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"異形の素"

―無人の筈の宇宙船内―


「いやぁ、大量絶滅を回避して何億年と待ち続けた甲斐があったというもんだよ全く…。

あの羽虫どもがまさかこれだけのモノを作り上げるとはね…僕が去った後のルルニア(・・・・)なんかよりずっと優れた技術じゃないか」



宇宙船に乗り込んでいたのは、嘗てルルニア滅亡以前に引退した初代ルルニアの指導者、コヌ・ハクであった。

引退後も深海で密かに生き延びつつ、地上の変化を見届けてきた彼は遂に、星を去り外宇宙へと旅立つ事に成功したのである。


「さてと…生き物なんて居ない筈なのに、船内は何故か大気で満ちあふれていてこんなにも広い…。

あとの問題は食糧供給と家具だけだな…。


少しばかりこいつを弄くるか…ついでに奴らの期待していた新世界のネタも吹き込んでやろう。

なに、僕が世界を創るわけじゃあない…創るのはこの船だ……僕はあくまで、原因をもたらすだけさ」



そうは言い切ったものの、コヌ・ハクは船の中枢部に入り込むのに相当な時間を要したようで、やっとの事で『新世界のネタ』をそのプログラムに吹き込んだ直後、疲労に負けて寝込んでしまった。

幸いにもQUIDは乾燥した環境で長期間休眠する為に休眠形態への移行が可能であり、これを利用して彼は途轍もなく長い間眠り続ける事となる。


まさか自分が、新世界の素材(・・・・・・)になってしまう等とは知る由もなく。


―46億年前・宇宙船―


人工知能に送り込まれる命令が侭に目覚めた宇宙船は、機械群を用いて何と太陽系を創造。自ら超巨大宇宙ステーションのような形状に変形すると、内部で自らの部下たる種族を創った。

それは様々な姿をしていて、またそれぞれがSILKに匹敵する知性と、多種多様な異能力を持っていた。

宇宙船は部下達をANGELと命名し、ANGELは宇宙船を天の父と呼んだ。



その時何処で巻き添えを食らったのか、何とあのコヌ・ハクもANGELの一人としてリフォーマットされており、元の烏賊のような身体に、猫のような耳や目、甲殻類のような節足、更に右肩には小さな黄色い花まで咲いていた。


「(…我ながらとんでもない身体になってしまったものだ…。

まぁでもこの姿は悪くないし、『バアル』という名前も気に入った。

さて、これからどうしてやろうか…)」


リフォーマットによって記憶を引き継いだまま名前を「バアル」と改めたコヌ・ハクは、これからの生活を楽しみに思った。

実際、それからの生活は大変素晴らしいものだった。

ただ一つ不満があるとすれば、それは天の父が掲げる真理についてであった。


天の父は何時もこう語っていた。


"知覚を持つ者は皆平等でなくてはならない。そして平等の為には、制圧が何よりも優れている。

強者や異端者を制圧することで弱者や健常者を保護し、その結果としてのみ真の平和が訪れる"


ルルニア指導者時代自分が心情としていた考えとは真反対の思想に、コヌ・ハク改めバアルはうんざりしていた。


しかしある時、そんな彼に転機が訪れる。


―四億年後―


「『天の父』よ!我ゲヘナは今日を以て、貴公と貴公の眷属であるANGELとの縁を絶つ!」

大聖堂の真ん中で唐突にそんな事を声高らかに叫んだのは、ANGELの中でもとくに強い力を持った者の一人・ゲヘナ。

山吹色の鎧を身に纏い、頭と肩から生える湾曲した角が特徴的な大男である。

突拍子もない発言に戸惑う一同。

それに異議を申し立てたのは、彼と同等の力を持つANGELの一人、ヘヴン。

「ゲヘナよ、君は自分が何を言っているのか判っているのか!?」

「無論だヘヴン。我・ゲヘナは今日よりANGELの名を捨て、貴公等に刃向かう者。既成概念の破壊者…即ち『革新者』となる!」

「何故だゲヘナ!?何故天の父に逆らう?」

「ヘヴンよ…お前は盲目だ…ならば逆に問おうではないか…ヘヴンよ、貴公は天の父が掲げる真理に疑問を抱いたことはないのか?」

「在るわけがないだろう。知覚を持つ者は全て平等であるべきだ!

