魔法少女の校外学習
2012年2月1日夜、寒空の下、とある公園に、突然、一人の少女が現れた。
「ううー、寒いのう」
と、両腕を抱えて、ぶるぶる震えながら、少女は辺りを見渡した。
「学校で習った50年前の世界、そのままだの。しかし、寒いの。まだ天気を操れない時代は、こういうものなんだの」
ぶつぶつ呟きながら歩いていると、一人の男が頭をたれて、ブランコに腰掛けていた。
「おい、中年、どうした?」
少女が下から覗き込む。
わっと驚き、ブランコから落ちそうになりながら、男が少女を見る。
「何とも死にそうな顔をしているの。いい大人がこんな所で。どうしようもない時代だの」
男の顔をまじまじと見つめ、少女は言った。
「よし! 我輩がお前の願いを一つ叶えてやろう!」
男がぽかんと少女を見つめている。
「我輩は50年後の世界から来ただの! 50年後の世界では、いわゆる魔法と呼ばれるものが発達している。2012年の人類レベルの願いを叶えることなどたやすいのだの!」
何言ってんだこいつ、と言いたそうな顔を男がする。
「人を馬鹿にする表情は、昔も今も変わらないんだの」
「ほら、中年、何か願いを言ってみろ」
いつの間にか手にしているステッキを男に向けて振り、少女が催促する。
しぶしぶと面倒くさそうな顔をしていた男は、何か閃いたかのように、小声で呟いた。
「何? ペット? 犬とか猫とかかの?」
男は首を横に振り、ポケットから雑誌の切れ端を取り出して、少女に見せた。
それを見た少女の頬が赤らんでいく。
「本当にどうしようもない時代だの! だから、あんなことが起きるんだの!」
と言った少女は、はっとして口を手で塞いだ。
様子が変わった少女を男が見ている。
「はは、何でもないだの。ほれ、お前の望みのものだの」
少女がステッキを振ると、男が望んだものが現れた。
「じゃあの。いい夢見ろよの」
驚く男を後に、そそくさと少女はその場を離れ、最初に現れた場所に戻ってきた。
「今の我輩の力では、一人の中年を驚かすのが精一杯だの。もっと勉強して、大人になったら、もう一度やって来て、必ずあれを食い止めてやるだの!」
拳を握りしめた後、少女はふっと力を抜き、手のひらを開いた瞬間、その姿が公園から消えた。