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教皇の異世界物語  作者: しらす御飯
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まずは現状把握

 (・・・・・うっ)


 沈黙が痛い。


 明らかに目の前の5人は動揺している。


 ーー自分に突き刺さる十の視線。


 こうして見ると怖いな。


 思わず「冗談です」と言ってしまいたくなる。


 ーーだが俺は今の発言を後悔していないし撤回するつもりもない。


 此処にいればまず間違いなく俺の考えた設定上無理矢理こいつらに教皇やらされるだろう。


 ならこれは自分がこれから(依然としてこうなった理由はわからんが)自由に生きる上で必要なことなのだ。


「げ、げ、猊下(げいか)、それはどういうおつもりで?」


 さっきの凛とした冷静さは何処に行ってしまったと言う程狼狽えてしまっている金髪碧眼美女ミリティア。


 其れに呼応するかのように


「・・・猊下(げいか)がそうなさるつもりならば、私は引き止めはしません。」


 と長身の美青年は淡々とした口調で言った。


「レイナス!貴方何を言って・・・」


 と言ったミリティアの発言は途中で切られ


「しかしその理由を知りたいものですね」


 と穏やかな笑みを浮かべながら言ったレイナスと


「・・・儂も猊下(げいか)がおっしゃったその言葉の意味が気になるのぅ、なんとなく言ってみた訳じゃなかろう?」


 と、うんうんと頷く大柄の武人気質の老年の男ゼルハルド


 このミリティア、レイナス、ゼルハルドの三人は、渡がポイントを膨大に貯めたために創ることができた自作キャラだ。


 しかし凝った自作キャラを創作する場合、顔や声や性格、体や能力といったものに何十万と貯めたポイントが消える。


 そのためにイベントやクエスト、魔物などを倒してポイントを得ることができるが微々たるものであり、その魔物を倒すために強い武器や頑丈な防具が欲しい場合にもポイントが必要となるためやはりこのNWC2に課金は不可欠となる。


 しかし3人はその払ったポイントに見合うだけの性能を持ち、特典によって貰える経験値に補正が掛かりプレイヤーの倍貰えることもあるーーーというおかしいものなのでわずか半年程度で渡の次くらいに強い枢機郷カーディナルに達することも可能である。


 また、プレイヤーと自作キャラが互いに同じ職業ジョブを選んだとすると、自作キャラの方がレベルによるスキル修得が早かったり、熟練度の上がり方が早かったりと至れり尽くせり。


 まじ自作キャラチート性能。


 しかし、この自作キャラにも問題があった。


 レベル上限が80なのである。


 3人とも渡と初期は同じ職業(ジョブ)司教(ビショップ)であるが、レベル基準で言うなら40で大司教アーチビショップ、70レベルで枢機郷カーディナルということでどんなに頑張っても枢機郷(カーディナル止まりということになり、100レベルになってしまったプレイヤーより強い自作キャラは創れないということになる。


 しかしそんなシステム上の設定があろうと渡は自作キャラには自信があった。


 レベルはもちろん最高値の80だし、全体的なスキルランクの高さと所持数はそんじょそこいらのプレイヤーの自作キャラには劣らない完成度だと自負している。


「やはり主、どこかお身体が悪いのでは・・・」


 と白銀の狼、ウルクスが心配そうに渡の顔色を伺い


「もしかしたら猊下げいかに邪神の加護が!?

 でしたら私の聖なる斬撃で・・・!」


 と白銀の鎧を纏ったラヴィアラが慌てたように腰に掛けている聖剣に手を掛けたが


「・・・・・・・」


 無言でそのラヴィアラの聖剣に掛けた手を掴むマヨイ


 ラヴィアラとマヨイはここーー「不滅の神殿」の戦闘係だ。


 聖騎士パラディンであるラヴィアラは近接戦闘だけでいえば意志を持った今では俺を凌ぐかもしれないが、意志を持ったということは渡の描いた設定上真面目なアホ娘ということなのでとりあえず今は放っておく。


 マヨイは職業ジョブが忍者であり、11名程いる精鋭達の特務部隊隊長をやっている。とりわけ隠密機動において彼女の右にでる者はいないーーというよりすべての状況に対応できるようにスキルを育成してたので困ったときの無口娘マヨイちゃんである。


 2人とも勿論80レベルである。


 先程からチラチラこちらを窺う白銀の狼の名はウルクス

 何かと心配性な狼と言う設定でありこの中で唯一自作キャラではない。


 実はこの狼、ファフニールと呼ばれる最高位の神獣であり

 このゲームがおかしくなる前の話だが、大天使ガブリエルが神に仇なす大きなイベントにおいて神に協力し、かつ神の軍勢の被害が軽微な状態でイベントクリアをすると仲間になってくれるのである。


