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言葉は鉛になる ―声が凶器になった世界で、最も危険な声を持つ男―  作者: 景都 (けいと)
裏切りの声

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22/29

#22 漏洩

 朝倉の集会の翌日。VMBの管制室に緊急報告が入った。


「世界三箇所の飽和域で、同時に異常な構文反応を検出しました」


 スクリーンに世界地図が映る。出雲(日本)、チチカカボリビア、ギザ(エジプト)。三つの飽和域が赤く点滅していた。


「飽和域の深部に——大沈黙の楔とは異なる構造物が存在することが判明しました」


 氷見局長が言チームを呼んだ。


* * *


 分析室。言は出雲飽和域の地下構文データを構文聴覚で再分析していた。


 石室の記録を解読したとき、言の構文聴覚は「楔」を聴いた。大沈黙の封印を支える構造の一部。だが——楔の更に深い位置に、別の構造がある。以前は聴き取れなかった層。第三段階の構文聴覚が成長したことで、ようやく感知できるようになった何か。


 構文聴覚を限界まで深く沈めた。


 ——聴こえた。


 楔の奥に、巨大な構文の核がある。楔が「杭」なら、これは「基礎」だ。大沈黙の封印システム全体を支えている中核構造。世界各地の楔がこの核に繋がり、全人類の発話に抑制構文を付加する源泉となっている。


 言はメモ帳に書いた。


『楔の奥に中核構造がある。大沈黙のシステム全体を支える基盤。これを——封印核と呼ぶ』


 詠がメモを読み、顔色を変えた。


「……それを見つけたか。封印核は、大沈黙の心臓だ。これが壊れれば——封印は崩壊する」


 律が端末を操作した。


「三箇所で同時に検出された異常構文反応。出雲、チチカカ湖、ギザ——全て古代聖地に位置する飽和域です。封印核は複数存在する?」


 詠が答えた。


「三つだ。五千年前、文法守は三つの封印核を世界に設置した。一つでも壊されれば——大沈黙は急速に劣化し、大解沈が前倒しになる」


 沈黙が落ちた。


 言はメモ帳に書いた。


『朝倉もこの情報を持っている可能性がある。情報漏洩の経路を特定しなければならない』


 氷見局長の声がインターホンから流れた。


「篠宮さん。封印核の防衛計画を立案してください。三箇所同時の監視体制が必要です」


 ブレスレットに指先が触れた。


 封印核。大沈黙の心臓。それが三つ、世界に散らばっている。


 そして朝倉は——それを壊すつもりでいる。


* * *


 情報が漏れている。


 封印核の発見から三日後。原声会のSNSアカウントが、封印核に言及する声明を公開した。「大沈黙の心臓が見つかった。これを解放すれば、人類は本来の声を取り戻す」。


 内容は正確だった。封印核の存在、三箇所の位置、大沈黙との関係——第零班と氷見局長しか知らないはずの情報が、原声会の手に渡っている。


 言はメモ帳を握りしめた。


* * *


 VMB本部。氷見局長が緊急会議を招集した。


「情報漏洩の経路を特定します。第零班の四名、藤堂教授、管制室の職員三名——封印核の情報にアクセスできた人間は限られている」


 律が端末を操作した。


「アクセスログを精査します。データベースへの接続記録、端末の使用履歴——」


 言は構文聴覚を会議室の全員に向けた。声の色を聴く。嘘の色——黒——が混じる人間がいないか。


 ——いない。


 会議室にいる全員の声に、黒は見えなかった。全員が嘘をついていない。


 メモ帳に書いた。


『構文聴覚で確認した。この場にいる全員、嘘をついていない。漏洩元はこの場にいない人間か、あるいは——嘘を介さない方法で情報が流出している』


 氷見が眉をひそめた。


「嘘を介さない方法とは」


『例えば——本人が漏洩の自覚なく情報を渡しているケース。あるいは、端末やシステム経由の技術的な漏洩』


 律が言った。


「もう一つ可能性があります。第零班のフィールドサポート要員——梶原司捜査官。封印核の情報にはアクセスしていませんが、出雲調査の一部データには触れています。間接的に推測可能な情報があったかもしれません」


 言は律を見た。律の眼鏡の奥の目が冷静だが、厳しかった。


 梶原捜査官。出雲調査以降、第零班のフィールドサポートとして配属されていた男。三十代。真面目で寡黙。言とは何度か筆談を交わしたことがある。


 ——まさか。


 ブレスレットに触れた。


 疑いたくなかった。だが——疑わなければならなかった。


 会議室を出た後、言は分析室の窓辺に立った。東京の夜景が目の下に広がっている。構文聴覚が、街のざわめきを拾う。抑制構文の脈動が、先月よりも確実に弱くなっていた。


 封印核の防衛。情報漏洩の特定。朝倉の動きの監視。——問題が同時に三つ走っている。


 紬が隣に来て、タブレットを差し出した。


『考えすぎの顔してる』


 言はメモ帳に書いた。


『考えなければならないことが多すぎる』


 〈だったら、一つずつ。今夜は休んで〉


 言は紬を見た。紬の表情は穏やかだった。声のない世界の住人が放つ、静かな安心感。構文聴覚の負荷が、ほんの少し軽くなる。


『……ああ。そうする』


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