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教皇の異世界物語  作者: しらす御飯
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気が付いたら異世界

初投稿作品になります。

拙い文章ですが、宜しくお願いします。


「どうしてこうなった・・・」


 最早お決まりとなった言葉を吐き出しため息をつく煌びやかな玉座に座す若い男。 顔はこれといって特徴のない顔立ちの青年だが


 どのような者でも一目見ればまさに一級品と理解するような銀の刺繍が丁寧に施されているローブを羽織り、超一流の職人達が一体どれほどの時間を掛ければ製作出来るのかーーーいや神から与えられた神器というべき非常に美しい白銀の杖を右手に持ち、両手の指には爛々と輝く指輪をつけているが、それらの装備に不釣り合いな程い暗い顔をしていた。


 ありえない、と青年は呟く。


 俺は確かに最近鬱屈としていたとはいえ、そろそろ仕事にも慣れやりがいを感じていたし、時々自分の住んでいるマンションの小さな公園に出没しよくマンションの住人に可愛がられている変わった黒猫に餌をやることを密かな安らぎとしていた俺としてはこんなことなんか願ってはずなかったのだが・・・


「運営の悪戯か何かか・・・?」


 いや、それはないだろうと自己完結する。


 運営から送られてくるメッセージにはシステムメンテナンスの情報なんて乗ってなかったし、今日の新しいシステムアップデートもしなかった。


 ここで運営が何かしら干渉しようにも今はオフライン中なのだ。


 そんなことはないはずだ。


 しかし ・・・何かの勘違いだとしようにも明らかにおかしい事態が幾つかある。


 自分のステータス画面を見てて気づいたがログアウトの項目がないことだ。


 まるで最初から無かったかのように。


 さらに・・・


「主、顔色が悪いですぞ」


 ちらりと声がした方に顔を向ける


 白銀の艶やかな毛並みできらきらと輝く2mはあろう狼が心配そうに俺の顔色を窺っている。


「な、なんでもないぞ、ウルクス」


 と極めて冷静を装った顔でその白銀の狼に答える。


 多分こんなに冷静さを装ったのは初めてだ。


 ・・・そう、今のこの狼とのやりとり

 これがおかしいのだ。


 この日本が誇るバーチャルシュミレーションゲーム「New World Createor 2 」ーー通称NWC2は大抵の人型キャラクターは創作者ー つまり俺に対して簡単な受け答えが可能なようにプログラムする事ができる。


 例えば俺が「今日も元気か?」と問えば「今日も問題ありません」というように答えるし、「この部屋の掃除を頼む」と言えば「了解しました」と言うようにその部屋の掃除を簡単なプログラムに乗っ取り行動する。

 ーこれはゲームなのであくまで掃除をするふりであり実際、部屋の掃除が必要になる程汚れることはない。


 ましてはキャラクターの方からプレイヤーに対して発言し、表情を心配そうに向けてくることなんて断じてない。


 ーーもう一度言うがこれはゲームなのだ。


 プレイ中に寝落ちしてしまった可能性も考えたが、上を見上げると暖かな日光の光が射し込んでいて眩しい。


 眩しいという感覚はこのNWC2にはあったが、暖かいという感覚は長い間プレイしていて初めての経験であるし何より先ほどから心配そうにこちらを伺う大狼の存在がリアル過ぎるのである。


 厳かな雰囲気に金色の瞳

 まるで伝説に存在したかのような圧倒的気配に満ちているが今は少々困惑した顔つきで俺を見ている。

 これは一体どういうことなのか。

 何か言わなければなぁと俺が苦い顔をしていると


「主、先ほどから体の調子が優れないのですか?

 何なら私めが他の者を呼んできます

 お身体に何かあってからでは遅いですし」


 とその体をゆらりと起し


「主、少々お待ちを」


 と大狼が言ったところで


「ま、待て、ウルクス」


 と俺は咄嗟に言った。

 しかし引き留めたはいいものなんと言ったらいいのか。

 ここは何処かという質問はおかしい気もするのでここは


「私は大丈夫だ、しかし他の者を呼ぶなら枢機郷カーディナル達を呼んでくれ

 他の幹部達もだ」


 と必死に言葉を繋ぐ

 その俺の発言に驚いたように大きく眼を開いた大狼は動揺したように


枢機郷カーディナル達をですか?

