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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

対旋律シリーズ

対旋律B

作者: finale

「ただいま」

 今日もあいつが家に帰ってきた。全身から健全な人間のオーラが滲み出ていて、正直一緒に居たくない。

「今日も楽器盗まれてさぁ。ほら、準備室の」

 俺が返事をしない事にもお構いなしだ。さっさと鞄を置いて、勝手に俺のベッドの上に腰を下ろしている。

「で、今日はオーボエだったんだよ。本当に誰がやってるんだか」

 そう言いながら溜息を吐いている。良い気味だと思う。

「とりあえず飯にしようよ。何がいい?」

 いつも通り「なんでもいい」と適当に答えて、俺はパソコンに向き直った。


 三日後。俺は外に出て、ある場所へと向かった。少々の手荷物をバッグに忍ばせて。

 鍵を借りて、その足で目的地へと急ぐ。引き戸を二回開けて、ようやくたどり着いた。

 俺が室内を物色していると、室内の隅からカタン、という音がした。ネズミでも居るのか。

「り、律先せ…………!」

 次いで人の声がした。どうやらさっきの物音はネズミではなかったらしい。

 俺が声の方に首を向けると、青い顔をした少女がびくりとした。目が見開かれ、膝がガクガクと震えている。

 俺が一歩足を踏み出すと、その少女は二歩後退りをした。

 面白い。非常に、面白い。

「残念、俺は優しい律先生じゃないぜー」

 そう追い討ちをかけて、忍ばせてきた手荷物をバッグから取り出すと、少女はいよいよ震えはじめた。

 俺は躊躇することなくそいつを少女の胸に突き立てる。

「――――律先生?」

 突き立てた瞬間に、少女があいつの名前を呼んだ。

 止めろ、あいつの名前を呼ぶな。吐き気がする。

 少量の血が俺の服の裾に付いた。少女はゆっくりと背中から倒れていく。

 もう最期になるだろうから、俺は少女の耳元で囁いてやった。

「俺の名前は栢田麟(かやだりん)、優しい優しい律先生の双子の兄貴だよ」


 翌日の夕方。俺は再び外に出た。行き先は昨日と同じだ。

 音楽室は二階。そこへ続く階段を登っているときに、一人の教員とすれ違った。

「あぁ、栢田先生。今日は大変だったでしょう。お気をしっかり持って下さいね」

 そう言って、その教員は階段を一段飛ばしで一気にかけ降りていった。

 ――また間違われた。まぁ、今間違われなかったらそれはそれでまずいのだが。

 二階に到着し、音楽室の前に立った。微かにピアノの音が漏れてくる。気配を殺して引き戸を開けると、ピアノを弾いているあいつの後ろ姿が見えた。上手い。だが、特に何の感動も起こらない。

 バッグからナイフを取り出して、ゆっくりとあいつの背後に回り込む。まだあいつは俺に気付いていないようだ。あまり面白くないが、その方が都合がいいのも確かだ。

 あいつの背後に立ち、ナイフを構える。

 頭の中で、死ねと呟く。

 俺はあいつにナイフを突き刺した。あいつの体が前のめりに倒れて、ピアノが無秩序な音を奏でた。そしてそのままピアノの横にダン、と倒れ込んだ。声一つなく、あっけなく終わってしまった。今度は、返り血すら付かなかった。

 ピアノの周りに、べったりと血が広がる。

 ――――本当、簡単だよな。

「あーあ、馬鹿が」

 簡単な人間の一人である(あいつ)に軽蔑の言葉を浴びせかけると、俺はコートを翻して音楽室を後にした。

これで完結となります。

お読みくださりありがとうございました。

finaleより、全ての皆様に愛と敬意及び感謝を込めて

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― 新着の感想 ―
[一言] 厨ニ病的な小六の私ですになりますかもです! でも、もしかしたら、変わるかもしれません(´・ω・`)
[良い点] すごくいいですね! 小説の書き方がうまいです!! 見習います! [一言] 私の小説にアドバイスしてくださり本当にありがとうございます! なので、今日は読みにきました!
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