ある戦士の回想
※主人公視点ではありません
ーー俺の名前はマーク=ジェフリット
もうじきBランクになる一端の冒険者だ。
Bランクというと世間では経験豊富な一流の冒険者などと言われているが俺は必ずしもそうは思わない。
前にギルドで見たBランクの4人組の男共のパーティは強さこそが全てだと言い他の暴力を振るう問題児だったし、どこぞの高名なBランク魔術師は人のことを見下し何か問題があると他人のせいにしてそれを疑わないクソ野郎だったーー中には目標にしている奴もいるにはいるが。
Bランクだけではなく冒険者の生涯の到達点ーーー目標として囁かれるAランク以上の奴らだってそのようなクソ野郎が多いと聞く。
ーー恐らく冒険者の大半はある程度実力が付いてくるとそれに比例して自分に失敗はないのだと自信過剰で粗暴になって行くのだろう、と時々そう思う。
俺はそうはなりたくない。
確かに自分の腕にはある程度の自信がある。仲間の神官のウォルカにも「自信を持ってください。貴方のその力は私が保証します」ときっぱり言われたが、俺と同じC+ランクのお前に保証されても仲間には信頼されているとしか理解できない。
ーーというより最近の冒険者には慎重さが足りないな、と思う。
俺はもう5年は冒険者をやっている。
たかが5年と思うかもしれないが、最初の1.2年で冒険者の素質が有るかどうかが決まり、それがない奴はせいぜいDランク止まりでそれ以上はない。
そう、Cランクからこそ本当の冒険者、過酷な試練が待ちうけているのであり、その危険度はDランクまでとは比べものにならない。
俺は同じランクの奴らが魔物にやられ死んでいくのを数多くみてきたし、一攫千金を夢見て難易度の高いダンジョンに潜り、戻ってこなかった奴だってよく見かける。
冒険者とはそのような馬鹿共が多い、
勇敢と無謀を履き違えている。
死んでしまったら何にもならないというのに
常々そう思う。
しかし、今俺の横にいるこいつーーー魔法師であるビッドは最近だんだんと俺の嫌いなクソ野郎の性質に近づいている節がある。
最近新しい強力な魔法スキルを覚えたのか教わったのかは知らないが、リーダーの俺の言うことは聞かず、「あの魔物を倒せたのは俺の御陰だよな」とか「あのとき俺が魔法スキルで助けてなければどうなっていたか・・・」とか明らかに俺とウォルカの活躍を無視し自分の力を少々過信しすぎているようで飽き飽きしている。
ーー戦闘になると後衛なのに前衛である俺のように前に出て魔法スキルを連発して発動されると邪魔で仕方ない。これにはもう我慢ならない。
パーティとは仲間同士の協力が不可欠だ。
今の俺のパーティにはそれがないのでこれは最早パーティではない。
この今の任務、ロイネリアの街への商人の護送が終わったら、冒険者ギルドでパーティを解散しよう・・・とそんなことを馬車に揺られながら俺は考えていた。
ーーしかしそんな俺の思考を覚ますように
スキル「感知」が森の奥からざわざわとと蠢く気配を感知する。
敵か!
感じ取った気配は結構な数だ。
この辺りならば小鬼か角狼の群れということになる。
しかし結構な速度で此方に向かってくる。小鬼にはこれほどの俊敏さはない、これは角狼だろう。
面倒だが戦闘は避けられない
これは護衛任務だからな。
ウォルカとビッドも既に近づいてくる気配に気づいているみたいだ。
互いに目配せし商人の安全を図る
これはいつもウォルカに任せている。
俺はスキル腕力強化を発動し後衛がサポートしやすいように先導する。
しかしビッドは戦闘となると自分の力を誇示するように前衛に出てくる。お前後衛だろ邪魔だと言っても聞きやしない。
本当に解散したい。
いかんいかん今は目の前の敵だ。
俺は愛用の鋼鉄のバスタードソードを抜き、構える。
他の二人も素早く敵がやって来る手あろう方向を向く
ピリピリとした喧騒を肌に感じる。
ーーそして姿を現したのは予想通り角狼だった。
しかし
「な・・・・・」
確かに予想通りの敵であったことはいい。
角狼はDランクの魔物であり、 普通の狼とは違い一本の角が頭に生えている灰色の狼だ。
今の俺たちなら十や二十の数はどうにかなる。
「厄介だな・・・」
ーーーしかし三十近い数に長角狼が居たんじゃその見立てもどうだかわからん。
それも二匹。