 しかし・・・」


「緊急事態だ」


「緊急事態!?

 其れは如何様なもので?」


「・・・それは皆が集まったときに話す

 今は急ぎだ、頼んだぞ」


 と俺が言うなり白銀の狼は慌ただしくすることもなく、だが素早く飛び出していった。


 ーーー俺は誰もいなくなったこの大きな広間でほっと一息つく

 正直、いろいろ混乱していてどうすればいいのか分からない


 此処はどこか。


 ーーーいや、厳密にいえばこの世界はいったい何なのか


 ・・・馬鹿馬鹿しいとも思うがここは異世界のようなものであるのか


 ーーーだとしたら元の世界に戻る方法はあるのか


 今はとりあえずそれらを考えることをやめる。

 ここに集まる俺の部下が意志を持ち

 俺の考えた設定通りの者達ならば頼りになるだろう

 今はこの席に座して待つことしかできない。


 佐野渡 25歳


 焦りは禁物だと自分に言い聞かせた。











 ーーーーーーーーーー










 こうなる前の元の現実世界でのNWC2はそれなりに有名なバーチャルシュミレーションゲームだった。


 このゲームがどんなゲームかというのは自分の創造した世界を神のように思う存分いろいろなことができたり、他のプレイヤーと自分の世界を見せ合えたり、その他のプレイヤー世界でパーティを組んで思う存分その世界を堪能したりーー簡単にいえば滅茶苦茶ボリュームのあるRPGと経営・育成シュミレーションの融合を仮想世界で存分に遊べるゲームである。


 創造すると言っても自分で何から何まで創るわけではなく、森や川といったパーツと呼ばれるものをポイントを消費して購入し、これらの森や川を繋げて大森林にしたり、長い川にしたりできる。

 自然が豊かになると、村や町が自然発生し、そこに人が住み始める。


 これだけならそこいらの製作ゲームと変わらないが、自然発生するのは魔物(モンスター)もそうだし、魔素が濃いとダンジョンができる。


 魔素というのは人や魔物(モンスター)の体が朽ちたりすると発生するため創造した世界には必然的に魔素が発生する。


 この魔素と言う要素が他の作品とは違う物の一つであり、世界を魔物モンスターだらけにすることも可能である。

 元の世界で自分の数少ないこのゲームのフレンドが人間や魔物(モンスターを虐殺しまくり、発生したダンジョンを強化しまくり不落のものとし魔王のようにプレイしていた世界を見せてくれたが、そのプレイの仕方も楽しいかもしれないと俺は思う。


 魔素は世界を形作るための重要な要素であるがそれ以上にポイントがなければ自分好みの世界は創れない。それには理由がある。


 自然のパーツだけで約6万種類もあり、パーツの組み合わせで発生する村や町の数や大きさも違うため基本的に自然発生する中で他のプレイヤーの世界と被ることはない。


 ちなみに自然発生するものでは村と町とそこに住む人間、魔物(モンスターとダンジョンだけであり、村や町の家は木造が精一杯である。

 つまりその町に立派な屋敷や城を建てたいと思うならばポイントが必要、ダンジョンの仕掛けを複雑にしたいと思うならばポイント、人間や魔物モンスター以外の種族も欲しいというならばポイントというようにとても重要な役割を成している。


 実はこのポイント、チュートリアルが終わった後に貰えるのだが、10万ポイントと初期ポイントにしては少ないのでポイントを購入するため課金が必要になる。この少なさと言ったら中型の古城(8万8000ポイント)買ったら殆ど無くなるくらい少ない。


 ちょっとだけこのゲームをプレイする者には丁度良いかもしれないが、このゲームを仕事から帰宅し睡眠時間を削りながらプレイするほどやり込む奴からしたら何百万何千万と言うポイントが不可欠になる。・・・渡もその一人である。


 このNWC2を語っていくにつれて、神の視点から自分の創造した世界の成長を見守るゲームだと思われているかもしれないが、本当のメインは其処ではない。

 それが、アバター(その世界で生きていく自分)とスキルだ。


 このアバター、ゲームプレイヤー1人につき1体までであり、初めはどのプレイヤーであろうと21種類あるうちの「基本」職業(ジョブ)から一つだけ選べる。 (この1人につき1体までというのがこのゲームの不満点であり、他のアバターを作成するためにゲーム装置デバイスを複数個所持しているプレイヤーもいるがさておき)