 この仲間にするは断ることができるが、極めて高い性能を持つ神獣が手に入る数少ない機会なので断るプレイヤーは余りいないだろう。


 ウルクスのレベルは忘れた。


 やはり「わしが育てた」愛着が無いからだろうか。

 -----しかしもう自作キャラも土地も自然も創造することはできなくなった。


 ポイントも知らぬ間に消失していた。


 元々使いすぎで残りが少なかったポイントの消失はまだ許容範囲だ、しかしステータス画面にはログアウト以外に消えている項目があった。


 クリエイトというNWC2の醍醐味とも言える項目である。

 くどいようだがこのクリエイトがあるからこそがポイントを使って自作キャラの作成や新しい大地、自然などが創り出せるのである。


 ーーそれになにより許せないのは


「皆、よく聞け」


 と俺は威厳があるように話す。

 すぐさま5人は俺の言葉を聞く姿勢に入る。


「この神殿周辺における異常を感知した」


 と俺が言うなり緊迫した雰囲気になった。


「異常・・・ですか?」


「そうだ、おまえたちも気づいているだろう?」


 というミリティアの問いに俺が答える。


 そう、異常だ。


 この神殿の外は大きな美しい中世の街が広がっているのだが、マップを見たところ未探索エリアとなっていた。


 ーーつまり街が消失したか、もしくは全く別の場所にこの神殿が移動したという事になる。


 あの丹誠込めて創作した街並みが消えてしまったとなると何だか無性に悲しくなってくる。


 いや、今はそんな事を考えている余裕はない。


「異常というのか解らんが、そういえば魔素が濃いような気がするのぅ」


「ええ、それに空気も澄んでいるような気がします・・・まるで聖域のようですね。これは変です」


 とゼルハルドとレイナスがそう口々に言う。

 自分自身は全く気づかなかったがーーー彼らがそう言うのならそうなのだろうか。


 二人の発言に乗じるように声高に


「そう、今いる此処は我々の知らない全く未知の土地である可能性が高い」


 俺の今の発言に驚いた顔をする者もいるが、

 取り乱すようなものはいないようだ。

 これはきっと教皇である俺の特殊能力の御陰だろうか。


 スキルとは別に永続して発動している教皇ポープの特殊能力「聖祖セイントマーカー」は俺の持つ最高の特殊能力の一つであり、自身の配下の忠誠度、能力を大幅に上昇させ、疫病や恐怖と言った状態異常に対して完全耐性を付加するとんでもない能力だ。

 俺自身がこれだけ冷静なのも恐らく他の何らかの特殊能力が働いているのだろうが今は置いておく。


「と言うわけでこの神殿はお前達に任せ、私はこの見知らぬ大地を見て回ろうと思う。私からは以上だ、仲良くやれよ。」


「「「お待ちください!!!」」」


 ーーそういって俺は大広間から出ようとしたのだが捕まった。


 ん?


 あれ?


 俺なんか変なこと言ったか?


「そう言うことでしたら確認を取るので私めにお任せを」


「本当にそうだとしたらこうしてはおれん。猊下げいか

 此処でお待ちくだされ、儂が外を見てくるぞ」


「お前たち何を言っている!

 猊下げいか、ここはNo.2である私に・・・」


猊下げいかの敵はこの聖剣で斬り伏せます!!」


「・・・・・・」


 ・・・うん

 頼もしいのは良いんだけど、

 此処にいる限りは普通に生きてゆけないよなぁ・・・


 やっぱりゲームだからよかったんだよ。


 ーーその後いろいろドタバタして結局は仲良くジャンケンをさせた。


 レイナスが此処周辺の偵察に、穏やかな笑みを浮かべたまま「では、言って参ります」といって出掛けていった。イケメンめ。


 他の者は悔しそうにしていたが、「暇なら神殿の警備しろ」と言ったら張り切っていた。


 ーーレイナスの報告によるとどうやらかなり高い霊峰のような山脈の中腹あたりに神殿があり、見渡す限り深い森が広がっているみたいだ。


 俺はその報告に半信半疑であったが、いざ神殿をでて自分の目でそれを確かめると「大自然てスゲェ・・・」とつい驚きの声を上げてしまった。


 勿論NWC2にはこのような山脈を創ることも可能だが、所詮ゲームはゲームなので現実ほどの迫力はない。何より空気が美味しい・・・此処ってかなり高いから高山病とかで苦しくならないかと思って1時間程結構動いたが体に異常は起こらなかった。


 やはりスペックが高いといいね。


 そして周辺に危険もないことがわかったので


 -----此処から脱走するために俺は行動を開始した。








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