マリッジブルー
デリックは、とにかく器用で多趣味である。
語学はもちろんの事。
スノボーから始まり、サーフィン、ガーデニング、車いじり、ちょっとしたDIYで色んな物を作ってくれる。
料理もその1つ。
好き嫌いがなく、とても優しいデリックに段々と心を開いて行った麻衣子。
「麻衣子。ボクね。夢があるんだよ」
「どんな夢?」
垂れ目のデリックがいつもみたいに優しい口調で麻衣子に語る夢は、麻衣子の父親と一緒に3人で住む事。
デリックにはもちろん両親がいるけど、本当のお父さんじゃない。
本当のお父さんは、飲む、打つ、買うの3拍子が大好きな人で、まだ高校生だったデリックのお母さんを捨てて他の女性の所に行った。
しかも、自分の借金まで押し付けて。
デリック自身、本当のお父さんとは顔も逢わせたくないほど嫌いだと教えてくれた。
「今でも覚えてるんだ。4つの時にさ、お父さんとの面会の時ね。指定の場所に来なかったんだ。あの時、何時来るのか分からないお父さんをずっと待っていたんだ。あんな思いはもうしたくない。もちろん、今のお父さんはボクにとって素晴らしいお父さんだよ」
その話を聞いて思わずポロって涙をこぼしてしまった。
人の痛みを知っているこの人ならば、大丈夫かもしれない…。
「麻衣子…結婚式はどうするんだ?」
兄たちからの言葉に、まだ迷ってる事を兄たちに告げるとため息をつかれた。
ー結婚は承諾したけど、本当にあの人でいいのかなー
麻衣子の薬指にはデリックから渡された結婚指輪が光っていた。
「お兄ちゃん…あのね…」
麻衣子の願いで、結婚式はアメリカですることになった。
高齢の父の体の状態が思わしくなく、日本では白無垢と色打ち掛けの写真のみを撮る事にした。
白い袴に身を包んだデリックと色打ち掛けを着た麻衣子が互いを見つめながらカメラにおさまった。
最後に父を真ん中にして3人で撮った写真は、私の永遠の宝物になった。
「お父さん…私幸せになるからね…」
次の日、涙でぐしゃぐしゃになった父と兄たち夫婦と空港で別れた。
麻衣子はデリックに連れられてアメリカへとお嫁に行った。