プロローグ
「じゃあ。行って来るよ。愛してるよ。麻衣子」
「行ってらっしゃい」
麻衣子はゆっくりと椅子から立ち上がると、ぽっこりと出て来たお腹に手を当て立ち上がった。
「行って来るよベビー」
少し背を丸めて、麻衣子のお腹を摩って来るのは、彼女の夫であるデリック=マーチン。
結婚して8年、それまでは長い新婚生活を送っていた。
また今週末もデリックは泊まりがけでどこかへ行ってしまうのか。
デリックは、フリーのコンピュータープログラマーとして、忙しく働いてる。
2年前からデリックの努力が認められ、複数の会社と契約を結んでいるのは、麻衣子も知っている。
だから、こんな大きな家もローンを組む事が出来たんだもん。
それでも今までだったら、週末は家を空ける事なんてなかったのに。
何か、引っかかる事を思いながらも、デリックに限ってそんなことはないと打ち消した。
そもそも2人が結婚したのは、デリックの一目惚れから始まった。
出会いは日本。
当時学生で、語学留学として日本に来ていたデリック。
道に迷っていたデリックを大学生の麻衣子が助けたのが始まりだ。
デリックにとって麻衣子は、運命の人だったらしい。
日本に留学しているってこともあって、デリックの日本語は本当に流暢だ。
柔らかい言い方もするし、何しろ相手は、アメリカ人。
金髪碧眼ではないけど。
22で、ちょっと頭に来てますよ〜って言うのは、白人の特徴だわね。
何しろデリックの頭は将来キューピー(禿げる要素大!)な寂しくなる確率の高い頭に、大きくてクリクリした茶色い瞳は、垂れ目加減。
そんなにかっこいいとは言いがたいけれど、結構癒されるゴマアザラシの子供のゴマちゃんのようだ。
私達はすぐに仲の良い友達になった。
麻衣子の友人達と清く正しく美しく。
某歌劇団じゃないけどさ。
だって、体許してポイされるのは麻衣子だって遠慮したい。
いつもみたいにデリックと会ってた麻衣子。
「なあ、麻衣子。聞いて欲しいんや」
「ん?何?」
「麻衣子のことが大好きや」
「はいい???」
「結婚して」