやっている国には属したくはないし、人殺しの為にこの力を振るうなんて事は出来ればしたくはない。
しかしその平穏を脅かす国は近隣にはいないが、いることにはいるらしい。
ーーアークロッド聖王国というこの王国から東へ遠く離れた国は今の元老院達がその座についてから血生臭いことばかり起こしている。
その最たるものとして魔族や亜人を排除するために力を注いでいるらしい。
そう、魔族と亜人だ。
この世界には人間ーーヒューマンや魔物以外に魔族や亜人がいる。
元々NWC2でキャラメイクの時に色々姿をいじって眺めていたのでゲームの設定と同じであれば何となくどういうものか想像は付く。
魔族と亜人はヒューマンと同じ人型だが魔族は漆黒の翼が背に生えており頭には角が生えているだろうし、亜人は猫や犬と言った動物の特徴が身体にあることだろう。
実物を見てみたいな。
何処に行けば魔族と亜人に逢えるかと聞いたら二人に驚いたような顔をされたが嫌な顔をせず答えてくれた。
「ーーー亜人は今向かっている街にも結構居ます。この国は比較的種族に寛容な国です。・・・しかしそれだからこそ聖王国には余りよく思われていない節があります。ーーー魔族に関してはほぼ見られることはない、と思います」
とウォルカはそこで言葉を区切り
「・・・なぜならこの大陸とは別にある大陸ーーー私たちは暗黒大陸と呼んでいますがそこにその多くが存在するとされています」
「暗黒大陸ね・・・ところで、なぜ魔族はそこに?」
と俺は何回目かわからない質問をする。
魔族はヒューマンに昔、何か悪いことでもして追いやられたのだろうかと予想するがーーー
すると唖然とした顔で俺を見る二人。
「・・・それ本気で言ってるのか?」
とマークが呟く。
「・・・かなり有名な話だと思うのですが」
とやや困り気味に言うウォルカ
・・・彼らの話を簡単にまとめるとこうだ。
遙か昔この大陸にも強大な魔族の国があり魔王がいた。
魔王がこの大陸で好き勝手暴れ亜人やヒューマンを苦しめる。
勇者が現れる。
魔王を倒す。
魔族はこの大陸を追われる。
ーーーということらしい。
まあ、予想はしていたが。
ーーーしかしこの世界には魔王が存在したのか。
昔は魔族の国を建て君臨したが
今は居るのだろうか。
魔族の王ーーー魔王が
興味はあるが、こんなことを考えても仕方ないか。
俺は何のしがらみにも囚われずに生きていきたいのだ。
「ーーーしかし本当に何者なんだ。お前はまるで・・・」
とマークが突然口を開く。
「マークさん」
とウォルカは目線で止めるようにする。
彼は了解したような顔で
「・・・ああ、そうだな」
とマークは口を閉じる
「・・・・・」
そのマークを黙って窺う渡。
(・・・ほんとに彼は何者なんでしょうか)
ウォルカは思う。
ーーー実際、マークと同じく彼ーーーワタルが何者であるか聞きたい。
ここまで質問ばかりだが彼が悪者ではないのは話してみて解る
マークが彼の正体について問う前から自身も何度か問いただしたくなるのを抑えていた。
この辺の地理についてよく知らないのは解る。それで迷子になったのも解らなくはない。
ーーーしかし、これほどの魔術師の存在が噂にもなっていない、一人で旅していているのに何か違和感を感じる。
それに魔王と勇者の御伽噺を知らないのもちょっと解らない。
ーーー辺鄙な村の子供でも知っている話だからだ。
彼が特殊な生い立ちあるからか?
だとしたら何なのか
皆目見当が付かない。
いやーーそれよりも
そう、彼はあまりにこの世界の常識を知らなさすぎるように感じられる。
まるで記憶喪失・・・いや「この世界を初めて知りました」に近い印象をこの会話の中でウォルカは持った。
ーーーしかし彼自身答えてくれないだろう。
それに恩もある。
聞かれたくないことは聞かない方がいいだろう。
ウォルカはそう落ち着くことにした。
ーーーーーーーーーーーーー
三人の冒険者と黒髪の青年は馬車に揺られる。
俺がこの世界について冒険者二人に話してもらってから数時間程経過していた。
本来であれば俺に対して無言であることも多い状況だったかもしれない。
だが、彼らが無言でいることは寧ろ少なかった。
それからは他愛もない談笑ばかりだった。
そして意外と気の合う者達であった。
得体の知れない自分が聞かれたくないことをあえて聞かない気遣いに好感を持てたのだ。
ビッドという魔術師の青年はその間に介入してくることはなかった。
俺は拒絶しているようにも見える彼の態度にもめげず何度か話しかけてみたがやはり無視か何かにふけっているようなそんな表情を浮かべていた。
・・・彼が何を考えているのかは知らないが
考えるのも面倒なので放っておくことにした
悲しいが。
護衛の方はどうなっているかというと問題なく順調だ。
大量の魔物ーーーでは無かったが
道中先程戦った狼に遭遇した。
俺は手を貸そうとしたがマークに止められた。
彼らだけでやるらしい。
「これは俺たちの護衛依頼だ」
とはマークの言葉だ
責任感があって良い。
俺は無いが。
狼との戦いで彼らは見事な連携でそれらを退けた
ーーー訳ではない。
マークは一人で前衛を担い後衛を守り。
ウォルカは結界を護衛対象に張るのはいいが自分への対処が疎かになり危うい状況も考えられる。
ビッドに至っては魔術職なのに前衛にでて無理矢理戦況を切り開く。
本当にこのパーティは危うい。
しかし、今まで全滅しなかったのは個々の能力が高いからであろうか。
(心配だなぁ・・・このパーティ)
ふと思ってしまう。
「そろそろ街が見えてきますよ」
とウォルカの言葉に意識を戻し
「ああ」
と馬車の外へと顔を覗かせる
「あれが・・・ロイネリアか」
馬車で約四時間超。
このパーティと出会った時には昼前位の時間帯であったが今はおやつの時間を過ぎたといったところか。
(さあ・・・何をしようか)
渡は期待に胸を膨らませつつこの世界で初めての街へと足を踏み入れようとしていた。