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高橋君と猫 4

「ごめんねー、高橋君」

 商店街を抜けたところに、公園がある。

 滑り台と砂場だけの、ほんとに小さな公園なんだけど、私と高橋君はそこへやってきていた。

 小さな砂場の前に置いてある、二人がけのベンチに腰掛けると、私は目の前に立つ高橋君を見上げた。

 高橋君は小さく首を振る。

「いや・・・」

「高橋君は今日、部活だったんだ?

 ね、黒ネコさんに会ってきた?」

 高橋君はひとつ頷く。ふふっと私は頬を緩めた。

「そっかぁー、私、休みの日は学校行かないから・・・

 黒ネコさん、かわいいよねぇ~!私昨日、ちょっと感動したよ」

 4日前まで近寄りもしなかった黒猫さんは、昨日、私の足元でご飯を食べた。

 逃げないかな?とおっかなびっくり伸ばした指が触れた小さな頭の感触に、ほんのり胸が温かくなった。

 そっと撫でた毛はふわふわで、愛しかった。


「ねぇ、高橋君は猫派、それとも犬派?

 私はねー、犬派だったんだけど、断然今は猫派に変わっちゃったよ!」

 調子に乗って話していた私はそこで、なんだか微妙な表情をしている高橋君を見つけてちょっと口を噤んだ。

「ご、ごめん、うるさかった?」

「いや・・・」

 また軽く首を振りながら、じっと私を見下ろしてくる。

 その不思議そうな目の色に、私はことりと首を傾げた。なにかな?

「・・・人見知りしないんだな」

 見つめ返せば、ちょっと迷った素振りを見せた後でそんな言葉が返ってきて、私は軽く目を瞬いた。

 え。

 ひとみしり?

「・・・・・・ぷっ」

 思わず吹いてしまい、慌てて堪えようとしたんだけど、ツボに入ってしまったらしく、なかなか止まらない。

 えっと、うん、多分、ほんとは何を言いたかったのかはわかったと思うよ、高橋君。

「・・・そこまで笑うか」

 ぷるぷるとまた肩を震わせて笑っていると、憮然とした様子の高橋君が目に入って更にそれが笑いを誘った。

 

 あーなんか、かわいいかも。

「うん、私、お家の職業柄人見知りはあまりしない方かも。

 あ、でも、高橋君のことはちょっと初めは怖かったかな?」

 くすくすと笑いながら、恐らく訊こうと思って何故か方向転換したのだろう、本当に訊きたかったことへの答えを言うと、ぷいと高橋君が顔を逸らした。

 その顔が少し赤いように見えるのは気のせいじゃないと思う。

 よいしょと私は高橋君を見上げたまま立ち上がった。

 背の高い高橋君に近づくため、背伸びする。

「ていうかこの眉間の皺がねー、ただでさえ目つき悪そうなのに、怖く見えちゃうんだと思うのよ。

 もったいないなぁ」

 せっかく、よく見ると男前なのにね?

 今も寄ってるその皺を解そうと指を伸ばすと、その手が届く前にがっしりとした大きな手のひらが私の手首を包んだ。

「・・・大きなお世話だ」

 そう言いながら、そっと捕まえられた手首を降ろされる。

 言葉とは裏腹のその丁寧な手つきに、私はどきりと心臓が飛び跳ねたのを感じた。

 えっと。あれ?

 今私はナチュラルにいったい何をしようと・・・!

 一気に体温が顔に集まったのがわかった。

「ご、ごごごごごめんっ」

 ぎゃー、何しようとしたの私っ。

 慌てて後ずさると、砂場の砂が散らかってる石畳の上で、ずるりと足が滑った。

 ひょえ、こける・・・!

 後ろに倒れて行こうとしたところで、大きな手のひらがまた私の手首をとり、もう片方の腕が私の腰を支えてくれて、転倒をまぬがれたことを知る。


「・・・そそっかしいと言われないか」

「ええっと・・・ごめんなさーい・・・」


 助けてくれたのは、当たり前だけど高橋君なわけで。

 ため息混じりにそんなことを言われ、吐息が触れる距離に心臓がどきりとした時にはもう、大きな体が静かに離れていった。

 前にもこんなことあったような。

 いやもうほんと、すみませーん・・・


 申し訳なくって小さくなっていたら、また高橋君の眉間に皺が寄って、私を見た。

「・・・月曜日」

「え?」

 ぽつりと零れた声に聞き返すと、ふいとその目が逸らされる。

「また、昼休みに校舎裏に、行く」

「―――・・・」

 私は目を瞬いた。

 ええっと、それって。

「黒猫さんに、会いに?」

「・・・・・・・」

 ちらりと目線が返ってきて、それが『YES』の返事だとわかった。

 そっか。

「じゃ、私も昼休みに行くね!」

 にっこり笑顔でそう言うと、少しの沈黙のあと小さな頷きが返ってきた。

 


 ―――それからしばらくの後。高橋君は駅へと向かうため、そして私は店へと戻るため、この公園の前で別れたんだけれど。

 私の心の中はなんだか浮き足立っていた。

 だってさーちょっと嬉しかったのよ。

 あの無愛想な高橋君が、まさか誘ってくれるなんて。

 ちょっと私に心開いてくれたのかなーなんて。

 そんなことを考えて知らぬ間ににこにこ笑っていた私は、要らぬ勘違いをして私達を送り出したお母さんのことをすっかり忘れていた。

 おかげで店に帰ったときには、「あら愛那ちゃんご機嫌じゃない」と根ほり歯ほり高橋君のことを突っ込まれることになってしまい、勘違いを解くために四苦八苦する羽目になってしまったのでした・・・とほほ。

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