 今の渡のアバターは職業ジョブ教皇ポープであり

 この教皇ポープになるためにはプレイヤーレベルが100であること、スキルを60個以上修得しランク7以上のスキルが25個、ランク10のスキルが8個以上であり、その他にも数多くのNPC達から信仰や忠誠をうけていなければならないという最高位の職業ジョブである。


 一般におけるスキルのランクの最高値は10であり、修得が困難な稀少レアスキルや固有(ユニーク)スキルの場合はランク5が最高値のものが多く、スキルはどんなものであっても熟練度というものが存在する。


 例えば魔術師(マジシャン)の初期スキルである火球(ファイアーボール)は熟練度を最大まで上げると熟練度がゼロの火球(ファイアーボール)を遙かに上回る威力を発揮するといった感じである。


 この熟練度は戦闘において根幹をなす。


 なぜなら熟練度を上げることによって無詠唱化が可能になったり、消費するMP(マジックポイント)が減ったりするからであるため熟練度を上げるために何度も同じスキルを使用することによって戦略の幅が広がる。

 ちなみにプレイヤーレベルは100が最高値である。このプレイヤーレベルもスキルの威力、射程、速度、大小といった補正に関わっている。


 この教皇ポープになるまでの道程は長かった・・・と渡はしみじみ思う。


 元々の職業(ジョブ)司教ビショップであり、プレイヤーレベルを上げ、スキルのレベルを上げ、スキルを増やし、司教ビショップ大司教アーチビショップ枢機郷カーディナル教皇ポープ職業(ジョブ)を進化させてきた。


 初期から魔術スキルと治療スキルが使えるのは司教だけとはいえ、他の「基本」職業(ジョブ)よりも経験値が多く必要で、その量はトップクラスである。


 そのため自然発生する同じイベントやクエスト何度も何度も膨大にこなしたり、経験値を稼ぐため湧きモンスターを狩りまくったのは良い思い出である。


 ーーなどど渡が感傷に浸っていると


猊下(げいか)、失礼します」


 と凛としている女性の声が扉の向こうからした。


「ああ、構わない、入れ」


 と渡は言う

 この声はよく慣れ親しんだ声だ

 ーーここまで自然で淀みのない口調ではなかったが。


 ガチャリと音を立てることなく静かに扉が開くと其処には渡と同じような白い上等なローブを羽織り、20代位だろう金髪碧眼の美女が緊張した顔色で此方にしっかりとした足取りで向かってくる。


 その美女のやや後方に悠然としたような穏やかな笑みを浮かべた美女と同じくらいの深い蒼色短髪の長身の美青年、渡から見てその青年の右手には武人を思わせる難しげな顔をした坊主頭の大柄の老年の男性ーーこの二人も白い上等なローブ羽織っている。


 白いと言う意味ではそうだが白銀の鎧を着た黒髪の女騎士、この女性も美人であるーーがその二人に続き、そのどれとも違う真っ黒なーー顔半分を黒で隠し忍者装束のような怪しげな格好をした背の小さいものもいる。


 それらの者達は俺に忠誠を誓うように広間の中央に横並びに並ぶ。

 ーーーしかし見れば見るほど


「やっぱ実際に動いてみると怪しいよなぁ・・・」


 と渡は呟くがその呟きは誰にも届かない。


 金髪碧眼の美女が一歩前に出て、凛とした声で


「ミリティア=エルラロード、レイナス=デーヴァテイン、ゼルハルド=アークウェル枢機郷カーディナル聖騎士パラディンラヴィアラ=ティザード、特務部隊隊長マヨイ=キリカゲ、以下5名、只今参りました」


 と締めくくった。


「う、うん、よく来てくれた。感謝する」


 ーーどうしよう

 渡は困惑していた。

 やっぱり俺はそもそもこういったことに慣れていないし、この顔触れからしたらどうやらこいつらも意思をもっているみたいだし、ちらりと顔を向けたらさっきの狼はもう帰ってきて心配そうに俺の顔色を窺っているし


 もうなるようになれ、と

 ーー渡はかなりヤケクソ気味に



「俺、明日からここ出て行くわ」



「「「「「は?」」」」」


 唖然とした5人と一匹の声が響き渡った。











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