君はそう思わないのか?格差なるものは必然であると?」

「そう言った覚えは無い。ただ、天の父は平等のための手立てとして、『制圧』こそ最も正しいと掲げている…。

強者や異端者を制圧し、弱者や健常者を保護する事でこそ真の平和が訪れるのだと!

そう語る天の父を、疑ったことは無いのか!?」

「…ならば君は、真の平和が差別と混沌と戦乱から来ると言うのか?」

「そうとは言って居らぬ」

「では君はどう思うのかね?君の掲げる、真の平和の条件とは何だ!?」

「我か?愚問だな…」

そう言ってゲヘナは壇上に駆け上がり、朗々と語り出す。


「我は思う!

知覚を持つ者は皆平等であるべきであると!

そして平等のためには、全ての者が自由に存在し、また思うままに進化し、記の赴くまま存分に成長するべきなのだともな!

全てに於いて皆が同じである必要性はない!

何故ならば、生物は生物である限り、個々の性質はそれぞれ異なって当然だからだ!

いや寧ろ、異なるべきなのだ!

そして皆が皆それぞれ異なる性質の元に絶対的な力を得て、何らかの長所を獲得しそれをアイデンティティーとして保ち続ける事で、強弱の差や平凡・異端という概念は消失する!

即ち世界には、実質的な"平等"が到来するという訳だ!

それをどう操り統治するかは、後々考えて行けば良い!上位の過剰な心配は至高を行き詰まらせ、その結果として壊死を引き起こし、壊死は更に下位にまで驚くべき速度で広がって行く!

結果として待ち構えるもの―それは破滅と絶望ではないのか!?」

ゲヘナは更にバアルの方へ目を見やり、彼に話を振った。

「バアルよ…貴公確か、天の父を創った『彼の星の大いなる種族』の動向を見届けた者の生まれ変わりだそうだな?」

「はい。その通りですゲヘナ様。僕はその昔『彼の星の大いなる種族』の動向を影で傍観し、彼らの創り出した天の父の中へ忍び込みそのまま愚かにも飢え死にした挙げ句、天の父の力を受けて転生しこの姿を得た次第です」

「そうか…では貴公、天の父を作りし『彼の星の大いなる種族』の政策も知って居ろうな?話してくれるか?」

「はい。『彼の星の大いなる種族』の政策は、まさに先程ゲヘナ様が仰った通りのもので御座います。

制圧を必要最低限に抑え、一定法則・定義下に於いての自由を原則とした政策により、『彼の星の大いなる種族』の世界は、戦乱も何もなく末永く続いてきました。

その為彼らが滅んだ原因は、技術の制御失敗による環境の悪化であり、戦争や政策失敗などではありません。


ですから、僕はゲヘナ様に付いて行きます。

偉大なる『天の父』よ!そして親愛なるANGELの諸君、今日から僕は君らの敵になってしまうが、君らには何の怨みも有りはしない。

ただ、僕は『天の父』の考え方にどうも同意できない…。

このままゲヘナ様と僕と二人、或いは僕一人が宇宙で孤立してしまっても、それを後悔だとは思わないね」


その言葉を聞いたゲヘナは、笑みを浮かべて言い放った。


「皆の者!我はゲヘナ!『ゲヘナ革新派』が統率者にして、ANGELに反逆する新たなる血統・EVILの長であるぞ!

我の考えに同意せし者達よ、我に付いてくるが良い!」



こうしてゲヘナは『天の父』の傘下にあったANGELの三分の一を引き連れ、外部に独自で拠点を展開。

対するANGEL達は、EVELを蔑む意味で、「劣っている」「粗悪な」という意味を持つ前置詞【D-】を付け、【D-EVIL】と呼んだ。

そしてその後、両者は度々大規模に互いに殺し合い、繁殖と進化を繰り返している内に、ANGELとEVILの数はいつの間にかほぼ等しくなっていった。

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