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『小説家になろう』公式企画

コズミックキャリアーズ「一等星」

作者: 敷知遠江守
掲載日:2026/03/12

「へへへ。アニキ、今回の輸送は楽勝でしたね! 帰りの荷物は漁網だけ。雑に運んだって壊れるもんじゃねえときたもんだ」


 運転席のモニターに映ったむさくるしい男が大口を開けて高笑いをしている。

 そのモニターの隣には航路図が表示されており、中心に自機を現わす三角のマーク。前面の窓からは漆黒の闇という大宇宙。さすがはオートパイロット、小さなデプリは気にしないが、大きなデプリはちゃんと避けて航行してくれる。そのせいで、モニターの男と話している間も姿勢制御バーニアから空気が噴き出すプシュっという音が聞こえてくる。


「おい、ジョニー。てめえのとこの社長にちゃんと手土産は持たせて貰ったか? それがねえとラオピン星の宙域を通してもらえねえぞ」

「ちゃんと持たせてもらいやしたよ」


 ニンマリと笑ってジョニーが紙袋をカメラに近付けた。紙袋の絵柄は縁起物の七福神。下には「しげもり」と書かれている。どうやらこちらの社長と同じ店で購入したらしい。こちらの足元にも同じ柄の紙袋が置かれている。


「どうですかアニキ、暇つぶしに一局対戦ゲームでもやりませんか?」

「良いねえ。俺も丁度、お前のむさい顔のアップにはうんざりしてたとこだったんだよ」


 問答無用でジョニーが映っていたモニターをゲーム画面に切り替える。そこからはジョニーの顔は見えず、声のみが届く事となった。


 ◇


『間もなく、休憩時間となります。星間労働基準に基づき、次の休憩所に向かいます』


 ゲームも丁度佳境というところで、目の前のパネルから女性のマシンボイスが聞こえてきた。それと同時に輸送艦は減速したようで、ぐっという、内臓を押さえつけられたようなちょっとしたGを感じた。こういうところは、観光船ではなく輸送艦。優しくはできてはいない。


 前の窓には若干緑かかった星、カムラン星が見える。港の扉は開けられており、そこに輸送艦は侵入していった。

 達筆な文字で『一等星』と描かれたパネルが運転席の外にかけられている。その周囲には派手な電飾。そして長方形の輸送艦全体に、でかでかと弁財天の絵が描かれ、その周囲も電飾がビカビカ。休憩星でも一際目を引いている。いわゆる『装飾艦(デコキャリアー)』。

 その隣にジョニーの輸送艦が停船した。ジョニーの輸送艦にも絵は描かれているのだが、『777』と真っ赤な文字が描かれ、その周囲を金のコインが降っているという絵柄。当然その周囲には派手な電飾。


 二人仲良く食堂で食事を取っていると、一人の女性が血相を変えてやってきた。


「あんたでしょ、一等星って運び屋(キャリアーズ)は! ウラシマっていうあんたの舎弟、あいつがヤバいよ」


 その女性も運び屋であった。話によると、ウラシマは肝が小さいくせに派手な輸送艦に乗っているという事で、以前から変な連中に目を付けられていたのだそうだ。どうやらウラシマが食事をしている間に、そいつらがウラシマの輸送艦に忍び込んで手土産を盗んでしまったらしい。ウラシマが出航した後で、そいつらが笑いながら話しているのを、女性は偶然聞いてしまったのだとか。


「アニキ、ウラシマのやつを追いかけやしょう。追いかけて俺とアニキ、二つの手土産で三台分って事でなんとか通してもらいやしょう」

「……そうだな。でないとラオピン星の奴らに何をされるかわかったもんじぇねえからな」


 女性に雑に礼を述べ、二人は慌てて輸送艦へと戻った。


 ◇


『まだ星間労働基準に基づいた休憩時間が取れていません。法律の順守を心掛けてください』


 運転席に座るや、運転パネルが警告を発してきやがった。


「うるせえ! 舎弟がピンチなんだよ! こっからは俺が運転する! 制御をよこしやがれ!」


 緊急操作ボタンを押し、パネルを操作してオートパイロットを停止。すると、それまで収納されていたハンドルとシフトレバーが現れる。レバーをバックに入れ、思い切りアクセルを踏んだ。