長角狼の討伐難度は普通の角狼の一つ上のD+ランクであり、一回り以上大きな体格に鋭い牙は油断なら無い。
ここまでの護衛には小鬼や豚鬼といった群れとも戦ったがどれもこれもこれほどの数ではなかった。
この狼の大群に遭遇してしまったことは運が悪かったとしかいいようがない。
駆け出しの冒険者が見たら速攻で逃げ出しそうだ。
ーー俺だってできれば逃げ出したいくらいだ。
しかし、角狼の様子が何かおかしい。
飛びかかってこないのだ。
本来、こういった魔物は有無を言わさず敵に襲いかかってくる。
これだけの数とリーダーが表道に出てくるのもそうだが、
ーー何より何かに怯えているみたいだった。
そんなことを考えていると
一際、興奮したようなホーンウルフが素早く飛びかかってきた。
「ーーー火球!」
ボウッ
飛びかかろうとしてきたホーンウルフが燃え上がり
断末の鳴き声をあげる。
ーー撃ったのは俺じゃない。
この場で魔術スキルが使える奴は一人しかいない
隣にいる自信家のビッドだ。
この戦いで確実に生き残れる自信があるのか
口元には笑みを浮かべている。
続けざまに
「ーーー火壁!」
俺の背の高さほどの火の壁が出現する。
何匹かはその火壁の犠牲となった。
それを合図としたかのようにホーンウルフが素早く動き始める。
「くそっ」
俺は悪態をつく。
ほんの僅かな可能性だが、もしかしたら奴らの群れを刺激せずに戦闘を回避する方法があったかもしれないが、そんなことを後悔してももう遅い。
勝手に行動したのはいつも通り気にくわないが
火壁で敵を分断し混乱させたのは悪くはない。
しかし、やはりそうは言ってもビッドを怒鳴りつけたい気持ちに駆られたが狼の牙は目の前まで迫ってきていた。
「ーーーシッ」
かかってきた角狼を鋼鉄のバスタードソードで受け流しーーー断ち切る。
真っ二つになった狼から血が吹き出し俺の顔を汚すが今はそんなもの拭っている暇はない。
「ーーーーー!」
それに続くよう一斉に俺めがけてかかって来やがった。
5匹程だ。
「ーーーラァッ!!」
横凪に素早く剣を走らせるが仕留めたのは3匹までだ。
残りの特攻にはこの重い剣じゃあ反応しきれない
仕方ない、ここは喰らうしかないか。
俺は頭を右手で護るようにしながら腰に装備しているダガーを抜き放つ。
「ーーーぐっ」
右手と左肩に噛みつかれた。
鉄のガントレットとチェインメイルを装備しているが
痛いものは痛い。
左手にあるダガーを噛みつき暴れ回るうるさい狼に突き刺す。
「ふん!」
狼共を投げ飛ばす。
黒い影がちらりと視界の端に映る
「!!」
しまった。
気を取られすぎた。
長角狼は知らぬ間にかなり接近していた。
それも計ったように二匹同時だ
今が殺り時だと思ったのだろう。
流石に二匹リーダーがいると一匹よりも統率された動きになっているな。
片方は確実に倒すことが出来る自信がある。
しかし、もう片方の特攻は防げない
ビッドの野郎は狼を燃やしていて此方の援護に間に合わない。
というより奴が援護するのかどうかすら怪しい
ウォルカも間に合わない乱戦状態だ。
ーーーやはり、死を覚悟しなければならないか
元々、この数を相手に無事だなんて思っちゃいない
俺は愛剣を握る力を込める。
ザンッ
突然、二匹の長角狼が真っ二つになる
「何!?」
俺は驚きを隠せなかった。
瞬く間に他の狼も血飛沫をあげ地に伏していく
ーーー周りを見渡すと殆どの狼が倒され
怯えた狼が一目散に逃げて行くのが見えた。
残っているのは狼の死体と立ちこめる血の臭い
ウォルカは驚いた表情で俺を見てくる。
ビッドに至っては呆然としていた。
この二人が何かしたわけではないのか。
ーーーそんなことを考えていると
「大丈夫ですか!?」
背後から声が掛かる
俺は先程より驚き、そして素早く後ろを振り向き
血で塗れた愛剣を構える。
黒いローブを着た黒髪黒目の青年がいた
呆けていたとはいえまさかここまで接近されるまで気づかないとは。
隠密系のスキルか?
それにこの狼たちをやったのがこの青年だとしたら何のスキルだ?
ーーーどちらにせよ只者じゃないな
俺が訝しげな表情で窺っている視線に気付いたのかどうか解らないが
青年は申し訳なさそうに困ったように
「ーーーあの、迷子です。助けてください」
と答えた。