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 二人で手を繋いで階段を降りていく途中で、私はそういえば、と思い出して顔が青くなった。


「高橋君、視聴覚室の準備室のドア、どうしたの?」

「・・・・・・」 


 はた、と二人で顔を見合わせて沈黙した。高橋君の眉間には、出ました、いつもの皺が寄っている。

「・・・・・謝りにいくか」

「う、うん。私も行く」

 そうして、二人で2階まで降りて視聴覚教室の前までやってきたんだけど。

 そこには、今回の元凶たちが勢ぞろいしていた。


「あっ」

「え、戻ってきたの?」

 鈴木さん、凜、そしてさっきも思ったんだけど何故か氷室までいる。

 3人で、視聴覚教室の前でなんだか井戸端会議のような雰囲気を繰り広げていた。

 一瞬、呆然としていた私は、はっとして高橋君と繋いでいた手を慌てて振りほどいた。

 けど、皆にはすでに見られてしまっていたみたいで、生温かい視線を向けられて真っ赤になる。

 恥ずかしさを誤魔化すように、私は凜に怒鳴った。

「ちょっと凜!これ、どういうことなの!」

「あははは。ちょっとしたおせっかいかな?」

「ちょっとじゃない!」

 私の隣で、高橋君がむっつりとした表情で言った。

「・・・どういうことだ」

 なんだかかなり不機嫌そうだ。その視線は、氷室に向いてる。

 氷室は、にやっと性格悪そうな笑みを浮かべた。

「俺は、この前の体育祭の仕返しと、それと・・・まぁちょっとした条件付で手伝っただけだ・・・そうだよな?」

 と言ってちらりとその視線は何故か小さくなってる鈴木さんに。

 急に話を振られた鈴木さんはぎくっと肩を揺らしながら、きっと氷室を睨みつけた。

「わかってるわよ!約束は守ります!」

「まぁ期待してることにする」

「その言葉、忘れないでよね!」

 と強気に返しながら、鈴木さんは今度はすまなそうに私を見た。

「・・・ごめんね、井上さん」

「え、えーっと」

 言葉に困っていると、隣ではあっと高橋君がため息をついた。

「なるほど、俺は嵌められたわけか」

「・・・へ?」

 聞き返すと、高橋君が眉間に皺を寄せたまま私を見下ろした。

 なんだか疲れたような目、だった。

「・・・放課後、工藤が俺の教室に来て、言った。井上が教室に帰って来ないと。

 井上を連れて行ったのは、前にも呼び出したことのあるクラスメイトなんだと、ものすごく意味深な言い方だった。

 おかげで俺は井上が苛められてるんじゃないかと勘違いした」

 そこまで言った後で、じろりと高橋君は凜をにらみつけた。

「視聴覚教室に入っていくのを見たから、どうにかしてくれと―――そう言ったな?」

「えーっと、ごめんね?

 でもまさか、ドアを蹴破るとは思わなかったよ。入り口、他にもいっぱいあったのに」

 肩をすくめながら、あんまり申し訳なさそうには見えないのんびりとした笑顔で、凜が言った。

「窓とかもあったでしょ?

 見かけによらず、熱血型なんだね、高橋君」

「・・・大きなお世話だ。

 それより、もしかして、昼休みのもわざとか・・・そっちこそ、見かけによらず趣味の悪い」

「あははは・・・」

 笑って誤魔化すようにして、凜があっさりと高橋君の視線をかわすようにくるりと身を翻した。ひらりとスカートが舞う。

「ごめんね、その代わり、ドアはみんなで壊したことにするから。今からセンセイのところに行くところだったんだ」

「・・・というか、なんで俺まで」

「毒を食らわば皿までって言うじゃない!ほら、行こう」

 凜の後を追うようにして、ぶうぶう文句を言う氷室の背中を押して鈴木さんも後に続く。そのさなか、ちらり、と氷室がこちらに視線を向けて、にやっとあの胡散臭い犬っころスマイルを頬に浮かべた。

「じゃあなー、お二人さん」



「・・・・・って、私達も行かないと?!」

 思わず皆を見送った後で、我に返った私はそう言って後を追いかけようとしたんだけど。

 くい、とその手首を引っ張って、高橋君が私を自分の下へ引き寄せる。

「た、高橋君?」

 眉間に皺を寄せた高橋君はじっと視線を氷室達の背中に向けていて、私の声にふっと瞳を戻した。

 なんだかちょっと機嫌が悪い、気がする。

「井上」

「は、はい」

 背の高い高橋君を見上げると、高橋君は私を見つめた後でふっと目を細める。

 なんだろうとどぎまぎしていると、ふいにその男らしい顔が近づいてきた。私の顔に影がかかる。


 額に柔らかい感触がして、ええっ?!とパニック状態になる暇もなく、ぎゅっと軽く、抱きしめられた。

「なっ・・・なっ・・・なっ」

「消毒だ・・・すごく不本意だが、腹が立つ」

 なんだか少し不貞腐れたような口調でそんなことを言うと、腕を解いて、そのまま私の手を取って握った。

 相変わらず眉間に皺を寄せたまま、けれどほんの少し表情を緩ませて、高橋君が言う。

「行くか」

「う、うんっ」

 手を繋いだまま引っ張られてて、私は顔を真っ赤にしたまま高橋君の後を付いて行った。


 ・・・消毒って、腹が立つって・・・

 思い当たったのは、さっきまで氷室に向けられていた不機嫌そうな視線。

 昼休みと、さっき。私が氷室に触れられた場所に、高橋君は触れた。


 うわあ、うわあ、どうしよう、すっごく恥ずかしい・・・!

 もしかしてこれってやきもち?

 思わず口元がにんまりと緩んでしまった。

 どうしよう。

 

 すっごくしあわせ。


 きゃーっ!とそこら中叫んで回りたい気分だ。のた打ち回りたい。

 誰彼かまわず叩き合って、このきゅんきゅんする気持ちを、分け合いたい。


 そんな馬鹿なことを考えながら、私と高橋君は視聴覚教室のドアを壊したことを謝るために、凜たちの後を追って職員室へと向かったんだけど。


 えっと、うん。

 このことに関しては、やっぱりちょっと凜には感謝、してもいいかな。


 なんてこっそり、心の中で呟いていたり、した。





 連載開始から約8ヶ月間、ほんとうにありがとうございました。


 当初から考えていたより物語が長くなったり、設定やらプロットがぐちゃぐちゃになったりしてもう、途中で頭の中死にそうになりましたが、なんとか完結することができました。本当に、読んでくださった皆様のお陰です。

 いろいろ、物語について書きたいことはあるのですが、残りは活動報告のほうに記したいと思います。

 心より、感謝を込めて。

 ありがとうございました!次話より、本編対になる高橋君視点が始まります。興味のある方は、もう少しお付き合いくださると嬉しいです

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