 背後から誰かに押されるような感覚に耐えながら輸送艦を休憩星から出航させ、レバーを一速に入れて一気にバーニアを噴射。さらに二速、三速、四速と上げていく。目の前のメーターが速度超過の警告音を発しているが、そんなものはお構いなし。とにかく今はウラシマに追いつく事が肝要。


 後方のモニターにジョニーの輸送艦が見える。前の看板には『フィーバー』の文字。やつもどうやらオートパイロットを切って追いかけてきたらしい。


「どれ、景気付けに演歌でも流すか!」


 本来無音であるはずの宇宙に古めかしい演歌が流れ始める。

 宇宙には道路などというものは無い。あるのは航路だけ。航路は定期的に保守艦が航行して、小さなデプリを排除している。だが今二人が通っているのはそんな舗装された航路ではない。大小のデプリが容赦なく二台の輸送艦を襲う。パリンパリンとデプリが電飾を砕いていく。

 演歌のゆったりとした流れに全く相応しくない輸送艦の航行速度。だが、その力強さには同調はしている。


「見えたぞ、ジョニー! 案の定だ! ウラシマの奴、ラオピン星の警備隊に追われてやがる!」

「たかが土産が無いってだけで犯罪者扱いとか、どうなってるんでしょうね、ラオピン星ってのは!」


 プシュンプシュンとバーニアから空気を噴き出し、必死に逃げようとするウラシマの輸送艦、その輸送艦に向けてラオピン星の警備隊の軍艦がビーム砲で攻撃をしている。当たり前の話だが、輸送艦と軍艦では出せる速度が全然違う。ウラシマは必至に逃げているが、軍艦は簡単に追い付き、直撃を避けて攻撃をかすらせている。


「あいつら、いたぶって遊んでやがる……なんて奴らだ」

「ですけど、アニキ、こっちは輸送艦、鉄砲なんて積んでませんぜ。どうするです?」


 眉を寄せて不安そうな顔をするジョニーを、モニター越しで鼻で笑った。


「知れた事よ!」


 アクセル全開。後方の大きなバーニアから猛烈な勢いで空気が噴出される。まだ生成したばかりなせいか、高熱らしく薄っすらと色が付いている。


「さすがアニキだ! 思い切りが良いや! ウラシマ、待ってろ! 今助けてやるからな!」


 ジョニーの輸送艦も同様にバーニアが大量の空気を噴き出した。

 二人の輸送艦が慣性の法則に乗って猛烈な速度で軍艦に突っ込んで行く。


「そこの輸送艦! 止まりなさい! こちらはラオピン星の警備隊! 止まりなさい!」

「聞こえねえな!」

「そこの輸送艦! 止まりなさっうわあああああ!」


 質量の違いで軍艦の後部のバーニアが派手に吹き飛び、ついでに艦の後ろ半分が吹き飛んでしまった。残されたのは前部分のみ。ひしゃげた艦の断面から、なにやらチリチリと火花が飛んでいる。恐らくは航行不能。追突の衝撃で中の奴らは失神している事だろう。


「一等星のアニキ! ジョニーのアニキも! すまねえ、助かったよ……」

「良いってことよ。こんなとこ、とっととずらかろうぜ。そっちの艦はまだ動けるか?」

「それが、メインバーニアを潰されちまったんだ」

「なら牽引ロープ出すから、それに捕まって付いて来い。次の休憩星で応急修理して、ミチノク星まで一緒に帰るぞ」


 二隻の輸送艦から牽引ロープが伸ばされ、それをキャッチして、三隻並んで次の休憩星目指して航行を再開した。


「ですけどアニキ、警備隊にあんな事しちまって大丈夫なんですか?」

「心配すんなジョニー。向こうも違法な取り締まりしてやがったんだ。文句は言えねえよ。むしろこれで少しは大人しくするってもんだ」

「さすがは俺たちのアニキだぜ」


 電飾がボロボロになった三隻の輸送艦が広い広い宇宙を進んで行く。力強い演歌と共に。残された電飾は、遠目に見たら宇宙の星々のようにも見えるだろう。そして辛うじて残った看板。そこに描かれた文字は『一等星』。


 宇宙の物流は今日もこんな荒くれたちによって守られている。

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