悪心の悪戯
ーー俺がこの神殿を出て行く発言をしたことによって皆に監視されているようだった(特にミリティア)。
そのため先程の玉座のある大広間ではなくなんとか自室に閉じこもることで鬱陶しい監視の眼から逃れることが出来た。
-----だがそれも長くはもたないだろう。
全く、ちょっと出かけるくらい許してくれないだろうか
勿論、無期限でだがね。
この世界でもゲームと同じようにスキルが使えるか、それに関して問題があるとするならどこがどう違うのか自分の部屋で一人色々試していたがーーーどうやら大した違いはなく(むしろスキル発動時にゲームで感じられたラグがないことに感動)使用できたので特にもうやることはない。
しかし、やはり当たり前といえば当たり前だが、自分が元々ゲーム内で所有していないスキルは使用することはできなかった。
ーー転移スキルを使うことができればこんなにあれこれ悩んだ挙句、他人の目を憚るように自分の部屋にこもって一人でコソコソすることもないのだが。
転移スキルとはプレイヤーを行ったことのある場所や行ったことのない場所にランダムに転移させるスキルだ。当然、スキルランクや熟練度が高いほど転移できる飛距離ものびるし、消費MPも減る。極められれば無詠唱で長距離を移動することも可能だ。
ランダム転移の場合にはリスクが伴う。
なぜなら、ランダムに転移した場所が非常に危険な場所だった場合ーーいきなり大勢のモンスターに襲われることや遙か上空に転移し落下、そのまま死亡という場合があり、最も怖いのが物体の中に転移したりする事なのだ。
これがどのように怖いのかはーーー大分昔に流行っていたといわれる某古風なRPGゲームで転移する座標を間違えてしまったあの恐怖を自分の身で体験するものだと思ってくれていい。
しかし先ほど気が付いたがーー転移スキルが使えたとして神殿から転移スキルは使えず、外からこの神殿への転移もできない。・・・何でこんな仕様にしたのか今では後悔している。
死んだら死んだで直前の記録は失われるし、NWC2の世界であればセーブした地点からやり直せるのだが、ここはもうゲームの中では無いようなので渡が慎重に考えた結果ーー
「・・・・・・・・・・あった!」
ごそごそと空間の裂け目に手を突っ込んでから十数秒ーー渡はついにアイテムボックスから念願のものを取り出した。
さほど重要なマジックアイテムではないためかはたまた整理整頓がなっていないためかどうかは分からないが、アイテムボックスの奥深くに埋まっていた。
そして、俺は今の窮地を救ってくれるアイテムに対してそっとつぶやく。
「「悪心の悪戯」ーーー解放」
ーーそして渡の姿は黒い靄に覆われ
跡形もなくその場から消えた。
このマジックアイテム「悪心の悪戯」はNWC2において40レベル程度の魔物である下位魔神が極稀に落とすレアアイテムだ。
この下位魔神が落とす「悪心の悪戯」はレアアイテムというと聞こえは良いかもしれないが、うっかり解放しよう物ならスキルランク6相当のランダム転移を起こすプレイヤーの間では余り好まれていない曰く付きのアイテムだ。
しかし
ーーこんな嫌がらせアイテムでもこういう状況の場合は役に立つ。
いや、こんな状況でなければコレが役に立つ場面が見つからないか・・・
理由は二つ。
まず一つ目の理由はランク6の転移というと、結構遠くへ飛ばされる可能性が高いことだ。
ゲームの中で自分がうっかりその特殊能力を解放してしまった時、元の場所に戻るのに歩いて何日か掛かるような広大なエリアを2つ分程飛ばされたのは今では良い経験となっている。
そして、最も重要な二つ目の理由として、このアイテムのランダム転移は物体の中へと転移することが無いとされている。
「物体の中には転移しない」というこの情報は以前NWC2の攻略サイトに乗っていたため信憑性は高いだろう。
ーーよって物体の中に転移さえしなければ今の装備とアイテムでなんとかなる・・・いや、させてみせるし、ランク6相当の転移というのだから気が付いたらそこに居ない的な消失は早く遠くに行きたい今は好都合だ。
それに消失に気づいたあの5人が追ってこようにもこのマジックアイテムの残り香による追跡を俺がまざまざと許すわけがない。
ゲームをプレイしていた頃の邪神の軍勢と戦うような入念な対策と準備はしてある。
ーーー置き手紙も置いてきたからこれから自分の居ない神殿は・・・多分大丈夫だろう。
多分だ。
こうして俺こと佐野渡は脱走を果たした。